47 Who in the world am I? Ah, that’s the great puzzle.
「みんなどうしてアリスのことを見ているのかな?」
「アリスとやら。お前はいつから、姫に紛れ込んだ? そもそも、お前はだれだ?」と雪の女王が言い放つ。
「あはは。その質問、すっごくイカれてる。超最高だよ」と、皆の視線を受けたアリスさんが笑いだし、手錠で無抵抗となった雪の女王のお腹に蹴りを入れた。狂喜の入り混じったアリスさんの笑い声に俺を含め全員が唖然とする。俺たちが唖然としている間に、アリスさんは雪の女王を蹴り続ける。
「アリス!!」とシンデレラさんが思わず、雪の女王とアリスさんの間に入った。
「やっぱり、無駄口叩く前に殺しておけば良かったよ」とアリスさんは言った。急に周りの空気が下がっていくように俺は感じる。体感温度を下げているのは、アリスさんから発せられる殺気だ。
「大丈夫ですか?」とルーティアさんとリーゼロッテさんが、氷の床に転がった雪の女王をお越し、介抱している。
雪の女王は相変わらずアリスさんを睨みつけている。雪の女王は、アリスさんに蹴られても、叫び声するあげず、歯を食いしばって耐えている。
「わたしって一体全体、誰なのでしょう? それって、とっても難しいパズルだよねぇ」とアリスさんは笑い続ける。
「あなたは、敵なのかしら?」とアンネローゼさんが冷たい声で言った。
「な、何を言っているのだ。同じ姫だ……」とシンデレラさんがアンネローゼさんの質問を一蹴しようとするが語調は弱々しかった。シンデレラさんから言わせれば、アリスさんは同じ保守派に属するプリンセスだ。それを疑われたくはなかったのだろう。しかし、アリスさんから発せられている殺気は、尋常ではない。氷の床に横たわっている雪の女王の周りを俺とプリンセス達が囲んでいるという状況だが、俺の五感が、アリスさんと距離をとるべきだと警告してくる。あまりに、アリスさんと近すぎる。アリスさんの殺気が攻撃へと変わった場合、避けることができない。
「早く正体を現せ! それが嫌ならば、私を殺すんだな」と雪の女王が咳き込みながら声を吐き出すかのよに言った。口からは、声とともに血が吐き出されていた。
「君を殺す? アリス的には、アリスが殺さなくてもどうせ君はすぐ死ぬんだし? だって、その手錠で魔力は封じられてて、君はもう普通の人間と変わらないよ? そしてその手錠はアリスじゃないと外せないし、アリスは外す気なんてありません~! ちなみに、その手錠はノンノピルツ特性だよ。そこの馬鹿の馬鹿力でも、壊すことなんてできないよ~」
「馬鹿とはアタシのことか?」とラプンツェルさんが額に血管を浮かべていた。
「その通りだよ? ピラカミオンのお猿さん?」
「上等だ!! アタシがその減らず口を減らしてやるよ!!」とラプンツェルさんは、アリスさんの胸倉に掴みかかった。
ドスン
「うぐぅあ」
次の瞬間、ラプンツェルさんは、氷の地面に背中から叩きつけられていた。アリスさんがラプンツェルさんの伸ばした手を、逆にとって体術で投げ飛ばしたのだ。
ラプンツェルさんは背中を強打したのか、声にならない声を発していた。おそらく、あの投げのキレだと、自分が何をされたかラプンツェルさんは分からなかっただろう。
「喧嘩は駄目だよ」と、リーゼロッテさんがアリスさんを咎め、ラプンツェルさんの介抱に向かう…… が……「あわわわわ~~」
アリスさんがリーゼロッテさんの足を引っ掛け、リーゼロッテさんが倒れているラプンツェルさんに乗っかる形で倒れる。
「あなた、どういうつもりかしら? 敵ということで良いわね」と、アンネローゼさんが再び問うた。しかし、すでにアンネローゼさんの中でアリスさんは敵認定しているらしく、杖には魔法が込められている。
「あははは。理論どおりの反応過ぎてつまらないよ。ほとんど魔力が残ってないのにアリスと戦う気なの? 超イカレてる~」と、アリスさんは言いながら後方に飛んだ。
「ま、待ってくれ」とシンデレラさんがアンネローゼさんを止める。そして、「アリス!! どういうつもりだ!!」とシンデレラさんが叫ぶ。
「アリス的には、ここでみんなに死んでもらうつもりかなぁ。せっかく一網打尽にできるチャンスなんだし? まぁ、わざわざアリスがこの場におびき寄せたんだけど! あはは。邪魔者はぱぱっと掃除しないとね」とアリスさんが言う。
「サンダーボール」と、アリスさんの言葉が終わらないうちに、アンネローゼさんの杖から雷が放たれた。光り輝く雷球が暗雲の中で暴れまわる龍のようにアリスさんに襲い掛かる。
しかし、アリスさんのメイスの一振りでそれはかき消された。
「魔力の密度が薄いし、錬りが粗くなってるよ? もうへとへとなんじゃないかなぁ」とアリスさんは言いながら、メイスを右手だけでバトンワリングのようにくるくると回している。
「愚かね。それでも、6対1。この意味が分かるかしら?」とアンネローゼさんが言う。シンデレラさん、ルーティアさんも厳しい表情をしている。戦うしかないと心に決めたようだ。ラプンツェルさんとリーゼロッテさんも氷の床から立ち上がり、構えている。
