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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
6章 It takes all the running you can do, to keep in the same place.
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56 ティーパーティーとティーパーティー

 俺は、アリスの行方を知っていると目されているネリーを待つことにした。ネリーの容姿は、二足歩行する白ウサギ。そして手に大きな時計を持っているそうだ。そして、ネリーはいつも慌てているから、引き止めるのが大変らしい。


「俺の話を聞いてくれよ。おっと、もっと飲むか?」

 俺は、ノンノピルツにあるお茶会会場にて、先ほどのリューゲ、ライツ、ドリットと一緒に席を囲んでいた。リューゲは牛乳、ライツと俺は紅茶、ドリットは酒と、飲んでいるのが三者三様ではあるが。


「いや、俺は紅茶で良い」と俺はドリットの勧める酒を固辞した。


「俺は、酒を飲もう。紅茶を飲むと酔っ払うからな」とライツが言う。酒を飲んだら酔っ払うのが普通だが……。


「さっきまで私に剣を突きつけた人間と一緒に紅茶を飲む。昨日の敵は今日の味方。そういうことなのね。フッ」とリューゲが意味深な顔で紅茶を啜っている。とりあえずこいつは無視しておいていいだろう。


「それで、どんな話なんだ?」と俺は、空になったドリッドのワイングラスに赤ワインを並々と注ぐ。


「それはな、俺のこの耳の話だ。お前だって、こんなおっさんがウサギの耳を付けていて、誰得だよって思うだろ?」と、ドリットは嘆きながらワインを大口で飲み干していく。


「いや、似合ってるぜ」


「嘘付け」


「…… すまない。嘘を付いた」と俺は素直に謝った。シュノーケンの居酒屋で見たバニーガールは確かに魅力的に見えた、が、このドリットの耳を見ても、気色が悪いとしか言えない。


「どうして俺がこんな姿に……」と言ってドリットは俺が先ほど注いだワインを飲み干した。俺は、さらに注ぐ。


「生まれつきじゃ無いのか?」と俺は聞いた。


「赤の女王よ。あんただって見たでしょ。さっきの温室で見た、変な紅茶の木を」とリューゲが言う。


 先ほどの、ガラス張りの小屋の事だろうか。アレは、紅茶の木だったようだ。


「美味しい紅茶を作るために、赤の女王は品種改良に凝っているのよ。そして、その実験のついでに、私達は産まれたの。私だって、こんな体になるなんて! ちょっと、あなたこれを持って見なさいよ!」とリューゲが懐から猫じゃらしを取り出す。


 俺は猫じゃらしを受け取り、その穂先を揺らす。


「だ、ダメ。見たくないのに。やっぱり、体が疼いちゃう。も、もう我慢できない。あっ赤の女王は、私をこんな体にしたのよぉぉぉぉ〜」と、その途端にリューゲは椅子から飛び降り、ゆっくりと四つん這いになって俺に近づいてくる。どうやら、猫じゃらしに反応しているようだ。尻尾を揺らしながら、ゆっくりと俺に近づいてくる。リューゲの目は、猫じゃらしの先に釘付けだ。うん、少し恐い。


「キャハハハ。これでもくらいやがれ」とライツは、リューゲに向かって小袋を投げつける。小袋から微かに匂いが洩れる。

 これは、マタタビの匂い。小袋が、リューゲの頭にぶつかり、粉が待っている。


「あはぁ。あっあぁ。なんだか、欲しくなってきちゃった。ねぇ。今日初めて会った貴方にこんなことを言うのは、はしたないって思うかも知れないけど……。そのっ…… あっ」と、顔を真っ赤にして目を潤ませ、そして腰をくねくねさせてリューゲが四つん這いで近づいて来る。いや、なんか恐いんですけど。リューゲの視線が先ほどの猫じゃらしから俺の下半身へと変わっている。


「首元を撫でてやれ」とドリットが言う。


 俺はその言葉に従い、猫の首元を撫でるように、チャシャ猫の亜人の首元を指先でこちょこちょする。


「あっ。そこ、そこなの」と言いながらリューゲの体を俺の両足になすり付けてくる。腰は、左右だけではなく、上下にも激しく動きはじめている。


「ねぇ、もっと凄いことして」と、俺の下半身にしがみつくようにリューゲが言う。おいおい、こいつ、大丈夫か?


 俺は、困り顔になってドリットとライツを見る。


「据え膳食わぬは男の恥、という言葉があります。紳士として、いや、男として、果たすべきことがありましょう」とライツは真面目な顔して言っている。おい、なに紳士面しているんだ? お前がマタタビなんて撒いたからだろ!


「そうなんだよな。赤の女王は、俺と三日月ウサギを融合したし、ライツは紳士と狂人の精神を融合させられ、リューゲは、チャシャ猫と融合してこんな体になって……。もともと俺たち『ティーパーティー』は、ノンノピルツでも有名な三銃士だったのだぜ。この街を守る最後の砦ってな。それがいまじゃぁ、こんな飲んだくれと、狂った帽子やと、発情した猫になっちまってよぉ。おっと、もう酒がねぇ」とドリットは次のワインを開け始める。

 おいおい、お前もこの状況で、なにマイペースに自分語りしているんだよ! ワインボトルを開けている暇があったら、リューゲを止めろよ! 本当に、こいつら、なんなんだよ!!


 俺は、椅子から離れ、リューゲと距離を置く。


 その時、「ネリーだぜ。相変わらず忙しそうに走り回っているぜ。キャハハハハ」とライツが言う。その視線の先には、白い時計を持ったウサギ。


 俺は走り出す。


「ちょっと待つんだ!」という俺の声が聞こえていないのか、脇目も振らずネリーは走って行く。


 俺はネリーを追っかけ続ける。奇妙な森に入った。


 大きな樹木に、直径1メートルはありそうな薔薇が咲いている。どうかんがえても、薔薇が咲くような木には見えない。何より棘も無い。ただの広葉樹だ。それに特大の薔薇が咲いている。変な森だ。それに、先ほどガラス張りの小屋でみた白い花弁の中に目玉のある花が、普通に森の中を歩いていて俺を襲って来る。明らかに自然に産まれた植物、そして魔物では無い。「ティーパーティー」のリューゲは、チャシャ猫と人間を融合させて作られた亜人。ライツは、異なる紳士的な人間の精神と狂人の精神を融合させた人間。ドリットは、三日月猫と人間を融合させた亜人。

 それらを作ったのは、赤の女王だと言う。美味しい紅茶を作るための実験らしいが、生命をもてあそんでいるようにしか俺には見えない。


 茂みの奧に走り込むネリー。俺は、追いかけ続ける。

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