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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
6章 It takes all the running you can do, to keep in the same place.
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49 鉱山都市 ピラカミオン

「この人相に見覚えは?」と俺はアリスの顔が書かれた紙を刺し出し、鉱山都市ピラカミオンの風車の脇に座っていた男に話しかけた。どうやら、この男は、風車の羽が折れたのを修理をしている大工のようだ。


「ん? 尋ね人かい? こ、こいつは! 見覚えも何も、忘れたくても忘れられるもんじゃねぇ! ノンノピルツの魔女だ。俺たちがどれだけあいつらから嫌がらせを受けたことか! ピラカミオンに住む者はみんなあいつに苦しめられてきたんだ」と男は激しい勢いで言った。


「そうだったのか…… 最近ではいつ見かけた?」


「忘れもしない! 3週間ほど前だ。クエスト協会ってのが出来て、そこに何やら届け物をしに来て、それでついでに魔法でこの風車の羽を吹き飛ばして行ったんだ! 『ついつい、巨人と間違えちゃった』とか言いやがって。ワザとに決まっている! ピラカミオンにとってこの風車は命なんだ! この風車で深い鉱脈に空気を送り込む動力だし、鉱脈から湧き出た水を地上に汲み上げている! この風車が止まったら、鉱脈の中に入っている仲間の命が危険にさらされるんだ。幸いにも全員脱出できたのはいいが、こいつを修理する間、鉱脈に入って仕事することが出来ない。いい迷惑だよ」


「それで活気がなかったのか」と俺は言う。鉱脈の入口に車座になって座っている男たち。暇そうに金槌を振り回しているドワーフ。ピラカミオンは、朝から晩までずっと金槌の音が鳴り響いているという評判であったが、現状では寂れた農村とあまり変わりがない。


「あぁ。鉱脈にも入れないし、鉱物もないから仕事が出来ない。みんなやること無いから憂さ晴らしに酒浸りだよ」


「もし、またコイツがピラカミオンに現れたら直ぐにクエスト協会に知らせてくれ。デジレ宛だ」


「分かった。だが…… 正直、二度と見たくねぇツラだ」


「あぁ。俺がコイツを探せ出せたら、二度とあんたがアイツの顔を見なくてもよくなるはずだ」


「そいつは助かるが、それはどういう意味だ? って、おい、にぃーちゃん!! その金属はなんだ!」


「炉は落としているのか? こいつで剣を一振り作って欲しいんだ。腕の良い職人を探している」


「どんなことがあっても炉の火は落とさねぇ。あれはピラカミオンの命だ。って、その金属、見せてくれ……」と男は白く輝く金属を食い入るように見ている。俺は、金属の塊を手渡す。


「この輝き……。まさか伝説の…… ちょっと失礼するぜ」と男は言って、持っていた金槌で思いっきり金属塊を叩いた。


 金属音が響いた。


「こ、これは間違いねぇ。にいちゃん、これを何処で手に入れたんだ? 失われた製法で錬成された金属だ」


「モルゲベート遺跡で見つけた。遺跡を守っていたゴーレムの主の動力部に使われていた金属だ」と俺は言った。


「なるほどな……。にいちゃん、これで剣を作るって言ったな? この金属で剣を鍛えるなんて、職人冥利に尽きるってもんだ。この町一番の職人を紹介してやるぜ! ちょっとここで待ってな!」


「頼む。俺は、クエスト協会で用事を済ませてくる。クエスト協会で落ち合おう」と俺は言った。


「わかった! すぐ呼んでくるぜ!!」と町の奧へと走っていった。


 ・


 俺はクエスト協会に入った。この街でも依頼を受ける騎士が足りていないらしく、依頼掲示板にはたくさんの張り紙があった。ここでも需要と供給が一致していないのだろう。

「アリスの捜索依頼を出しているデジレだ。何か、新しい情報は入ってないか?」と俺はクエスト協会のカウンターに座っている受付に話かける。


「デジレ様、いつもクエスト協会をご利用いただき誠にありがとうございます。今、お調べ致します…… お待たせしました。新しい情報は入ってきておりません。それと…… デジレさん宛てに言付けを預かっております。『至急連絡をくれ。必ずだぞ! シンデレラ』『何処にいるの? 私寂しくて泡になってしまいそう。ルーティア』『ジャム瓶がルヴェールから届いたよ。美味しい林檎ジャムを作ったから食べに来てね。 リーゼロッテ』『どこをほっつき歩いているの? アンネローゼ』『落ち着いたら連絡をくれ。ラプンツェル』 以上が、デジレ様宛のメッセージになります。ご返信をなさいますか?」と受付の女性が俺に尋ねるが、俺は首を横に振ってそれを拒絶する。

 エインセールの仇を取るまでは、合わせる顔が無い。アリスの罠に嵌まり、エインセールを殺したのは俺だ。そしてみんなを傷つけてしまったのも俺だ。


「にいちゃん、この町一番の職人を連れてきたぜ」と、先ほどの男がクエスト協会へと勢いよく飛び込んできた。


「デ、デジレ!!」と後から入って来た人が驚きの声をあげる。


 ラプンツェルさんだった。


「……」俺は何も答えない。


「し、知り合いなのか?」と連れてきた男が言う。


「あぁ。アタシの仲間だ」とラプンツェルさんが躊躇無く言う。『仲間』という言葉が俺に突き刺さる。


「どうして病室から何も言わずに姿を消したんだ? ……いや、理由は分かる。だが、一言くらい連絡をくれてもよかった。みんなお前のことを心配していたんだぞ」と、ラプンツェルさんが俺の襟元を右手で掴みかかった。


「……」俺は顔をそらし、クエスト協会の掲示番を見つめた。


だんまりかよ。まぁいい。剣が欲しいんだろ? アタシが鍛えてやるよ」とラプンツェルさんが言って、掴んでいた襟元から手を離した。


「知り合いだったら話が早いぜ。姉さんが、鉱山都市 ピラカミオンで一番の鍛冶職人だ」と男は胸を張る。


「そうだったんですね……。どうかお願いします」と俺は腰を折り、深々と頭を下げた。


「なに水くさいことやってんだよ。アタシとお前は仲間だ。仲間は大事にするモンだろ?」

 俺の心に、また『仲間』という言葉が突き刺さる。


「それにな、お前が消えてから、お前に一言いってやろうと思っていた事があるんだ。耳かっぽじって聞けよ! ひとりでどうにかしようと思うな! お前にはアタシたちがいるだろ! エインセールの事は本当に残念だ。だが、お前だけが背負い込むことじゃない。アタシたちも背負う覚悟がある。お前の重荷、アタシも一緒に背負う! アタシとお前はもう、仲間なんだよ! 独りで突然消えたりなんてもうするなよ。無事で良かった!!」とラプンツェルさんは俺を抱きしめた。どうやら俺を抱きしめながらラプンツェルさんは泣いているようだ。


 親父が言っていた。『仲間を信じられないのは、仲間が信頼に価しないからじゃない。自分が自分自身を信じられないから仲間を信じられないのだ』と。

 その言葉が嫌というほど心に突き刺さる。俺は、エインセールの仇を自分で討たなければならないと思う。自分自身が許せないからだ。


「ありがとう」と俺は言った。


「それでいいんだ」とラプンツェルさんが言ってくれた。

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