シンデレラさんの右手は、既に剣の柄を握りしめている。盾は掲げられ、アリスさんとシンデレラさんを結ぶ直線状のある。アリスさんからの攻撃に備えているのだろう。同じ姫であるという関係性。同じ保守派であるという関係性。それらがシンデレラさんとアリスさんの間で損なわれたようだった。
俺も剣を抜き、盾を構える。
アリスさんはさらに間合いをとって、王座のある場所まで離れた。
「1、2、3、4、5、6、あれあれあれ?」と、エインセールは俺のすぐそばを飛びながら、俺やシンデレラさんたちを指差しながら数えて首を傾げている。
「6対1だと、1人余ってしまいますよ? シンデレラ、アンネローゼ、ルーティア、リーゼロッテ、ラプンツェル、そしてデジレさん。それで6人です」とエインセールは妙に細かいことを気にしている。
「あはは。羽虫は数に入っていないってことだよね、アンネローゼ? アリス的に、目の前をチラチラと飛び回っていて目障りだったけど、それも今日でおしまいだと思うと、アリス少し寂しいな。とっても嬉しいけれど!」
アンネローゼさんはアリスさんの問いに答えない。アンネローゼさんは魔力を錬り上げるのに集中をしていた。しかし、俺が見てもアンネローゼさんの魔力は消耗していた。雪の女王との戦いが始まったばかりのアンネローゼさんの魔法の密度と錬度をルチコル村の林檎だとすれば、今のアンネローゼさんのそれは、天日干しされたヘチマのようだ。瑞々しさもなく、密度も薄い。雪の女王との激戦で魔法を打ち続けた後だから、仕方がないが……。
「アンネローゼは、アリスのこと無視するんだぁ。自分のお姉さんのことを無視できない優しい優しいアンネローゼが、アリスのこと無視するんだぁ」
「お黙りなさい」とアンネローゼさんが言う。
「とぅるてってーん! 理論通りの反応なのです! でも、もう飽きちゃったかな」とアリスさんは見下すような笑みで俺たちを見ている。そして、アリスさんの後方に真っ黒な円が現れる。空間が揺れている。
「ま、まさか、転移魔法?」とルーティアさんが驚きの声をあげる。
「アリスは、これから行かなきゃならないところがあるからさぁ〜!! なんか、ネリーよりも忙しいって感じ!! じゃあ、後はみんな頑張ってね! 6対1。この意味分かるかな? 『目覚めよ、Læva-sverð。渇きを潤す時が来た。全ての血を吸い尽くせ』」
なっ。アリスさんが呪文のようなものを言った瞬間、俺の心臓が高鳴る。戦いの前の高揚感、そして多幸感と至福。
カキーン
「どういうつもりだ」とシンデレラさんが言う。はっと我に返ると、俺の剣がシンデレラさんの盾とぶつかっていた。俺が立っていた位置も変っている。状況から考えて、俺がシンデレラさんに対して斬りかかったのだろうが…… 俺はそんなことをした覚えもないし、するつもりもない!!
「デジレさん?」とエインセールも不安げに俺を見つめている。
「あはは。アリスはちゃんと忠告をしたよ? 『斬りたくないものまで斬ってしまうから、取り扱いには注意だよ!』って。アリスはちゃんと忠告したのになぁ。それにしてもデジレはすごいよ。しっかりとその剣を使いこなせているのだから…… 楽しいパーティーの始まり、始まり。じゃあ、みんな死ぬまで踊ってね」
アリスさんは後方の闇の中に飛び込み、そして姿を消す。空間に空いた黒い穴も、光を浴びた影のように消えた……。
「きゃあ」
次の瞬間、我に返った時は、リーゼロッテさんに足蹴りをしているところだった。リーゼロッテさんは、勢いで氷の床を10メートルほど滑り、氷の城の壁に衝突した。意識を失ったようだった。止めを刺さなきゃ…… え? なぜ?
「デジレ!!」とラプンツェルさんがハンマーを俺に向かって横降りしてきたがそれを盾で防ぐ。ハンマーは威力は大きいが、防いでしまえば隙だらけ。俺は、あばら骨を抜けて心臓を突き刺すことができるように剣を横向きにしてラプンツェルさんに突き出した…… が、それはアンネローゼさんの杖によって叩き落とされた。
背後からの気配…… シンデレラさんだった。盾を俺にぶつけようとしていた。俺はそれを躱し、間合いをとる。
城の壁際に意識を失った獲物が一匹いる、それを先に仕留めたほうがいい。確実に一匹ずつ。手傷を負った得物から…… そう俺の右手が握りしめている剣が教えてくれた…… 甘く優しい声で俺に教えてくれる…… いや、あれば獲物じゃない! リーゼロッテさんだ!
「エインセール! リーゼロッテさんの手当を早く!」と俺は叫ぶ。
「え? え?」とエインセールは混乱をしているようだ。先に、ルーティアさんが動き、リーゼロッテさんに回復魔法を施している。
「その剣を早く手放すのだ。その剣が操っているのだ」と雪の女王が言った。
ぐぅ。剣は、俺の右手から離れようとしない。俺の右手も言うことを聞かない。一体、どうなっているんだ!?
「我は、血を啜る者。匂うぞ! 匂うぞ! 美味そうな血の匂いがぁ!!」
どうやら、俺がしゃべっているようだ。
俺とシンデレラさんが鍔迫り合いをしている。なぜ彼女を攻撃しているんだ? 血が美味そうだからだ! 俺の頭の中で、全くかみ合わない議論が続く。そしてその間も、体は勝手に動き続ける。氷の床が、血しぶきで染まっていく……。




