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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
3章 冷たい西の海を目指して
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21 空の草原エングヒンメル

 空の草原エングヒンメル。そこは、絶景だった。天から流れ落ちる水に流されないようにと天空に橋が掛かっていた。また、無数の川が無数の滝を作り出している。悠久の時が流れ、水が大地を削っていったのだろう。切り立った崖の遙か下に川が流れている。底まで数百メートルはある切り立った崖。そして、崖の底をめがけて轟音を立てながら水が重力にしたがって落ちていき、滝を作り出している。谷間の間に架かっている天然の橋。

 雲の切れ目から太陽が顔を出すと、滝から放出される水霧によって虹が作り出されていた。俺は、空に掛かる虹の根元を見たことは無かった。虹の根元には宝が眠っているのだというおとぎ話を聞いたことはある。しかし、虹に根元なんてないと思っていた。しかし、崖と崖が作り出す谷間の流れ落ちる滝の前にある虹には、根元があった。虹は確かに、崖の部分から崖の部分へと繋がっていて、歩いて渡ることができそうな橋を作り出していた。虹の根元となっている崖には、本当に宝が眠っているように思えた。


「デジレさん、見ててくださいね」と言って、エインセールが虹の所へと飛んでいく。そして、虹の上を両足で歩いて行く。両手も大きく振りながら、虹の上を歩いていた。実際にはエインセールは自らの羽で空を飛んでいて、両手両足を振って、虹の上を歩いているかのように見せているだけなのだけれど、それは本当に虹を歩いているかのようだった。


「凄いよ! エインセール」と俺は思わず叫んだ。


「エインセールの秘技、ウォーキング オン ザ レインボーです」とエインセールも楽しそうだ。


 俺達は、エングヒンメルの光景を眺めながら、ルチコル村でもらったグレーテルさんの焼いたアップルパイを食べることにした。


「美味しいですね。このシナモンの香りが絶妙です!!」とエインセールは満足そうに言う。


「グレーテルさん、パイを焼くのが得意と言っていただけのことはあるね」と俺も舌鼓したづつみを打った。


「美味しかったです」


「本当に」と俺とエインセールは言い合った。そして、あっという間にアップルパイを平らげてしまった。


「お腹いっぱいで飛べそうにありません。すこし休憩をしませんか」とエインセールがお腹を摩りながら言う。


「そうだね」と俺も同意した。少し休まないと、走れそうもない。走りっぱなしの体を休めたい気持ちと、このエングヒンメルの絶景を眺めて居たい気持ちの両方があった。


「デジレさんは、どうしてこんな地形が生まれたのかご存じですか?」とエインセールが言う。


「ん? 想像が出来ないよ。自然が生み出した芸術っていうのかな」と俺は感想を言った。川に架ける橋は、川を馬車でも渡れるようにするために人間が考え出して、そして創り出したものだ。しかし、この空の草原エングヒンメルに架けられている、岩で創られたアーチ状の橋は、人間が作り出したものじゃない。まるで、人が雲の上を歩けるようにするための架け橋のようだ。


「説明します! このエングヒンメルの地形は、硬い岩盤と柔らかい岩盤とが混合した地層なんです。そしてそのような中で、流れる川の水によって柔らかい岩盤だけが長い時を経て削られたのです。そして、長い時を経て、この地形が生まれたのですよ」とエインセールが説明をしてくれた。


「エインセールは、そういうのに詳しいんだね。流石、導きの妖精って感じだよ! いろいろと説明できちゃうものなんだね」と俺は答えた。目の前の光景が美しすぎて、そして壮大過ぎて、その成り立ちになんて考えが俺は及んでいなかった。


「まぁ、じつはオズヴァルトさんの受け売りなんです……。オズヴァルトさんから景勝地の話を沢山聞いていて、エングヒンメルにもいつか行ってみたいと思っていたんですよ! 実は、私もこの場所に来たのは初めてなんです」とエインセールは言う。


「あれ? そうなんだ。エインセールって、導きの妖精なんだろ? ここにも来たことがあったと思ってたよ。いままで、いろんな場所に人を導いていたんだろ?」


「残念ながら、そんなことはないですよ。私はもっぱら、教会の町アルトグランツェで過ごしていましたしね。行ったことがある町と行ったら、シュノーケンくらいでした」


「え? そうだったんだ。エインセールって、何歳なの?」と俺は聞いた。エインセールは、妖精だし、いろいろな町や都市に行ったことがある道だから、案内できていると俺は思っていた。時折、関係ない場所にまで俺は導くことはもちろんあるのだけど……。


「レディーに年齢を聞くのは失礼ですよ」と、エインセールは一差し指で俺の頬を突き刺す。


「ご、ごめん」と俺は思わず謝った。


「別にいいですけどね〜。でも、実は私も、自分が何歳なのか分からないのです。オズヴァルトさんに言わせると、有るようで無いし、無いようで有る。昔からいるようでいない。今生まれたようで昔からいる。私は、そんな存在らしいですよ」とエインセールは言った。


「なんか、不思議な存在なんだね」と俺は言った。有るようで無いし、無いようで有る……。禅問答のような気がする。考えても、答えが導き出せそうにない気がする。


「そうなんです。妖精というのは、摩訶不思議な存在なのです」とエインセールは言った。


「不思議だよな。俺が住んでいた家にも、火の妖精が竃に出てきたり、土の妖精が畑に出てきたり、水の妖妖精が湧き水の場所で踊っていたりしたけど……。思い起こせば、エインセールのような人の姿をした妖精なんて、見たことがなかったよ」


「それはそうでしょ。私のような人型の、導きを与える妖精はとても珍しいのです! そのせいで、他の妖精からはのけ者にされてしまってはいましたが……。私は、友達になって欲しかっただけなんですが……」とエインセールは悲しげな顔をする。


「その気持ち、俺の親父と似ているかも知れない……。俺の親父も、『俺が普通の姿だったら、こんな山奥ではなく、普通に暮らせたのにな。デジレ、すまないな……』って、時折謝っていたよ。もちろん、俺は幸せだったけどね。むしろ、親父が死んでしまって、独りになって悲しかったよ」と俺は言った。なんで俺はこんなことを話しているのだろう。崖の先端に咲いていて、寂しそうに谷風に揺られている一輪の花が視界に入ったからだろうか……。


「自分と違うものを、排除しようとするのは、みんな同じですね……。でも、私は、デジレさんに会えて嬉しいですよ。デジレさん、私は、友達です! それでいいですか?」とエインセールが言う。


「もちろんだ」と俺は答えた。


「約束ですよ!」と、エインセールは小さい両手で俺の小指を握りしめ、俺と指切りをした。


「へへへっ。これで、私とデジレさんは、ずっと友達です」とエインセールは金色の髪を太陽で輝かせながら、笑っていた。

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