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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
3章 冷たい西の海を目指して
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18 実りの森ブレンノフェン果樹園

 俺とリーゼロッテさんは、途中で魔物と遭遇しながらも難なく、ヘンゼルとグレーテルが管理しているというブレンノフェン果樹園に到着した。

 本当に難なくだった……。

 俺は、剣を使い、リーゼロッテさんは弓だった。親父から、前衛と後衛に別れて戦う戦法があるということは聞いていたが、その実戦経験はなかった。俺が魔物と接近し過ぎていて、リーゼロッテさんが弓を放つ邪魔になってしまうんじゃないかと、内心、心配していた。しかし、その心配は杞憂だった。リーゼロッテさんは、弓使いでは無かった……。バリバリの前衛だった……。武器は、自らの拳……。可憐な少女の苛烈な衝撃。俺が、集団戦闘に慣れていないことにリーゼロッテさんが気付き、気遣ってくれているのだろうと初めは思っていた。しかし、「この弓? これはファッションだよ?」と彼女は言った……。あまりに屈託のない眩い笑顔に俺は何も言えなかった。お菓子の家といい、リーゼロッテさんの拳といい、世界は広いと実感する俺だった。もう一度言おう。本当に、難なくブレンノフェン果樹園に辿り着いた……。



 果樹園には、大きく丸々と太った光沢のあるリンゴがたくさん実っていた。1本の木に少なくとも100個の林檎は生っているだろう。枝にたくさん実ったことによる重荷で、枝が地面に向かってお辞儀をしているようだった。本来高いところにあって、背伸びしたり、梯子を持ってこないと取れそうにない場所にあるような枝も、林檎の重荷によって、低く、リーゼロッテさんのように小柄な女の子でも十分に収穫ができる。

 

「見事ですね」と俺は言った。林檎の木のなのに、葡萄のように所狭しと林檎の実っている。


「ルチコル村の林檎は世界中の人が大好きなんだよ。だからね、この村の大事な産業のひとつ何だよ。だけど……」と、リーゼロッテさんは暗い顔になって地面に顔を向ける。


 リーゼロッテさんの視線の先は、地面に落ちたたくさんの林檎だった。背の低い芝生のような土の上に、いくつもの林檎が転がっている。


「西の方から冷たい強風が吹いてくるの…… 。その影響でね、林檎がたくさん落ちてしまったの。落ちた林檎は、売り物にできないから、村で食べちゃうしかないんだけど、こんなにたくさんの量だとね……。早く収穫しようにも、魔物の数も増えていて、収穫する人をなかなか確保できないし……」とリーゼロッテさんはため息をついた。


 ルチルコ村の人口がどれくらいなのか知らないけれど、多く見積もっても人口は50人程度だろう。その人数で、この落ちてしまった林檎を食べ終わるのは少し厳しいような気もする。朝、昼、晩に林檎を一個ずつ食べたとしても、1ヶ月はかかるのではないだろうか……。


「その冷気の風って、いつごろから吹いてくるようになったの? 季節ものの風ってことではないよね?」と俺は聞く。


「冷気は、3、4日前からだと思う。すっごく冷たい風が一気に吹き荒れるんだよ。私のおばあちゃんも、こんな風がこの村に吹いたことはいままで一度もなかったって言うの。だから、異常なことだということは間違いないと思う」


 確証はないけれど、その冷気というのは、ルーティアさんが困っていた、海が冷たくなったという現象と関連があるように思える。冷気が吹き始めた時期も一致する。それに、ルチルコ村の西の方向にあるのが、港町ウォロペーレアだ。方角も一致している。


「デジレさん? 怖い顔をしてどうしたんですか?」とリーズロッテさんが俺の顔を心配そうに覗き込んだ。


「ちょっと考え事をね。じゃあ、林檎をさっさと収穫しよう」と俺は実っている真っ赤な林檎に手をかけよようとした。


「あ、デジレさん。私たちが収穫するのは、地面に落ちてしまった林檎ですよ。地面に落ちてしまった林檎は傷みやすいですし、売ることも出来ないんだ。グレーテルのアップルパイも、落ちてしまった林檎を使うんだよ〜」とリーゼロッテさんが説明してくれた。

 俺達は、果樹園に置いてある大きな竹カゴを背負って前屈みになりながら落ちた林檎を集める。地面と顔を平行にして歩き回り、右手で林檎を掴んではそれを背中のカゴに放り投げていく。割れてしまった林檎があると、その林檎から漂ってくる甘い香りがなんとも言えない。林檎を拾っていく作業は、特に楽しくもなく、そして、つまらないというわけでもない。ただ、無心に林檎を拾っていった。


 カゴの7割が林檎で埋まったころ……


 コツンと俺の頭に何かが当たった。驚いて上体を起こしてみると、「いててて」と言いながら頭を抑えているリーゼロッテさんだった。どうやら俺達は、林檎拾いに夢中になりすぎて、雄鹿が角を互いにぶつけ合うように、お互いの頭をぶつけてしまったようだった。


『大丈夫?』と俺が声をかける前に、俺とリーゼロッテさんは目が合った。そして、お互いに笑い合った。


「だいぶ林檎は集まったし、ちょっと休憩しようか!」とリーゼロッテさんが言った。


「そうだね」と俺は背負っていたカゴを地面に置いた。


 リーゼロッテさんは、木に生っている林檎を入念に2つ選び、「みんなには内緒だよ」と言って俺に林檎一つを渡してくれた。


 林檎のつまった竹カゴを背もたれにして、俺達は蜜たっぷりの林檎で喉を潤した。

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