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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
4章 ヴァングロットの戦い
32/72

27 ファイヤー・アロー

「どうやら倒せたようだ」と俺は結論付けた。

 カイベルハルトが着ていた兜や鎧の隙間からイカが吐いたような真っ黒な墨が染み出していく。そしてそれは海水と混じり合い、海流に流されて消えていった。


「手強い相手でした。それにしても、この氷は自然と溶けるのでしょうか?」とエインセールは手の甲で氷解を、扉をノックするかのように叩いて言った。ピリシカフルーフの2階の扉は、自然には溶けない。この氷もそうではないかと心配をしているのだろう。


「氷を作りだしていたのは間違いなく先ほどの男です。魔力の供給が亡くなったのだから、自然に溶けるはずだわ…… ただ、細かく砕いた方が早く溶けるわね。2人とも、ちょっと離れていて」と言って、ベアトリクスさんは弓を構える。


「ファイヤー・アロー」

 ベアトリクスさんが放った矢は、炎だった。海で消えることなく、逆に周りの海水を沸騰させ、大量の気泡を発生させながら氷に突き刺さる。突き刺さった矢も、氷塊の表面で止まることなく、氷を溶かしながら中へ中へと突き進んでいく。


「ファイヤー・アロー」


「ファイヤー・アロー」


 ベアトリクスさんは、氷塊の四方や真上からも矢を放つ。ベアトリクスさんが四方から放った弓と真上から放った弓が氷塊の中心で合わさり、まばゆい光とともにはじけた。

 氷は砕けた。


「これで少しは溶けやすくなったかしら」とベアトリクスさんは言う。


「スゴイ! すご~い! 氷がはじ砕けたよ~。デジレさんがいくら頑張っても砕けなかったいばらの塔の氷も、ベアトリクスさんなら壊せちゃいそうだよ!」とエインセールは興奮した口調で言う。

 

 俺は、『デジレさんがいくら頑張っても砕けなかった』という言葉が余計だと思う……。地味にプライドが傷つくのだけど……。


「陸上では私達は本領を発揮できないわ。それに……」とベアトリクスさんは俺の方を一瞬だけちらりと見てから言葉を続けた。

「デジレさんが出来なかったのなら、私にもきっと無理よ」と。


 …… フォローありがとうございます、と俺は思った。ベアトリクスさんは、魔物との戦闘中でもそうだが、常に周囲に気を配ることのできる素敵な女性だと思う。戦闘中も常にエインセールをフォローできる位置取りをしているし、俺が攻撃をしやすいように敵の注意を惹きつけてくれたりとヘイト管理も完璧で、一緒に戦う際に安心して自分の背中を任せられる。

 それに…… 美人だしスタイルも良いし、解放的な服装だから目の保養というかなんというか…… 


「……」エインセールが、何故か俺の頬を抓る。


「なんだよ。エインセール」と俺が言うと、「何となくです」と頬を膨らまして、ぷぃっと飛んで行ってしまった。


「ふふっ。仲が良いのですね」とベアトリクスさんは俺たちのやり取りを見て楽しそうに笑っている。


「さて、宮殿に戻りましょう」と俺は言った。海水を冷やしていた氷もバラバラになったし、しばらくすれば元の海温に戻るはずだ。


「そのことなんだけど、デジレさんは、この穴を登っていくつもり?」とベアトリクスさんが言う。


「ええ。大変ですが……」と俺は答える。


「エインセールちゃんは飛べるし、私は泳いで上がっていけるわ。デジレさんがよかったら、私の背中につかまる? その方が随分と楽だと思うのだけど」


「あ、いえ…… 良いんですか?」


「もちろんよ。一緒に戦った仲間だし。それに、多くの困った魚を助けてくれたわ。私たち海に住む習慣では、助けてくれた人を背中に乗せて宮殿まで案内し、宴を開いてもてなすのよ」とベアトリクスさんが言った。

 そういえば親父から、海辺で苛められていた亀を助けた少年が、亀の背中に乗って海底の宮殿に案内された、というおとぎ話を聞いたことがあった。本当だったんだ……作り話だとばかり思っていた。


 ベアトリクスさんの滑々の肌…… 華奢な肩に触れる。そう考えるだけで緊張するが……


 ではお願いします、と俺が言おうと思った矢先、「駄目です。駄目で~~す!! デジレさん! 目つきが厭らしいです!!」とエインセールが猛反対をし始める。


「エインセールちゃんが反対なら仕方がないわね」とベアトリクスさんはあっさりと引き下がった。ぐっ、エインセールめ。余計な事を……。


「では、デジレさん。さっさと帰りますよ。早く登ってください」とエインセールは俺を先導し始める。


 この深いヴァングロットの穴を登るのかぁ……。それが当たり前なのではあるのだけど、ベアトリクスさんの背中にのって海底遊泳を楽しむことに後ろ髪を引かれる俺であった……。

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