37 アリスからの二択
「アリスさん! どこに雪の女王がいるか教えてください。このエインセールが導きのランタンで案内をしますよ!!」とエインセールが、シンデレラさんの部屋を出た後、アリスさんや俺の周りを飛び回っている。
シンデレラさんの部屋で、アリスさんが入って来てから温和しくなっていたのと打って変わったような様子だ。
「アリスが道を知ってるから、君は着いてこなくていいよ」と、アリスさんは、エインセールの額にデコピンをした。
「あれれれれ」と、エインセールは目を回してそのまま空中を旋回しながら地面に落下しそうになる。俺は、エインセールが地面に落下する寸前に、両手で水を掬うように受け止めた。
「アリスさん!」と俺は、アリスさんを咎める。アリスさんが口が悪いのは知っているが、実際に危害を加えるのはやり過ぎだと思ったからだ。エインセールも、俺が受け止めなかったらそのまま頭から落ちて、たんこぶの1つや2つが出来ていたかも知れない。
「羽虫かと思ったら、この娘だったんだ!! アリスったらドジなんだからっ!」と、アリスさんは自分の右手で軽く頭を叩き、舌を軽く出してウインクする。リーゼロッテさんがドジをしたときにするなら可愛い仕草かと思ったかも知れないが、アリスさんのはわざとらし過ぎる。
「エインセールは羽虫ではないですよ……。アリスさんも、それは分かっているでしょう……。とりあえず、エインセールが起きるまで待ちましょう。それに…… 彼女は俺の同行者だ。彼女を置いては行けない」と俺は言う。エインセールさんは、オズヴァルトさんから預かったようなものだ。偶然通りかかって助けたのが縁となって、ここまで一緒に旅をしてきた。最初はぎこちなかったけれど、戦闘でもお互いの息が合うようになってきた。魔物からの魔法の攻撃は、エインセールがマジックウォールで防いでくれる。魔物からの物理攻撃に関しては、俺が防ぐ。親父が「兵士冥利に尽きるのは、勝利を掴むことではなく、背中を預けられる仲間と共に戦えることだ」と言っていた。なんとなく、その言葉の意味が分かってきたところだ。
アリスさんがエインセールを毛嫌いしていることは前から分かっていたし、エインセールだってアリスさんがシンデレラさんの部屋に入ってきてからは遠慮して部屋の隅で黙って話を聞いているだけだった。それに対して、アリスさんのエインセールに対する仕打ちは少しだけ度が過ぎるというものだ。
「何かアリスつまんないな〜。どうして私が悪いことをしたみたいに言われるのかな? 雪の女王って、吹雪を操るし、この娘がついてきてもかえって風に煽られて危険になるからあえて眠らせてあげたのにさぁ。それに、君さぁ。君は、君を呼んだ人に出会うために旅をしているんだよね? そしてその為には、いばらの塔が鍵となるということまで分かってる。しかし、雪の女王ヴィルジナルが塔を進むための道を閉ざしてしまった。そうであれば、君の優先順位は、雪の女王を追うことだよ? 閉ざされた道を打ち破って進むのが君のやるべきことだよ? どうしてこの娘にかまっているのかな? さっきも言ったよね。急がないと、雪の女王が何処かへ移動しちゃうよ? 二頭を追う者は一頭も得ないって諺を君は教えて貰わなかったのかな?」と、アリスさんは外見とは違った幼い少女のようではなく、自分より年を経た大人のような雰囲気があった。
「その…… 言っていることは分かるのだけど……」と俺は口ごもる。アリスさんの言っていることは論理的で筋が通っているように思う。もちろん、俺の親父にも、その諺を狩りの際に教えてもらっている。
「それじゃあ、選んで? この娘を置いて、アリスと今すぐ雪の女王の所へ向かうか、それともこのままその娘が目覚めるのを待つのか。もちろん、その妖精を待つのであれば、アリスは帰るよ!! このままアリスと一緒に雪の女王の所へ向かうなら、雪の女王をぶっ殺すことは確約するよ?」とアリスさんは選択肢を俺に突きつける。
俺は、アリスさんから鋭い視線を受けていた。普段のアリスさんの陽気なイメージとはほど遠い厳しい雰囲気だった。
俺は答えた。
「雪の女王は逃がしません。どこに隠れようが、必ず追いかけて、いばらの塔を進む方法を問いただします。ただ、先ほどのアリスさんのやり方は正しくないと思います。もし、アインセールが足手まといになるのだとしても、それを話したらアインセールはきっと分かってくれて留守番をしてくれていたと思います。先ほどのアンネローゼさんのクエスト協会の申込書と、アリスさんのやり方は同じだと思います。ちゃんと、前もって説明するべきだったと思います。アリスさんが、エインセールを眠らせる前に、ちゃんと雪の女王とエインセールの戦闘の相性が悪いと説明してくれれば、エインセールだって、俺だって分かりました。アリスさんが理由を話してくれたら、エインセールは留守番をして、そして俺とアリスさんで今頃は雪の女王の場所へと向かっていたと思います」と俺は答えてた。
「つまらないなぁ。やっぱり君は、二頭を追っているようで、一頭を追い続けているんだね。アリス的にはそれが気にくわないよ……。アリスは、もう目的は終えたからノンノピルツへ帰って寝ることにする!! 雪の女王は君とこの娘に一旦任せるよ。雪の女王は、雪原ルイヒネージュにいるよ……。暴君グラゴーネの活動を抑えるために大量の魔力を使ったから、しばらくは雪原から動かないよ。この娘が目覚めてからも充分に間に合うよ……。ふん。アリス的には、デジレにがっかりだよ!!」と言って、アリスさんは何処かへ行ってしまった……。アリスさんが暴君グラゴーネのことなどを知っているのかを問おうと思ったが、取りつく島も無かった……。魔法の手鏡のことを質問しただけで、アンネローゼさんのことを俺が怪しいと思っていることを見抜いたりとアリスさんは鋭いところがある。一を聞いて十を知る女の子。もしくは、アリスさんは独自の情報網を持っているのかも知れない……。それに、雪の女王が暴君グラゴーネの活動を抑えた? グラゴーネが海温の低下により休眠したのは、雪の女王がやった? そうだとすれば…… 俺は助けられた? しかし、ヴァングロットの穴を冷たく冷やしている魔法がいつ解けるか分からない以上、偶然ということもある。俺が見た六花も、雪の結晶ということであれば、それは雪の女王か、その手下の仕業だろう。分からないことだらけだ……。
俺と、そして両手で眠るエインセールだけが、神聖都市ルヴェ—ルの城の前で残された……。俺の両手に支えられて、俺の右手の親指を枕にしてぐっすりと眠るエインセールはまるで、おとぎ話で聞いたことのある、紡錘で指を刺してしまって寝てしまったお姫様のようだった。




