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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
4章 ヴァングロットの戦い
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32 深まる疑念

俺は暴君グラゴーネに殺される寸前だったこと。そして、走馬燈なのか幻だったのか現実だったのか俺自身ですら判断が付かない、六花が咲き乱れた状況を話した。


「デジレさん……。大変だったのですね……。よかったら、背中をお流しいたします……」とヘチマを乾燥させたような珊瑚礁を右手に持って俺の方へとゆっくりと温泉の中を近づいてくる。


「姉さん。今は情報共有が先決よ」とベアトリクスさんが言う。


「そうね……」と、ルーティアさんは残念そうに言った。俺も少し残念だった。


「俺は、どうして助かったのでしょうか?」と、俺は率直に尋ねた。あの状況で死ななかったのは、誰かが助けたとしか思えない。


「そのことなのだけど……。私達が辿り着いた時には、デジレさんと暴君グラゴーネしかいなかったわ……」とルーティアさんが答える。


「え? あの怪物もいたのですか? それで、俺は生きていたということですか?」と俺は更に質問を重ねる。疑問が深まるばかりだ。


「援軍に行った人魚の話では、デジレさんは、ヴァングロットの穴の底に横になって意識を失っていたの。重傷を負い、そして低体温症になっていた。暴君グラゴーネは冬眠状態に入っていたわ。アレの周りを、まるで封印するかのように氷柱が囲んでいたそうよ。その氷から発せられる冷気のせいでデジレさんは、低体温となっていたわけだけど……」とルーティアさんが説明をしてくれた。


「それはどういうことなんですか?」


「まず、あの化け物の正体なのだけど、伝承と完全に一致するわ。アレは、暴君グラゴーネと呼ばれる魔物。初代聖女様に2千年前に封印されたとされる、海の生物を滅亡させるとさえ言われた化け物よ。そして、デジレさんが助かった理由のなのだけど、暴君グラゴーネが冬眠状態に入ったからと推測されているわ。暴君グロゴーネと外見がとても良く似た性質を持つ海の生き物がいるの……。大きさはそれこそ、手のひらほどの大きさなのだけど……。その生き物は、海が冷たくなると活動を停止して冬眠をするの。そして、海が暖かくなるまで待つの。それと同じように、恐らくヴァングロットの穴が氷によって海温が低下したことによって、暴君グラゴーネも冬眠に入ったのだと学者たちは言っているわ。間一髪、デジレさんは、暴君グラゴーネが冬眠に入ったから攻撃されずに済んだ、ということというのが今の有力な仮説よ」とベアトリクスさんが言う。


「そうですか……あっ! でも、そうなると、海を冷たくしていた雪の女王ヴィルジナルの騎士と名乗ったカイベルハルトは…… 暴君グラゴーネが暴れないように海を冷たくしていたということですか?」と俺は罪悪感を覚える。海を冷たくして、海に住む魚たちの生活の場所を奪った悪い奴。出会い頭から殺気を飛ばしていたし、俺も完全に敵だとしか思っていなかった……。倒すべき相手であったのだろうか?


「デジレさん。そんなに自分を責めないで……。それに、話はもっと複雑なの……。暴君グラゴーネは、ヴァングロットの穴に初代聖女様によって2千年前に封印された。その封印が解けた。いえ、何者かにその封印が解かれたの……。封印魔方陣を無理矢理破った痕跡があったの……」とベアトリクスさんが続きを言いにくそうにしている。途中から歯切れが悪くなった。


「……」エインセールが気まずそうな顔をして温泉に浸かっている。


「どんな痕跡があったのですか?」と俺は聞く。


「白雪姫……。アンネローゼの騎士の鎧が発見されたの…… シンデレラが悲しむわ」とルーティアさんがため息交じりに言う。ルーティアさんは、シンデレラさんの派閥で保守派に属している。だが、おそらくはもともと争いを好む性格ではないのだろう。


「暴君グラゴーネの封印を解いたのは、アンネローゼンさんということですか?」と俺は聞く。


「その可能性がある、ということしか今は言えないわ」とベアトリクスさんが深刻そうな顔をして言った。


「そうなのですか……。やはり」と俺は言った。1つの線で繋がった気がした。


「やはり?」とエインセールは首を傾げる。そして、ルーティアさんとベアトリクスさんも俺の話を待っているかのように俺を見つめている。


「まず、白雪姫アンネローゼさんに対して疑問が生まれたのは、クエスト協会の設立の件です。いばら姫ルクレティア様がお眠りになって2週間と少し。しかし、そんな短期間でクエスト協会という組織を構想し、実現できるものなのでしょうか。聖女が眠りにつき、暴れ出す魔物で困った人がクエスト協会に依頼し、騎士達がそれに応える。そのアイデアは画期的です。ですが、画期的ゆえに、そんな短時間で考え出せるようなものではないと思いました」


「でも…… アンネローゼは聡明な人…… 思い付いたとしても不思議じゃないと思う……」とルーティア

が言う。


「俺も最初はそうなのだと思いました。しかし、城塞都市シュノーケンで、すでに完成していたクエスト協会の看板を見たとき、明らかにおかしいと思いました。この港町ウォロペーレアに来る前に、豊穣の里ルチコル村に寄りました。その時、リーゼロッテさんはクエスト協会の看板を制作しているところでした。木の板を彫って作るというものです。しかし、城塞都市シュノーケンでは、立派な鉄製の看板でした。鋳型を作り、鉄を流し込み、固める。決して短時間で作れるようなものではありません。しかし、ルーティアさんも参加された、教会の町アルトグランツェでのクエスト協会の設立が決定した会議の後、俺はすぐにシュノーケンに向かっています。俺がシュノーケンに到着するまでの、たったの3、4時間で鉄製の看板が作れるとは思えません。明らかに、クエスト協会が設立が決定する前から、事前に看板を発注していたということだと思います。時間的に、いばら姫ルクレティア様がお眠りになってしまって直ぐに、発注をした。もしくは……」と俺は続きを言うべきか迷った。

