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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
3章 冷たい西の海を目指して
24/72

20 初めてのクエスト受注

「竹かご2つ分の林檎なんて、アップルパイを作るのに、そんなに必要ないわよ。こんな言葉、ご存じないかしら? 過ぎたるは及ばざるが如し、って」と、グレーテルさんが言った。グレーテルさんの手には小麦粉の粉で真っ白になっている。どうやら、アップルパイの生地を準備していたようだ。ヘンゼルさんは、忙しそうに、薪両手一杯に抱えて走り回っている。

 

 竹カゴを一杯にして、ブレンノフェン果樹園からルチコル村に帰ってきた俺とリーゼロッテは、グレーテルさんに怒られていた。林檎を収穫した量が多すぎると……。

 ブレンノフェン果樹園で「一杯取れたね。グレーテルさんも、これだけあればお菓子の家を食べたこと、許してくれそうだね」と笑い合っていたのに、とんだ肩すかしだ。


「デジレさん、リーゼロッテさん、本当にありがとうございます」と、エインセールは申し訳なさそうに俺達に言った。口元には、よだれの跡のようなものがあって、たぶん、俺達が林檎を拾っている間、お腹いっぱいで寝ていたのだろうけど。


「林檎はそのまま食べても美味しいからね。もちろん、グレーテルのアップルパイも美味しいけど」とリーゼロッテさん特にグレーテルさんが言っている小言を気にしている様子は無かった。どの道、地面に落ちてしまった林檎なのだから、収穫しないと悪くなってしまう。


「おやおや、たくさんの林檎だね」と、上品そうなお年寄りの女性がやって来て言った。


「あ、おばあちゃん。この、デジレさんが協力してくれたんだよ」と、リーゼロッテさんが言う。


「ありがとうね。私は、マリアンネ。リーゼロッテとオランジュの祖母だよ。ところで、オランジュを見なかったかい?」とマリアンネさんが言った。


「見てないけど……。あ、あの木の陰に隠れてる! 連れてくるね」とリーゼロッテは走り出し、あっと言うまにオランジュをお菓子の家の前に連れてきた。


「オランジュや。そら、見せてごらん。怪我をしているんじゃないかい?」と、マリアンネさんは言った。


 オランジュさんは、気まずそうに両手を背中に回し、唇を尖らして顔をプイっとした。


「え〜! あ、本当だ。オランジュ、もしかしてクエスト協会の看板、自分で掘ろうとして怪我したんじゃない?」とリーゼロッテさんが少しだけ咎めるような口調で言った。妹を心配しているのだろう。


「だって。私にも出来ると思ったんだもん」とオランジュさんは拗ね始める。


「まあまあ。失敗をして人は成長するものさ」とマリアンネさんが言う。


「そら、見せてごらん……。うん。たいした傷じゃない。すぐに治るだろうよ」とマリアンヌさんは、手早く指に傷の手当をした。


「オランジュは、まだ子供なんだから危ないことしゃ駄目だよ」とリーゼロッテさんが言う。


「もう子供じゃないもん。私だって、村のみんなの役に立てるもん」とオランジュさんはさらに鋭く口をとがらして言った。


「それくらいで姉妹喧嘩は止めて。こんな言葉ご存じないかしら? 仲が良いほど喧嘩する、って」とグレーテルさんがリーゼロッテさんとオランジュさんの間に割ってはいる。


「う、うん」とリーゼロッテさんとオランジュさんが声を揃えていった。

 タイミングが一致する辺り、やはり仲のよい姉妹なのだろう。俺は一人っ子だったから、羨ましいと感じる。


「問題は、林檎よ。落ちてしまった林檎が多すぎるわ。村で消費しようにも、限界があるわ。それに、せっかく私達が丹精込めて育てた林檎を腐らせたくはないの」とグレーテルさんが言った。


「そうだよ。夏の暑い日も俺だけが、水をやったり、草をむしったりして、育てたんだ」と、グレーテルさんの後ろでずっと黙っていた。


「私だって、兄さんにそう指示を出したじゃない。私達兄弟が力を合わせたということじゃなくて?」とグレーテルさんは、ヘンゼルさんに優しく微笑む。


「そ、その通りだ。俺達が協力して育てたんだ。2人の力で。それが無駄になったらたまらないよ」とヘンゼルさんが言う。


「保存が効くと言ったら、林檎のジャムでも作れればよいのだけどねぇ」とマリアンヌさんがため息交じりに言う。


「だけど、ジャムを入れる容器がないの。もし、それがあれば、ジャムを作るのもいいんだけどね……」とリーゼロッテさんが言う。林檎ジャムを大量に作ったとしても、それを売ることができないのだろう。


