44 激闘
エヴィヒグラス氷山は、太い氷の柱で支えられた大きな宮殿のような場所だった。いや、もともとが大きな宮殿であったのだ。大理石で出来た天まで届くような柱。磨きあげられた大理石。天井にぶら下がっている氷の塊は、もともとはシャンデリアだったのだろう。透明な氷の先に見えるのは、壁に掛けられた絵画、調度品の数々。俺達が進む遙か氷の下は昔、ダンスホールであったのかも知れない。いつのものかは分からない。氷の中に閉じ込められて、時を歩むのを止めた世界。氷の影響で、全てが薄い青色に見える。その景色全てがどこか寂しく、そして悲しい。この場所に時間が流れているのかと心配になる。音は、俺達の足音だけ。シンデレラさんの履いているヒールと氷がぶつかる音が、良く響いていた。
「この先にいるね」とアリスさんが口を開く。俺達の目の前には扉。うっすらと氷が表面に張ってあるが、もとは木製の扉なのだろう。
「いっちょ、派手に行くか」とラプンツェルさんが持っていたハンマーを振りかぶる。そして、そのハンマーは扉とぶつかった。氷に反射され、幾多にも衝撃音が木霊する。そして、その砕けた扉の先に見えるのは王座の間。そして、その王座に、雪の女王は座っていた。雪の女王は、俺達を黙って睨み付けていた。シンデレラさんとアンネローゼさんを先頭にして、ルーティアさん、リーゼ—ロッテさん、アリスさん、ラプンツェルさんが、王座の間へと入っていく。すでにそれぞれが戦闘準備に入っている。シンデレラさんは既に剣を鞘から抜いているし、アンネローゼさんの杖には、魔力が集中し、そして濃縮されている。リーゼロッテさんも真剣な顔で矢をいつでも放てるように弓を構えている…… けれど、弓矢ってリーゼロッテさんは使えなかった気が……。だが、それを指摘することなどできないような程、空気は凍り付いていた。
「どうして私達がここへ来たのか、もう分かっているでしょう?」と、アンネローゼさんが進み出て、雪の女王に言った。それを、雪の女王は王座から黙って見下ろしている。
「私をどうしたいのだ?」としばしの沈黙の後、雪の女王が言い放つ。
「命までは取らない。魔力を封じ、自由に動けないように牢獄に入ってもらおう」とシンデレラさんがアンネローゼさんに張り合うように前に出た。
「それは、出来ない相談だな。魔力を封じられてしまうと…… 不都合が多すぎる」
「愚かね。私たちは相談をするために来たのではないわ。そうね…… 命令しに来たのよ!!」とアンネローゼさんが言う。そして、彼女の持っていた杖から、パチパチと言う音が発生する。そして、稲妻が雪の女王に向かって飛ぶ。
が、その稲妻は雪の女王が、手で犬を追い払うようにな仕草をしただけで、稲妻は勢いを失い、氷の床の中に消えていってしまった。
「ここは私が支配する氷の世界…… その人数で勝てると思っているのか?」と雪の女王が冷たい顔で言う。
「えぇ。それが、世界の為だもの。みんな、行くわよ」とアンネローゼさんが言った瞬間、ラプンツェルさんとリーゼロッテさんが全力で雪の女王に向かって走り出す。右方向からラプンツェルさんがハンマーを振りかぶる。リーゼロッテさんは左側から、左手で握りしめた矢を雪の女王に刺そうとしている…… のだと思う。やっぱり弓は使わないんだ……。
アンネローゼさんは、先ほどの稲妻とは比べ物にならないほどの魔力を杖に込め始めている。
「私たちも行くぞ」とシンデレラさんが言う。
「同じ場所にとどまるためにも全力疾走。勝ちたいのなら、せめて今の2倍の速度で!! ラピッドキャスティング!!」
「無比の憤怒と共に打ち砕け、足早き熱情の炎よ。大地の上で彼を褒めたたえよ、炎よ、落ち行く灼熱の隕石よ! タリエシンの詩!」
アリスさんとルーティアさんが、全体効果のスキルを放つ。アリスさんとルーティアさんの魔法により、スキルや魔法の連発が可能になる。
「引きなさい!」とアンネローゼさんが言うと、リーゼロッテさんとラプンツェルさんが雪の女王の足を狙い、雪の女王は体のバランスを崩す。そして、2人は雪の女王から距離を取った。
「弱まることを知らない地獄の炎よ。灰すら残さず焼き尽くせ! ヘルブレイズ!」
アンネローゼさんの杖の先から凄まじい炎が雪の女王を飲み込んでいく。ラプンツェルさんとリーゼロッテさんが近接戦闘。アンネローゼさんが後方から威力のある魔法を叩きつける。改革派の3人のチーム戦闘の戦術なのだろう。アンネローゼさんが魔法を討つタイミングを間違ったら、味方を巻き添えにしてしまう。しかし、アンネローゼさんは躊躇いもなく魔法を放った。チームワークに自信があるのだろう。
燃え盛る炎の中、雪の女王らしき人影が揺らめいている。だが、それは燃えている人間の動きではない。明確な意思を持って動いている。
凍えるような突風が王座の間に吹き荒れた。その吹雪の中心に雪の女王は平然と立っている。アンネローゼさんの魔法でダメージを受けたような気配がない。それどころか、雪の女王の周りの氷すら溶けた形跡がない。むしろ、雪の女王から距離がある場所の方が、炎の熱気で溶けているような感じだ。
これは、長期戦になる、と俺は思った。
出典:ルーティアさんが呪文として言った「タリエシンの詩」は、「The Song of the Horses」の冒頭を邦訳です。




