14 雪の女王の影を追え!!
俺とエインセールは、いばらの塔の1階と2階を結ぶ螺旋階段での出来事をシンデレラとルーティアさんに話をした。
「雪の女王ヴィルジナル殿か……。扉を氷で覆い、通行不可能にするなど、言語道断だ。騎士を一旦、いばらの塔から引き上げさせたのは失策であったか。その間隙を突かれてしまったということであろうな……。やはり、あの噂は本当なのだろうか……」とシンデレラさんが憤りながら言った。
「噂?」俺は、噂について初耳だった。
「今回、ルクレティア様が眠りについた際にも、ヴィジナジル殿の姿が目撃されているのだ。そして、各地の魔物も彼女がけしかけているという噂もあるのだ」
「そ、そんな!!」
エインセールは、俺の右肩から飛び出して、空中に飛び出てしまうくらい驚いている。
「そうだったのですか……。この世界の混乱の原因は、雪の女王の仕業の可能性があるのですね……。肝心の雪の女王は、魔法でどこかへ行ってしまいました。そして、あの氷は普通の氷ではありません。俺の力では、一欠片すらもあの氷を削ることすら出来ませんでした」と俺は現状を話した。悔しさが再度、俺の胸の中を込み上げてくる。
「彼女の氷は、たとえ灼熱の炎でも溶かすことが出来ないものであると聞いたことがある。並大抵の方法では、氷を破壊することはできないだろう。本人が魔法を解除しない限りは、あの扉は永遠に閉ざされたままであろう……。しかし、いばらの塔を雪の女王が封鎖するなど……。すまない、私が騎士を全員撤退させなければこんなことにはなっていなかっただろう。後手に回ってしまった。すまない」とシンデレラさんは頭を下げる。本当にシンデレラさんは生真面目な人だ。
「いえ、シンデレラさん。あなたは悪くないと思います。悪いのは、ヴィジナジルでしょう。俺は、雪の女王を探してみます。そして、あの扉の氷を溶かすように説得します。シンデレラさん、雪の女王の居場所などに心当たりはありませんか?」と俺は言う。いばらの塔に俺を呼んでいる人がいる。それは間違いないと、俺は感じる。塔の中にいるとき、強く、強く、誰かに呼ばれている感覚があった。
「すまない。雪の女王とはあまり懇意ではないのだ。雪の女王の拠点は、ヴォルケンベルク城だと言われているが。どうやってそこに行くのかすらも分からない。雪の女王によって作られて氷に阻まれ、誰も辿り着ける者はいないらしい。恐らく、いばらの塔の氷と同じ類いのものであろう」とシンデレラさんは暗い顔をして言う。
「それだと、雪の女王の拠点に乗り込むのは、現実的ではないですね……」と俺は言う。
「あの……。そのことなのだけど……。ご、ごめんなさい」とルーティアさんがずっと黙っていた口を開いた。彼女は、泉にある岩の上に座っていた。足の部分が本当に魚のようで俺は驚く。世界には、いろいろな人がいる、それにただ驚かされるばかりだ。
「どうかしたのか? ルーツィア」とシンデレラさんが問いかけた。
「最近、西の海が冷たくて恐いって……。魚たちが悲しんでいるの。もしかしたら、雪の女王に何か関係があるのかと……。何も確証はないのだけれど……。ごめんなさい」
「海が冷たい。それは異常事態だな。いつからなのか?」
「ほんの数日前から。お魚がみんな私の宮殿に逃げてきているの」
「数日前か……。だけれど、雪の女王の可能性がある。もしかしたら、雪の女王だってそこにいるのかも知れない」と俺は言った。広大な海を冷たくさせるということは、並大抵のことではない。雪の女王が、海を冷たくするために、その場に張り付いていてもおかしくはないように思える。
「確かに、その可能性はあるな」とシンデレラさんも俺の意見に同意してくれた。
「じゃあ、俺、そこに行って原因を調べてみます。そして、雪の女王を説得してみます。説得に応じるか分かりませんが……」
「ありがとう……」と、岩の上でルーティア様は、祈るように両手を合わせ、俺を見つめている。
「私からも頼む。本来ならば、デジレ殿に頼むことではないが、これから私もクエスト協会の支部を我が、神聖都市ルーヴェルに作らねばならない。頼んだぞ!」と、シンデレラさんは強く俺の肩を叩いた。
「任せてください」と俺は言う。俺を呼んでくれた人を探す、というのが俺の第一の目的だけれど、その目的で行動した結果、他の人が助かるなら、それは喜ばしいことだと俺は思う。
「デジレ殿の門出を祝って、餞を贈ろう。これを受け取ってはくれないか?」とシンデレラさんは、俺に、盾を差し出した。盾の表面に細工されている薔薇もさることながら、持った時の軽さ、そして堅さに驚く。俺が使っている木製の盾よりも軽い。どんな金属が使われているか分からないけれど、高級な品であろう。
「そ、そんな。いいのですか?」と俺は遠慮しながらいった。だが、俺も、剣術の手ほどきを親父から受けた男だ。装備の重要性は、耳にタコが出来るくらい親父から言われていた。『装備も実力のうちだ。良い装備を身に着けられるということは、その実力があるということ。自分の実力が劣るのに、装備を負けた言い訳に使うのは、卑怯者だ』とか『ここの研ぎ方が甘い。剣をなまくらにするつもりか!! やり直しだ!!』とか、親父から教え込まれた。正直、良い装備は、喉から手が出るほど欲しい……。
「問題はない。この碧の盾が、あなたの身を守らんことを」
「ありがとうございます」と俺は、盾を両手で受け取り、丁寧にお辞儀をした。
「デジレ殿の活躍を祈っている」とシンデレラさんは言った。
「ありがとうございます。では、早速出発しようと思います。ルーティアさん、何処に向かえばいいでしょうか?」と俺は、ルーツィアさんに聞く。
「ひとまず、港町ウォロペーレアの宮殿に来て。ごめんなさい……。あなたが水の中で息を出来るのなら、この泉からあなたをそこまで連れて行くことができるのだけど……」
「ご、ごめんなさい。水の中で息するのは、無理そうなので……。徒歩で向かいます! なるべく早く行くようにしますので、よろしくお願いします」と俺は答えた。
そういえば、海が冷たいって、つまりは海の中のことだ。俺が行って役に立つのだろうか? という不安が一瞬脳裏を過ぎった。
「では、デジレさん。港町ウォロペーレアに続く道はこちらです」とエインセールが言った。
「では、また会いましょう!」と俺は、シンデレラさんとツーティアさんに挨拶をして、教会の町アルトグランツェから旅だった。