「ジャムを入れる容器だったら、シンデレラさんの都市、神聖都市ルーヴェルに沢山あると思いますよ! オズヴァルトが、ルーヴェルはガラス工芸品が盛んな町だと聞いたことがあります。ジャムを入れるのに適したガラス瓶もあるのだと思います!!」と、エインセールが元気よく言った。


「それがあれば、林檎も無駄にならないね!」とリーゼロッテさんは、その場で元気よく両手を高く上げて飛び跳ねた。


「でもお姉ちゃん、今は呪いの影響で、瓶を仕入れるなんてことは難しいよ?」とオランジュさんが悲しい顔をして言う。


「大丈夫! そういう時の為に、クエスト協会ルチコル村支部を設立したのです。頼りになる騎士が、依頼を受けてくれて、きっと無事にガラス瓶をルヴェールからここまで届けてくれるよ!!」とリーゼロッテさんは高らかに言う。


「でも、騎士なんて都合良くこの村に来るの?」とヘンゼルさんが言う。俺は、ヘンゼルさんの指摘は正しいように思う。美しい村ではあるけれど、人の往来があるような場所でもない。魔物と戦える人も少ないから、林檎の収穫も、他の都市への輸送も出来ていないという状況なのだろう。


「……」


「……」


「……」


 なぜだろう? 俺に、みんなの視線が集まっているような気がする……。どうして、みんな黙って、俺の方を見ているのだろうか。特に、グレーテルさん……。微笑みながら俺を見ているが、その目は、鷹がウサギを狩る時の目に似ている……。


 リーゼロッテさんも、両手を合わせて、祈るようにしながら俺を上目遣いで見つめている。


「あー。俺は、港町ウォロペーレアに行って、海が冷たくなったという原因を調べなければならないのですが……」


「……」


「……」


「……」


 ちょっと、みんな……。あからさまに残念そうな顔をしないでくれよ。特に、オランジュさん……。俺が、意地悪をしているみたいじゃないか……。そんな泣きそうな顔をしないで欲しい。そして、マリアンヌさん……。すべて分かっていますよというような、暖かい目で俺を見つめないで欲しい……。


「で、ですが、その事の顛末を、シンデレラさんに伝える必要はあると思います……」と俺は根負けして言った。


「では、神殿都市ルヴェールに行くということですね」とグレーテルさんが言う。


「そういうことだ」と俺が言うと、


「よかったね。これで全部解決だよ」とリーゼロッテさんが嬉しそうに微笑む。


「分かった。ウォロペーレアの調査を出来る限り早く終わらせて、ルヴェールに向かい、そしてここにガラス瓶を届けるよ」と俺は言う。こうなったら自棄だ。


「ありがとうございます。では、ルチコル村初のクエスト依頼です。ジャムを入れるガラス瓶を仕入れてきてください!」とリーゼロッテさんが言う。


「分かりました。できる限り早くお届けするように頑張ります」と、俺は答えた。


「そういうことなら、この妖精も解放してあげるわ」とグレーテルさんが、エインセールを縛っていた縄を解いた。


「これでやっと自由の身なのです!」とエインセールは、元気にお菓子の家の周りを飛び始めた。





 俺と解放されたエインセールは、早速、港町ウォロペーレアに向かう。リーゼロッテさんが、俺達を見送りに来てくれた。


「ではデジレさん、気を付けてね」と、リーゼロッテさんが右手を挙げて俺に手を振ってくれる。


「いろいろとお世話になりました。アップルパイまで貰ってしまって、申し訳ありません」と俺は言う。


「全然いいよ! アップルパイは早めに食べてね! それに……もうデジレさんは、私の守りたい人の1人だから! 何かあったら私が君を守るよ」

 リーゼロッテさんは笑顔だった。まっすぐな瞳。ヒマワリが笑ったような笑顔だった。曇りなど無い純粋な笑顔だった。リーゼロッテさんには、困った顔は似合わないと思う。リーゼロッテさんに似合うのは、幸せいっぱいの楽しそうな顔だ。俺はそう思った。


「ありがとう。俺も君を守るよ! それじゃ」と俺は行って、村を去り、走り始めた。なるべく早く、ジャムを入れるガラス瓶をこの村に届けようと思う。


 ・


 俺は、しばらく走った後、ルチコル村を振り替えった。そしたら、まだリーゼロッテさんは俺たちに向かって手を振り続けていてくれた。それが、嬉しかった。また、リーゼロッテさんに会いたいな、できる限り早く、と俺は思った。


「あれ!? あれあれあれ? デジレさん、お顔が赤いようですが、どうかされたんですか?」とエインセールが言う。


 俺は、それには答えないで、先を急いだ。俺達の前には、空の草原、エングヒンメルが迫っていた。

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