52 それから
「ラプンツェルさん、ありがとうございました」と、俺は鉱山都市ピラカミオンの関所のところで、ラプンツェルさんに別れを告げる。
「気をつけてな。ノンノピルツの連中は狂っている。用心したほうがいい」とラプンツェルさんが言う。
「もちろんです。アリスが姫をしていた街ですからね。正常であるはずが無い。アリスが隠れている可能性だってあると思ってます」と俺は言う。
教会の町アルトグランツェ、神聖都市ルヴェール、港町ウォロペーレア、城塞都市シュノーケン、豊穣の里ルチコル村、全てにクエスト協会が設立され、アリス捜索に当たっているが、アリスの目撃情報が無い。どこか人里離れた山奥に隠れている可能性はあるが、俺はその可能性は低いとみている。おそらく、自らの街、ノンノピルツのどこかに潜んでいる。いや、堂々と生活をしているかも知れない。自分の街の姫を売り渡すなんてことは、ノンノピルツの住民も出来ないだろう。また、魔法都市ノンノピルツのクエスト協会もアリスの影響下にあり、ノンノピルツのクエスト協会が、アリスの目撃情報を握りつぶしている可能性がある。
アリスがノンノピルツにいる可能性は極めて高い。少なくとも、アリスを追跡する上で、有益な情報を得ることができるだろうと俺は思っている。
「本当は引き留めたいがな」とラプンツェルさんは言った。
「アリスを討ち取ってから、また戻ってきます」と俺は答えた。
「あぁ。雪の女王の話が本当であった以上、今は、猫の手も借りたいほどの現状だ。デジレは、旅立ってしまったから知らないだろうが、暴君グラゴーネを封じていた雪の女王の魔法も消えている。代わりに、ルーティアが魔法で海を冷やし、グラゴーネを引き続き冬眠状態にしているという状況だ。そして、ツヴィンガーの魔窟に、聖女様が封印した暗獄獣ダスクという化け物がいるらしい。雪の女王の話によれば、アリスはその封印も解き放つ可能性が高いということだ。雪の女王が誰も近づけないように永久凍土で封印陣に誰も近づけないはずだったのだがな…… 雪の女王は手錠により魔法が封じられ、その氷は溶けてしまっている。だから、魔窟の封印陣はシンデレラが守りを固めて、そこから動けない状況だ。また、雪の女王も封印をされている場所を知らないが、それ以外にも、ベヘモットと呼ばれる化け物、レビヤタンと呼ばれる化け物も世界のどこかに二千年前の聖女様が封印をしたらしい。姉さんは、城の図書館に篭もりっきりで、封印場所が記されている文献がないかを探しているところだ。星の数ほどある本から、その情報を探すということで、しばらくは動けない」とラプンツェルさんは、右手で作った拳を左手の手のひらで受け止めながら言った。
「暴君グラゴーネの封印を解いたのは……」と、俺は口ごもった。
「あぁ。その話はシンデレラから聞いた……。姉さんではない。それは断言できる」とラプンツェルさんは言った。
「俺は、アンネローゼさんだと疑っていました」と素直に白状をした。
「姉さんの騎士の鎧が破壊された封印陣の近くにあったのだ。疑うのは当然だ。それに、あまり大っぴらにできないからな」とラプンツェルさんはその時の経緯を説明してくれた。
アンネローゼさんの目的は、聖女に頼らない世界を作ること。それは、アンネローゼさん率いる改革派の目的でもある。そして、仮に「聖女」を廃した際に、古に封印された魔物の封印が解けるかどうかも、アンネローゼさんは考慮に入れていたらしい。二千年前の聖女が施した封印は、現在の聖女、つまりルクレティア様が引き継いでいる可能性があった。聖女を廃した瞬間、その封印が解けてしまい、化け物が目覚め、暴れまわってしまわれたら本末転倒。だから、どのような封印形式なのかを1年ほど前に調査したそうだ。そして、結論は、封印陣が壊されないかぎり、半永久的に化け物を封印できるというものだった。
「つまり、今後、聖女がいなくなったとしても、化け物どもの封印が解けることはない。だから、安心して聖女という制度を無くすことができるというわけだ」と、ラプンツェルさんそう説明をしてくれた。
「そんな調査をしていたなんて……」と俺は驚く。ルクレティアさん眠りにつく前から、聖女を廃するために動いていたというのは、クエスト協会の設立の件で予想していたが、1年も前から準備していたということに驚きを隠せない。
「勝手にルーティアが支配する地域に忍び込み、そんな調査をしていたからな。姉さんも後ろめたい部分はあるのだろう」とラプンツェルさんは言った。
「そういうことだったんですね……」
「そして、調査をした騎士もヴァングロットの穴を攀じ登るのが大変だから、身軽となるために鎧を海の底に残してきた。内密調査のはずが、証拠を残してきた。なんとも締まらない話さ」とラプンツェルさんは軽く笑った。
「アンネローゼさんは、心底、聖女を廃したいのですね」と俺は言う。
「まぁな。私は姉さんの決めたことに従うつもりだ。姉さんがそれが良いっていうなら、私はそれに賛成だ」
「そうですか。保守派と改革派の対立も根深いですね」と俺は言った。ルクレティア様が眠りにつかれ、魔物があふれたという突発的な事件を発端としているわけではなく、アンネローゼさんはその前から計画をしていた。表面化したのが、ルクレティア様の眠りということなのだろう。
「ルクレティア様が止めようとなされている、世界を覆う闇の力。アリスが関係していることは間違いがない。改革派、保守派のどちらも、世界を平和に保ちたいということでは一致している。アリスを倒し、その危機を防ぐという意味では、保守派も改革派も無い。アリスの件は、世界の平和という意味でも重要だ」とラプンツェルさんは言った。
つまり…… アリスが招く世界の危機を解決したら、また保守派と改革派は、争いを始めるということだろう。世界を平和に保つ方法を廻って……。
「リーゼロッテさんはお元気ですか?」と俺は話を変えた。
「あぁ。あいつは元気にやってるよ。ピリシカフルーフを守っている。ルクレティア様が眠っているのはピリシカフルーフだ。これは、眠りに落ちたルクレティア様を隠した雪の女王が言ったことだから間違いがない。アリスがルクレティア様の寝首を掻こうとするだろうからな」
「バラバラに散らばってしまいましたね」と俺は答えた。『戦力の分散は避けろ。各個撃破される危険性を常に考慮しろ』と、親父は俺に教えてくれた。
「それもアリスの狙いかも知れないな。そもそも、私たちを一気に殺そうとしていたわけだから、私たちが邪魔でしょうがないのだろうがな」とラプンツェルさんは言う。
一気に殺そうとしたのは、アリスさんだが、その実行犯に危うく俺がなるところだった……。
「その節は、すみませんでした」
「いや、そういうつもりで言ったんじゃない」
「さて、私も、アンネローゼとリーゼロッテが動けない分、騎士達を指揮して、アルトグランツェからルチコル村までの魔物退治をしに行かなければならない」とラプンツェルさんが言った。
随分と広い領域だ。
「お忙しい中、剣の手伝い、ありがとうございました」と俺は礼を言った。
「また会おう。デジレ」とラプンツェルさんは右手を差し出してきた。俺も右手を差し出し、硬い握手を交わした。




