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若いと思っていた、あの頃

● 2011年:6月頃


 私は今、壊れたテープレコーダーのように何度も同じことを繰り返し話している女性を目の前に非常に複雑な気持ちを抱いていた。

「とにかく。どうにかして彼女の体内電池を抜く、もしくは何処かに存在している主要電源を強制的に切ろう」と思案していた。

 彼女は私の同僚で敦子という。

 いつの間にか、敦子と私は親友になっていたようで、何か起きた場合や持論を展開したいときは、必ず彼女から呼び出しの連絡が入り、こうやって長々と彼女の自慢話や模範にもならない経験談を聞く羽目になる。

 今夜もまた、会社近くのスターバックスで帰宅前に話がしたいと誘われてしまい、適当な断りを入れて逃げる間もなく強制連行されている。

 彼女の話が始まって1時間が経過した頃に、ようやく彼女の説法から解放されて帰宅の途についたところ、今度は携帯に電話の着信があった。

 「まさか、また敦子?」と、小さな恐怖を感じながら着信相手を確認すると、祖母の名前が表示されていた。

 ほっとしたところで電話に出ると、今は家に一人でいるそうで「今からうちに夕食を食べに来ないか?」という誘いだった。

 時刻は午後9時。実家にいくとなれば午後11時を過ぎてしまう。あまりに遅い時間になってしまうので、「行きたいと思うが時間が時間だけに遠慮する」という風な内容を祖母に理解してもらうまで粘ること約20分、ようやく「じゃあまた今度遊びにおいで」という言葉で電話を締めくくることができた。

 ちなみに、祖母との電話の間に叔母が帰宅したようで、今は一人ではないらしい。それを聞いて安心した私は、ようやく自分の家に帰ることができた。


 私と言う人間はかなり頑固者である反面、のんびりと自分の気が赴くままに生きている。

 私が生きる中で一番重要視しているのは『人間関係』の枠で、私のルールに則って説明すると「友達」や「親友」と認識している相手は、私と同じ趣味や価値観をもち、共通の話題で何時間も話し合うことができる・情報を共有することができる人物。そして、お互いを尊重し合うことができる人物。

 そんな友人たちとは正反対の人物が私は、この世の中では一番嫌いで苦手なタイプだ。それを通称『異星人』と呼んでいる。

 彼らの主な特徴は、一度親しくなると骨の髄まで生気を吸い取ろうとする人物ばかり。持論を押し付けたり、如何に自分色に染まってほしいかと「私イズム」を基に説法を繰り広げるタイプ。

 私とは趣味や価値観も全く違うし、もちろん会話なんて成り立たない。言葉のキャッチボールなんて5分も持たない退屈極まりない関係なのに、何故か相手側は私に親近感を持ち、『ワタシタチ、トッテモナカノヨイ トモダチダヨ』と強調する。

 最後には私生活まで管理をしようと、あれこれアドバイスをくれるのだが、生憎、私は独身で一人暮らし10年目なので家事の基本や掃除の基本なんて必要のないアドバイスばかりだった。そのあとは、下らない恋愛経験や家族の話や過去の栄光の話など多岐にわたる無意味な話を聞かせてくれる。代表的な人物は先ほどまで一緒にいた敦子や、敦子の友人である由美、そして私の祖母である。


 この『異星人』との付き合い方について、私は毎日・毎晩・毎時間、頭を抱えては相手の我儘に完敗状態で苦しい思いをしている。

 それに私の周りにいる『異星人』は、一見『趣味友』のように価値観が合う瞬間や、趣味が一致するなどの錯覚を起こさせることができるのだ。

 そのため、頑固者のくせに、おバカなくらい素直な脳細胞を持っている私は、ついつい気を許してしまう。そしてある日突然、彼らは「ワレワレハ、イセイジンダ」と私に明かし、前述のような迷惑行為を始めるのだ。

 一度でも迷惑行為が始まってしまうと、こちら側が何らかの防衛手段を講じなければ、一生涯『異星人』の布教活動に付き纏われることになる。


 いつだっただろうか、突然、敦子に言われたことがある。

 「京ちゃんの人生って、充実している風に見せているだけで充実なんてしてないよ」

 あれはちょうど趣味の話をしていた時で、「趣味のために、1日のうち2時間は他の用事を放り出して没頭する」という趣旨のことを言った時だった。

 残念ながら異星人・敦子の言う『人生が充実している』という証拠は、『恋人』がいることが絶対条件。私の主張する『趣味が充実していて、趣味が同じ友達がいる。そして給料日明けに、自分で自分にあげる小さなご褒美を楽しみに生きている』ことは、全くもって『人生が充実していない』、非リア充なのだそうだ。

