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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
6章 It takes all the running you can do, to keep in the same place.
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57 ノンノピルツの女王、イザベラ

 俺はネリーを追いかけ続ける。ウサギのくせに二本足で走っている。徐々に距離を詰めていくと、この二足歩行の白うさぎは、「おくれちゃう、おくれちゃう! おくれちゃうの! たいへんなの!」と独り言を言いながら、右手に持った懐中時計を見つめながら走っている。

 

 もう少しで右手が届く…… という所で背の低い生け垣の穴へと入られてしまった。俺は、四つん這いになって進むしかない。せっかく詰めた距離がまた開いてしまう。が、俺はどこまでも追いかけるつもりだ。


 生け垣を抜けても相変わらず森の中。直径1メートルほどの薔薇が広葉樹に咲いていたり、根っこを自らの足として動き回る薔薇の花。そして、その動き回る薔薇は俺を襲って来る。これも、赤の女王が生み出した魔物だろうか? 自然に産まれたとは思えないような魔物。木の魔物であるウッドンに無理矢理薔薇の花を接ぎ木したらこんな魔物が産まれるかも知れないが、そんなことを実際にやろうとするのは正気じゃ無い。


 ネリーの足跡を追っていくと、森の中にある一軒のログハウスがあった。俺は警戒をしながらその小屋の中へと入っていく。小屋の中は、魔女が住んでいそうな小屋だった。小屋の中には大量の棚があり、そしてガラス瓶が所狭しと並べられている。ガラス瓶の中には、トカゲの尻尾、コウモリの羽、何かの草を乾燥させたような干し草が詰まっている。また、別の棚には、怪しげな赤、緑、黄色などの原色の液体が詰まった瓶が並べられている。かまどには、煮込み用の鍋。真っ当な薬を作っているとは思えない。


『がさっ』という物音が俺の背後からした。俺は剣を抜かず、鞘を音のした方向に振り回した。


 がちゃん、と俺の鞘と棚がぶつかり、棚にしまわれていたガラス瓶が床に落ちる。そして緑色の液体が入ったガラス瓶は床に落ちて砕けた。そして砕けたと同時に強烈な臭気が小屋の中に充満した。

 

 臭っさ。なんだこのヨモギが腐ったような匂いは……。


 俺は、堪らず小屋から飛び出し、小屋の外で誰かが出てくるのを待ち構える……が、誰も出て来ない。気のせいだったのか? と思った瞬間、窓ガラスが割れる音が小屋の反対側から聞こえた。


 小屋の反対側に回ると、割れた窓ガラスとそして森の奥へと進んでいくネリーの後ろ姿。


 しまった!! 出口は扉だけとは限らないじゃないか……。小屋の扉の前で待ち構えていた自分の阿呆さ加減に呆れながらも、ネリーを追っかける。


 森を抜け、庭園のようなところに入っていく。俺の身長の倍ほどの高さの生け垣の庭園。まるで迷路だ……。同じようなところを回っているような感覚になる。


 生け垣を曲がると、広い庭に出た。大きなテーブルが1つ。そして赤い服を着た女性が紅茶を飲んでいた。


「あら? 突然の来客ね。来客は来客らしく、膝を曲げてお辞儀をしなさい。それが礼節というものなのだから」と赤い服を着た女性が言う。

 俺は、言われた通りにお辞儀をした。ネリーを追っかけて、勝手に人に庭に入ってしまったと思ったからだ。


「あら、礼儀正しいじゃないの。あたしはイザベラ。ノンノピルツの女王よ。女王様と呼びなさい!」とイザベラは言った。

 彼女が、ノンノピルツの女王……。アリスに権限を与え、ノンノピルツの姫に任命した女性。敵か、味方か……。


「ご機嫌麗しゅう。女王様。俺はデジレと申します」


「こんにちは。それでこんな所に突然現れてどうしたの?」と優雅にお茶を啜りながらイザベラ女王は言った。


「ウサギを追っかけていたら、ここへ迷い込んでしまいました。大変失礼をしました」と謝罪を俺はまず先にして、「俺は、アリスの行方を捜しているのです。それで白ウサギのネリーを追っかけていました。女王様は、アリスの行方をご存じありませんか?」と俺は単刀直入に聞いた。


「アリスねぇ。私も困っているの。最近、姿が見えなくて……。それに、とっても悪いことを企んでいたって噂で聞いたわ。もしかして、あなたもアリスの悪巧みにあったとか?」と、イザベラ女王はクッキーを今度は囓りながら言った。イザベラ女王の顔を見ると、俺よりも…… そしてアリスよりも若いように思える…… あの若さでノンノピルツの女王?。


「はい。大切な仲間を失いました。だから、アリスを探しているんです」


「それは申し訳なかったわね……。私も、アリスの企みが見抜けず、このノンノピルツの姫に任命してしまった……。私にもその責任があるわ。噂によれば、各都市の姫を殺そうともしたとか……。この世界の平和を乱そうなんて……。私的にも、世界が混乱して、美味しい紅茶が飲めなくなるなんて考えられないわ。本当に申し訳なかったわ」と、イザベラ女王は椅子から立ち上がり、謝罪の意を表す。


 …… シロなのか? ただの紅茶が好きな女王なのか? ただ美味しい紅茶が飲みたくて、いろいろと生物を改造している人? 紅茶狂いなのか? ノンノピルツは変わった人が多い……。ドリットが酒狂いなら、イザベラ女王は紅茶狂いということなのだろうか? 魔法狂いが多くて魔法都市ノンノピルツが発達したという実績がある。それに、平気で危険な魔法の実験をするから、鉱山都市ピラカミオンの人々に迷惑をかけているという話をピラカミオンの人から聞いた。イザベラ女王も、美味しい紅茶を飲みたいという一身で、後先考えていないだけの人なのだろうか?


「いえ、悪いのは全てアリスだと思います」と俺は言う。


「あなたが来て、決心がついたわ……。アリスから事情を聞いてからにしようと思っていたのだけれど……。アリスをノンノピルツの姫から更迭するわ。いくら待っていてもアリスは現れないようだし、私もアリスを探すのに協力をするわ。あの子が隠れていそうな所は、だいたい見当がつくしね」とイザベラ女王は笑顔で言った。

 

「協力してくださるのですか?」


「もちろんよ。世界の平和のために、私も立ち上がる時が来たということね。一緒に世界の平和のために協力しましょう」と、イザベラ女王は右手を差し出してきた。


 俺も、警戒をしながらも、イザベラ女王と硬い握手を交わした。


「他の姫達にも、私のできる限りの協力をすると伝えてくださる?」とイザベラ女王は言って、握手した手を離した。俺の右手には、魔法を掛けられた感覚も、何か怪しげなことをされたようにも感じない。ただの握手だ。


「もちろんです。感謝します」と俺は答える。


「そうだわ。友好の証に、少し紅茶を飲んでいく?」というイザベラ女王の提案を「せっかくですが、ネリーを追いかけている途中ですので」と俺は固辞する。


「それは残念……。だけど、ネリーがこの辺りに逃げたということだったら、私の兵士にもネリーを探させるわ。あなた一人で探すより、効率は良いでしょ? しかも、この庭園は入り組んでいるし、この場でネリーと鬼ごっこをあなたがしても、残念だけど、あなたに勝ち目はないわよ」


 確かに、抜け道などが沢山ありそうな場所だ……。


「ご協力感謝します」と俺はイザベラ女王に頭を下げて礼をした。俺は、有力な協力者を得ることが出来たと思った。ノンノピルツの女王が協力してくれるのだ。アリスを追い詰めるのは、時間の問題のように思えた。

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