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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
6章 It takes all the running you can do, to keep in the same place.
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50 鍛錬場

 俺は、ラプンツェルさんと共に、鍛錬場に来ていた。目的は、剣を造ること。

 ラプンツェルさんは、長かった髪を一つにまとめ上げていた。髪が炉の焔で燃えてしまわないようにするためだろう。長い髪を編みこみ、一本にしてそれをターバンのように頭に巻いている。


「この伝説の金属クルシオンで造られる剣は、持ち主を選ぶと言われている。赤く燃えたぎる剣を持ち主が握りしめ、クルシオンが認めれば、その温度は下がり剣の形となる。認めなければ……」とラプンツェルさんは、赤く燃え上がっている炉を眺めながら言った。

 俺が持ち込んだ金属はクルシオンという金属だそうだ。そして、その金属は、通常の武器錬成に用いられる玉鋼よりも高い温度で無ければ融けない。だから、通常、燃料として使われているピヌスと呼ばれる材木は使えないそうだ。使えるのは、ピヌスと呼ばれる材料に更に魔法の処理を加えた燃料、スミッタテム・ピヌスという材料だけらしい。しかし、そのスミッタテム・ピヌスは現在では製造されていない。魔法都市ノンノピルツとの関係が悪化してから、魔法処理を施してくれる者がいなくなったそうだ。だから、ラプンツェルさんは倉庫に大切に保管されていた秘蔵の材料を出してくれたらしい。本当に感謝だ。


「その場合は死ぬ、ということですね?」と俺はラプンツェルさんのその言葉の続きを言った。


「あぁ。持ち主を認めないのであれば、クルシオンはその者を飲み込み、焼き殺すというのが伝承だ」


「覚悟はできています」と俺は答えた。


「アタシも、お前であれば認められないはずがないと思っている。それは一緒に戦ったからこそ分かる。だが……」とラプンツェルさんは口ごもる。


「だが、なんですか?」と俺は続きを促す。


「お前は、どこかの田舎で独り暮らししてたんだろ? それで、誰かに呼ばれて旅をはじめた。そう、リーゼロッテから聞いたよ。呼ばれた誰かの求めに応じる。その誰かを求めて旅を続ける。あぁ、そうだったんだなって、その話を聞いた時にはアタシの腹に落ちるものがあったんだ」


「それはどういうことですか?」


「目の輝きっていうのかな。改革派と保守派の争い。もちろんアタシはリーゼロッテに着いていくぜ。だけど、そんな派閥の争いなんかに目もくれず、純粋に、そして一途に、自分を呼んでくれた人ってのを探し続ける。綺麗な目をしているって思ったのそういうことだったんだなって、妙に納得できたんだよ……。だけど、今のお前の目、輝いて無い。暗い暗い瞳だ。アリスを追っかけているのは復讐の為だろうが、お前の目、今は輝いてないよ。なんだか、自分自身を押しつぶしているような、義務感だけでやってるような……。そんな目をしてる」とラプンツェルさんは言う。


「………… 楽しさなんてものはありません。後悔と、そして憎しみだけです。自分を呼んでくれていた人。その人の呼びかけは今はもう俺には聞こえません。いつも、耳をすませば聞こえてきた呼びかけの声。もう、俺には聞こえないんです。ただ、アリスに復讐をしろ。仇を討つべきだ、っていう自分の心の奥底からの声しか聞こえません」

 炉の中の炎は、真っ赤に燃えながらも、所々がどす黒い。そこの部分の温度が低いのだろうか。


「分かるよ。その気持ち。私は産まれたばかりの時、父母の元から魔女に連れ去られたそうなんだ。そして、ずっと高い高い塔に閉じ込められてな」


「高い塔? ピリシカフルーフですか?」と俺は聞く。ピリシカフルーフが俺は気にはなっていた。雪の女王によって閉ざされた氷の扉。雪の女王はアリスの手錠により魔力が封じられたままだ。もしかしたら、あの硬い氷は溶け、先に進めるようになっているのかも知れない。だが、俺を呼ぶ声はもう聞こえない。太陽が昇ると同時にさえずり合う小鳥が嵐によって全て連れ去られてしまったかの如く静寂しかない。


「いや、あんな立派な塔じゃない。黒い森の中にそびえ立っている不気味な塔さ。その塔には、最上階しかない。そしてその最上階に昇る階段もないと来たものだ。私はその最上階に閉じ込められていた。退屈で退屈で、いつも空ばかり見つめていた」


「変な構造の塔ですね」


「あぁ。あれは、呪いの塔だ。そこに閉じ込めた魔女が憎くて憎くてしょうが無かった……。火加減は丁度良いな。この細かく砕いたクルシオンを再び一つの塊に戻す。『積み沸かし』という工程だ」とラプンツェルさんは、大きなスプーンのような道具に、砕いたクルシオンをレンガのように積み重ねていく。


「よろしくお願いします」と俺は言う。


「デジレ。これからは剣を作り上げるまで休めないぞ」


「はい」と俺は答えた。

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