 もちろん、コンクリートよりも固い私の頭は、目の前の彼女が思っている以上に自分の人生を謳歌しているのだから、敦子とは全く意見が合わない。一生懸命に彼女との共通点を見つけようと努力はしたが、結局は同じ会社に勤めているということ以外に見つけることができなかった。


 しかし、彼女のいう事がすべて正しくないというわけではないし、すべてにおいて否定するというわけではない。彼女の言う通り、巷では恋人がいることがリア充だという意見が大半を占めている。

 私は『リア充』というものは、実生活に満足していて毎日が充実している人のことだと思っている。なので、世間一般と私が意気投合することもない。

 持論を他人にぶつけるつもりはないが、恋人がいないと「リア充=充実した生活を送っていない」と思う人は、自分一人では地に足をつけて立って生きることに不安を感じていて、その不安をカバーするために他人に甘えて支えてもらってようやく世間と向き合える。自分一人では、何もできずにいる、人間という器だけの存在ではないだろうかと考えている。いわば恋人がいることで、自分の存在価値が見いだせるという他力依存なのだろう。

 ということを敦子に言ったとしても、彼女は今の彼氏や彼女の周りにいる、万が一、自分がフリーになった時のための恋人候補にしか興味がない。だから、私の話が内耳に入り込んで脳内に到達することはないだろう。


 たとえ敦子に今の考えを話したところで、ただの言い訳にしか聞こえないか、もしくは屁理屈として処理されて『負け犬の遠吠え』で笑いの種にされるのだろう。

 だから敦子の面倒な話について意見を求められた時には「さぁ、どうしてだろうね」と答えることが、一番の得策なんだと気付き始めた。

そして、彼女は有頂天になって「やっぱり京ちゃんには、私がいないと駄目ね」と、勝ち誇ったように微笑むのだ。

 いや、本当に非常に面倒な相手だ。どうして彼女とお茶を飲むような関係になったのだろうと後悔ばかりが私に植え付けられて、しまいにはストレスが溜まってしまう。それでもかろうじて心の中で、彼女へ批判を浴びせることで平静を装っている。

「へぇ、あんたは外見も心も不細工で我儘なのに、恋人ができるんだねぇ。他の何かが余ほどいいのか、それとも男がばかなのか」と彼女以上に上から目線で言ってやる。こういう小さな積み重ねのおかげで、彼女と付き合う時に発生するストレスを緩和させていて、私以外に誘う相手がいない彼女と付き合うことができている。

 だから、意外に一緒にいてもそれほど苦に感じることは少ない。と思うようにしている。そして、彼女なりに良いところがあるんだと、未だに見つかりそうもないところを一生懸命に探している。

そんな自分を「何て腹の黒い悪いやつなんだろう」と落ち込んでしまうこともしばしばあった。


 そんな彼女は、相変わらず私に下らない言葉を繰り返し聞かせてくれる。

 つい先ほどまで、恋愛論をバカみたいに言い聞かせていた。

今回は、高校時代の教師との恋愛について話していた。ような気がするが、ほとんど聞いていなかったのではっきりと内容を思い出すことができない。

 おそらく、私に対してはこんなアドバイスをしていた気がする。

 「ねぇ、趣味とか仕事もいいけどさ、彼氏がいるって本当にいいよ。」

 「友達と遊ぶのも楽しいけど・・・・やっぱり幸せの度合いが違うって言うのかな?」

 「ねぇ、何で彼氏作らないの?」

 彼女の話はいつもこうやって、堂々巡りなのだ。私がたった一言『恋人がほしい』とか『恋がしたい』とか、『趣味なんてどうだっていいよ』とか言ってしまえば、2時間ほど掛かる『彼氏を作る方法論』を懇々と語ってくれるのだろう。 

 実は、私も私なりに考えている。何故、私が『恋人を作らないのか』、もしくは『彼氏ができないのか』について。これはきっと、過去の自分の経験に多少なりとも原因があると考えている。

というわけで、敦子の話を聞き流しつつ、自分の過去と向き合って色んなことを振り返ることにした。


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