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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
5章 神聖都市ルヴェール
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34 神聖都市ルヴェール

 神聖都ルヴェールで一際目立つのが、大きなお城だった。城塞都市シュノーケンのような威圧的な城ではなく優雅なお城だ。白を基調とした美しい城だ。都市の住人達が城の入口の前に人の群れを作っていた。シンデレラさんに会いに行くために、その人の群れの中に押し入っていくと、城門の前に豪華な馬車が並んでおり、煌びやかな衣装を身に着けた男女が城の中へと入っていくのが見えた。


「何かお城にたくさんの人が入って行きますね。何かあるのでしょうか?」とエインセールが言うと、「今日は舞踏会があるのさ。クエスト協会ってのが出来たお祝いなんだって」と、都市の噂話やご近所の話などをなんでも知っていそうな感じのおばあさんが、嬉しそうに教えてくれた。


「舞踏会ですか! 素敵です! 私も一度でいいから踊ったりしてみたいです」と、エインセールは目を輝かして言う。


「私も、もうちょっと若かったらねぇ」


「私も、もうちょっと大きかったらなぁ」


 なんて言って、もうちょっと若く、じゃ足りない年齢の人と、もうちょっと大きくでは足りない妖精が、世間話を始めた。


 俺は、見張りをしている兵士に声を掛け、シンデレラ姫への取り次ぎを願う。舞踏会のため、忙しいということで取り次ぎを渋ったが、人魚姫ルーティアさんの名前を出すと、兵士は大急ぎで城の中へと走って行った。


「若いころわねぇ。舞踏会でぶいぶい言わせていたのよ」と先ほどのおばあさんとエインセールはまだ話をしているようだった。エインセールは、おばあさんが話す、舞踏会での逸話を目を輝かせて聞いていた……。


 ・


 しばらく待っていると、先ほどの兵士がやってきて、俺たちを城の中へと案内してくれた。舞踏会に参加するお洒落な服や大胆なカットのドレスを着ている人たちと同じ入口から、薄汚い旅装束の男が城の中に入っていくのは目立つらしく、俺は注目を浴びてしまっていた。あんな汚らしい恰好で、舞踏会に参加するのか? とか、後ろ指刺されていたらどうしようと心配になるほどだ。


 城の中には既に舞踏会の会場のようになっていて、シミ一つ無い赤絨毯が床に敷かれている。そして、弦楽器とピアノによる演奏が始まっていた。会場の一番奥の場所が一段高い場所になっていて、そこに座っているのがシンデレラだった。この前見た、武装したシンデレラではなく、純白なドレスを着ている。


「デジレ殿。よく来てくれた。ここは少し騒がしいな。別室へ行こう」とシンデレラさんは言って、俺とエインセールを城の奥へと案内する。

 シンデレラさんは、肩が露出したストラップレスドレスを着ている。しかも、背中に関しては3分の2くらいが露出しているようなドレスだ。鎧などを着ていた時には分からなかったがウェストも細く、二の腕もスラリとしている。鎧を着ているシンデレラさんは勇ましい印象を受けるが、ドレス姿のシンデレラさんは騎士に守られるお姫様みたいだった。


 ・


「なるほど…… 古の魔物、暴君グラゴーネの封印が破られた。それだけでも一大事だが…… その封印を破ったのはアンネローゼの騎士の可能性がある。また、暴君グラゴーネの海を冷たくしていたのは、雪の女王の騎士……。そしてデジレ殿が言うように、確かにクエスト協会の設立は、アンネローゼにしても手際が良すぎる……。アンネローゼと雪の女王が手を組んだ可能性があるな。疑惑に次ぐ疑惑……。同じ姫としてアンネローゼと刃を交えることなどしたくはないが……。私が忠誠を誓ったルクレティアに害をなすのであれば、アンネローゼ様の妹であったとしても、アンネローゼを討つ!!」とシンデレラさんは瞳に強い意志を宿してそう言い切った。


「ですが、証拠という証拠はありません。暴君グラゴーネが封印された場所にあったアンネローゼさんの騎士の鎧も、波に流された可能性があるとのことです」と俺は言う。


「分かっている。確固たる証拠がなければ動くことなど出来ない。もし、今、証拠もないまま争えば、それこそ保守派と改革派とで血なまぐさい争いに発展する可能性がある。それは絶対に避けなければならない。それに、アンネローゼが本当に自分の姉を害し、自らがこの世界の王となると考えていたとしても、他の改革派であるリーゼロッテや、ラプンテェルがそれを承知しているとは思えない。アンネローゼの陰謀の証拠を掴み、リーゼロッテとラプンテェルを説得する方が先決であろう」と、シンデレラさんは言う。


 シンデレラさんの言うとおり、現状では、保守派と改革派は聖女ルクレティア様を目覚めさせるのが先決か、呪いを解明するのが先決かという、いわば、優先順位で意見が対立しているだけだ。それが、ルクレティア様を殺す、ということをアンネローゼさんが考え、そしてそれを行動に移したのであれば……。改革派と保守派が剣を交えることになる可能性が大きいだろう……。そうなれば、この世界が二分されることになるだろう……。


「シンデレラさん。そのことは慎重にお願いします。そうでなければ大きな争いを生むことになります」と俺は言う。


「もちろんだ。ありがとうデジレ殿。不審な点が無いか、アンネローゼの動きを注意して見守るに留めておこう」とシンデレラさんが言う。俺は、その言葉にほっとため息をついた。シンデレラさんが直情的になってしまったら、止めるのが難しかっただろう。


「あと、別件なのですが、ルチコル村のリーゼロッテさんからクエストの依頼を受けています。ルチコル村では、魔物が増加したせいで、収穫した林檎を他の町や都市に運ぶことができず、困っています。そこで保存のきく、林檎ジャムにしようというアイデアがあるのですが、林檎を入れる容器がなくて……。それで、ルヴェールのガラスの容器を仕入れることができないか、と依頼を受けました」と俺は、もう1つの用事も済ませておく。あの蜜のたっぷり入った林檎を腐らせるのは勿体ない。


「林檎ジャムの容器か……。現状で、十分な在庫があるかは分からないが、作ることは可能だ。その話、引き受けさせて貰おう。私に任せてくれ!! それにしても、さっそくクエスト協会の依頼を引き受けてもらって済まないな。実は、デジレ殿にも、クエスト協会に参加してもらおうと思って、この参加用紙を準備していたのだが、不要であったな」と、シンデレラさんはテーブルの上に、クエスト協会に協力する騎士が提出する用紙を置いた。


 そして俺は思い出した。


「あ、そういえば……。城塞都市シュノーケンに立ち寄った際、アンネローゼさんからその用紙いただいていました……」と俺は、クシャクシャになってなった申込用紙を荷物の奥底から取り出す。そういえば、アンネローゼさんからも、クエスト協会に提出してと言われていた……。すっかり忘れていた……。


 俺も、その用紙をテーブルに置き、アイロンをかけるように手でその皺を伸ばしているとき……。


「アリスちゃん、登場〜〜!!」と、ノックもしないで扉を乱暴に開けて部屋に入ってきたのは、アリスさんだった。


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