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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
3章 冷たい西の海を目指して
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16 小鹿の森キッツシカータ

 俺とエインセールは、要塞都市シュネーケンの南門を抜けた。シュネーケンの南門を抜けると、広大な森が広がっていた。森の中からでも、シュネーケンの城を見ることができる。シュネーケン城の両脇の塔の窓からは大砲の砲身が顔を出している。いくつかの砲身が俺の向いていて、今にも大砲が発射されそうな気がするのは、俺の気のせいだろう。

 それにしても、この森の街道は狭い。馬車がすれ違うのも難しい。要塞都市シュネーケンの規模から言ったら、立派に石で舗装された道があっても良いはずだ。しかし、続いているのは土が固められただけの道だ。おそらく、要塞都市を守る観点から街道をわざと狭く、そして雨が降れば泥濘むようにしているのだろう。つくづく合理的で、そして攻撃的な都市のように思える。


「デジレさん。後ろばっかり気にしていて、誰に後ろ髪をひかれているんですか? シンデレラ様ですか? アンネローゼ様ですか? またすぐに会えますよ~。この森は、小鹿の森キッツシカータです。鹿の群れが多く生息している森なんです。この森で、休憩をして食事などをすると、人懐っこい鹿なんかは餌を求めてやってくるんですよ。このあたりで、食事でもしますか? あの木の何て、腰掛けるのにちょうど良いのでは?」と、エインセールは樹齢数百年はありそうな太い木へと飛んでいくところであった。


 確かに、腰掛けるにはちょうど良さそうな木の根っこではあるのだけれど……


「ちょっと待って!!」と、俺は慌ててエインセールを片手で掴む。


「きゃあー。デジレさん!! 何をするんですか。しかも、どこを触っているんですか!! 変態~。誰か助けて~!」と、俺の右手に軽く握られたエインセールは、助けを求めながら俺の親指辺りを両手で太鼓を打つかのように叩いている。


「頼むから落ち着いてくれ!」と、俺は左手でエインセールの口を塞ぐ。


「んぐぐぐぅ~」とエインセールは頬を膨らましている。


「静かにするって約束するなら、口を抑えるのを止めるけど」と俺が言った言葉に、エインセールはコクリと頷く。俺は、ゆっくりとエインセールの口を解放した。


「あれは、樹木が魔物となった、ウッドンだよ。いま、エインセールが騒いだから、少しだけ覚醒したみたいだ。あの半開きになっている目が見えるだろ?」と俺は。先ほどエインセールが向かおうとしていた樹木を指差す。


「あれは、ただの木のコブが両目のように見えるだけ…… ではない!! デジレさん!! 見ましたか? いま、両目がきょろきょろと森の中を見回していましたよ!! 得物を狙っているかのような凶悪な目ですよ~」とエインセールは、涙目になりながら叫びだす。

 さっき、君が向かっていたのは、まさにあの木で、迂闊に近づいていたら、枝に擬態した触手に捕まえられて、ウッドンの口に放り込まれていただろうね、と言う事実を伝えたら、本当にエインセールは泣き出してしまいそうなので、脅かすのは止めておく。


「年老いた木など、生命力が弱まった木は、あのように魔物に乗っ取られてしまうんだ。森全体の生命力が弱っているように感じる。たぶん、他にもウッドンとなってしまった木がたくさんあるはずだ。エインセールは街道の中を飛んで、森の中に飛び込まないほうがいい」

 ウッドンは、木の魔物だ。木の幹は固いし、剣では苦戦を強いられる。斧か何かで斬り倒すか、ウッドンの弱点である炎の魔法で焼き殺すのが常套手段だ。自分から近づかなければ襲われることはないので、出来れば戦わずにやり過ごしたい魔物だ。


「んむむむむっ。可愛い小鹿が戯れる心休まる森だったのに、これは呪いの影響でしょうか?」


「おそらくね。鹿もいる様子はないし。ウッドンに捕食されたの……」


「ひゃわわわ! 怖いこと言わないでください。きっと、何処かへ逃げたのです。きっとそうです!! エインセールは、この森ではもう飛びません。ずっと、デジレさんの肩で羽を休めることにします」と言って、俺の右肩に勝手に着地して腰を掛ける。


「仕方がないなぁ。まぁ、ウッドンに捕まったのを助けるのよりは楽かな」と俺は呟いた。


「もしもの時は、よろしくお願いしますね」と、エインセールは両足をバタバタさせながら楽しそうに俺の右肩で言った。エインセールは羽をバタバタさせるか、足をバタバタさせるか、どちらかをしていなければならない妖精なのだろうか。エインセールと真逆の妖精がいるとしたら、それは、落ち着きの妖精という名前ではないだろうか……。

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