 リーゼロッテさんは心からアンネローゼさんを友達だと思い、信頼している。『アンネローゼは他の人の為に頑張っているって信じることができるんだ。アンネローゼは、一生懸命、酸っぱい林檎を自分で食べて、みんなに甘くて美味しい林檎を食べさせてあげようとしている。そう思うんだ。だから、そんなアンネローゼを私は守りたいって思うの』と俺に語ってくれたリーゼロッテさん。アンネローゼさんが黒幕だったとしたら、どんなにリーゼロッテさんが傷つくだろうか。そんなことを考えてしまうと、続きを言うのが憚られる。


「ルクレティア様が呪いで眠ってしまう前にその看板を発注していた…… ということね?」とベアトリクスさんが俺の意図を察して言葉を続けてくれた。


「はい。その通りです。しかし、ルクレティア様が呪いで眠ってしまう前の世界は平和で、クエスト協会なんて組織がそもそも必要なのか……という疑問が残ります。世界が乱れたから、クエスト協会を設立するということなら分かります。しかし、平和なのにわざわざクエスト協会を作る準備を前もってしているとしたら…… ルクレティア様が呪いで眠ってしまうことを事前に知っていた可能性があるのではないでしょうか? もっと悪く言ってしまえば、ルクレティア様に呪いをかけた犯人の可能性ですらあり得ます」と俺は言い切った。


「あわわ! い、陰謀の香りがします~!!」とエインセールは驚いている。


「でも…… いばら姫が眠りについた際に雪の女王の姿が目撃されているとの情報があるわ…… それに、 各地の魔物も彼女がけしかけているという噂も……」とルーティアさんは不安そうに両手を祈るようにして言った。ルーティアさんは、姫仲間を疑ったりはしたくないのだろう。


「そこなのです。だから俺は、アンネローゼさんとヴィルジナルは、裏で繋がっているのではないかと疑っていました。だから、雪の女王はいばら姫ルクレティア様のところへ辿りつかせないようにいばらの塔ピリシカフルーフの通路を氷で塞いだ。誰かがいばら姫を探しだし、眠りの呪いを打ち破ったら、折角設立したクエスト協会も意味がないものになってしまいますから……」


「で、でも、今回は、雪の女王の騎士が、暴君グラゴーネが暴れないように冬眠させていたのですよ? 暴君グラゴーネの封印を解いたのがアンネローゼさんであるなら、2人の行動に矛盾があります!!」とエインセールが言う。たまには、もっともなことを言うじゃないか、と俺は思った。


「こうは考えられないかしら。暴君グラゴーネの封印を解いたのはアンネローゼ様。そしてそれを冬眠状態にしていたのが雪の女王ヴィルジナル。タイミングを調整していただけと考えれば辻褄が合うわ」とベアトリクスさんが口を開く。


「タイミングを調整していただけ?」と俺とエインセールは、声を揃えて聞いた。


「考えて見て。私たちがカイベルハルトを倒して直ぐに、暴君グラゴーネは活動を始めたわ。私が氷塊をばらばらに砕いちゃったから冬眠から目覚めるのが早かったのかも知れないけど……。あそこはもともと暖かい海よ。あの氷も数日以内にあの氷塊も溶けたと思うわ。そして海の温度が上がり、暴君グラゴーネが暴れ出す。暴れ出してほしいタイミングで、魔法を使うのを止めれば、あとは勝手に化け物が穴から這い出して暴れてくれるっていう手筈……」


「……」俺を含め、誰も口を開かなかった。ベアトリクスさんの仮説には説得力があったからだ。


「アンネローゼ…… シンデレラが悲しむわ」とルーティアさんが呟く。


「大丈夫よ、ルーティア。まだ、そうだと決まった訳ではないのだし。封印を溶いた場所にアンネローゼさんの騎士の鎧があったのだって、海流で偶然流されて運ばれてきた物の可能性だってあるわけだし」と、ベアトリクスさんが明るく言った。


「そうですね。すみません、俺もはっきりとした証拠があって言っているわけではないです」と俺は答えた。


「でも…… その可能性があることはシンデレラ様の耳に入れておいた方が良いかも知れないわ」とベアトリクスさんが言う。


「私…… なんて説明すれば良いのかしら……」とルーティアさんが目に涙を貯めて、俺を見つめる。


「…… 良かったら、俺がシンデレラさんにお伝えしましょうか? えっと、ルチコル村のリーゼロッテさんからクエストの依頼を受けていて、どのみち神殿都市ルーベルに行かなきゃならないですし……」と俺は答えた。それに、根が真面目なシンデレラさんのことだ。言い方を間違えると、アンネローゼさんのところへ行き成り乗り込んだりして話を聞こうとするかも知れない……。アンネローゼさんが黒幕だったとしても、確固たる証拠が必要になる。アンネローゼさんの言動を見るに、証拠がなければ歯牙にもかけないだろう。


「ありがとう…… でも、傷が良くなるまではゆっくりしていって」とルーティアさんは言った。


「もう大丈夫です。この温泉の効能か、傷もだいぶ良くなってしまいました。十分に動けると思います。むしろ…… これ以上休んでいたら体の方が鈍ってしまいそうですし」と俺は答える。


 次の目的地は、神殿都市ルーベル!!

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