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只のNPCのようだ  作者: 蜘條ユリイ
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NPCとして初めての依頼

「あ~あ。失敗しちゃったかな。これってタクさんの陰謀、いや欲望かな。」


 ことの起こりは運営から依頼メールだった。


 次回アップデートで始まりの街の上空に突如として現れた空中要塞に囚われの身となるNPCを演じて欲しいと依頼があった。報酬のFCのほかに主役級NPCにのみ使われている超高解像度モードに切り替え可能というところに惹かれて、うっかり承諾してしまったのである。


 ユニーク装備だという1キロ先まで見通せる【カラコン】をブルーにして装着し、メイクアップアーティストにメイクを施して貰い、このクエスト用にデザインされた衣装を着て、これもユニーク装備だという足に一体となり高速に走れる【ピンヒール】を履き、髪の毛を自由にコントロールできる【髪飾りアイテム】で金髪に染め上げ、姿見で映し出してみたところである。


 ハリウッドのレッドカーペットを歩く女優並みに胸元が開き、パンツのヒモがチラ見えするほど、腰までスリットの入ったドレスを着ていたのだった。












 舞台はFFS10周年記念式典の会場で、そこに招かれた領主貴族の娘という設定らしい。


 突如ブラックアウトした会場に雷が光輝き、地震のごとく地響きが鳴り響いた。大量の土砂が空中に舞い散って、近くの山が浮上し続けると空中要塞が現れたのである。


『キャーっ。嫌よヤメテっ!! 離してっ。』


 悲鳴が鳴り響く。もちろん私は口パクで合わせているだけである。


 やっぱりシラけるのよね。イジメに遭っていたころも、懇願どころか悲鳴もあげたことは無かった。そんなことをしても相手を喜ばせるだけである。隙あらば逃げ出すことにしていたから酷い暴力に発展することも無かった。


 何かしらの怪我を負えば、学校として放置できなくなるのでは・・・という思いはあったものの日和見主義の教師たちはあてにならないし、加害者どころか傍観者さえも平気で嘘の証言するのは過去のイジメ事例から解っていたことだから、そんな危険な賭けに出ることも無かったのである。


 そして会場の周囲を取り囲んだアンデッドモンスター集団・・・その王たる【リッチクラウン】に私が抱き込まれて、空中要塞の天辺の空中庭園に攫われたのだった。


「それでタイムリミットは24時間で、それまでに助け出さないと私はアンデットモンスターにされてしまう・・・でしたよね。」


 そういうストーリー。2回目以降は私に成り代わり、プログラミングされたNPCが担当するそうで、救出に失敗すれば空中要塞をアンデッドモンスターにされたNPCが跋扈し、閉じ込められたPCに対してジュクジュクに崩れ落ちた身体で圧し掛かる恐怖が待っているらしい。


 もちろん私はそこまで依頼されていない。初回の臨場感やオープニング動画を撮影するのが主とした目的と言われている。


 クエスト1で集団戦を制したPCたちが転送魔法陣を見つけ出す。そこに飛び乗ると空中要塞の中にランダム転送され、数々の戦いの後、空中庭園にたどり着いた6名がパーティーを組み、最終決戦に挑める。


「そうだ。」


 さっきからタクさんの舐めあげる視線が鬱陶しい。声色こそ冷静さを保っているみたいだけど、私の前をウロウロしながら視線は胸に集中している。


「それなのに【初めての幻想の演奏家】のギルトマスターでトッププレイヤーでもあるタクさんがここに居るんですか?」


 いろんな角度で視線が降ってくるところを見ると衣装の隙間から下が覗けないかと思っているようである。この衣装はラインこそふわっとしたものだったけど身体への密着度は凄くてピッタリなのである。だから決して手や腕で隠さない。隠せば逆にいろいろと露わになってしまうくらい布の量が少ないのである。


「アンテッドモンスターたちが初めて転送されてきた魔法陣の傍に居た俺は、その魔法陣に飛び乗ったところ、偶然空中庭園に転送されてきたというわけだ。」


「本当は?」


「初めから待機していただけさ。1時間もすることが無くて暇だったぞ。俺はここで出現するアンデッドモンスターの質や量を調整して、最終決戦開始を遅らせるのが目的なんだ。」


 FFS10周年記念式典の開始時には既にここに居たようである。何処かに運営スタッフ専用の出入り口でもあるのかもしれない。


「それにしては私の傍を離れませんね。」


 とても仕事をしている運営スタッフの顔じゃない。只のスケベなオジさんの顔になっている。


「ああ。各種イベントは自動調節機能がプログラミングされているからな。調整するのはこの下の中ボスとその仲間だけだ。逆に俺が居ないとアンデットモンスターが上がってくるぞ。」


 そう言って脅かしてくる。アンデッドモンスターよりも生身の人間が怖い私にとっては意味が無いことである。最後にはドレスの裾を摘まもうとしてきたのでヒラリと躱す。


「私いつでもオシオキしますよって、言いませんでしたか?」


 エロい視線もセクハラだと解らせるために【正義の鉄槌】を取り出す。


「えっ・・・。いや・・・空中庭園の外に飛び出せば途中で・・・死に戻るし、攫われたところでセーブされているので、死に戻ってくるのはここだし・・・や・やめてっ・・・。」


 あくまで逃げ道が無いことを強調したいみたいだったけど、面倒になった私は【正義の鉄槌】をタクさんに叩き付けた。するといつものごとくキラキラとエフェクトを残し消えていった。












「さて準備も出来たことだし行くとしますか。一回ダンジョンを逆から攻略してみたかったのよね。」


 【カラコン】の設定をブルーからレッドに変更、【髪飾りアイテム】で髪の色も白髪に変更した。


 装備はもちろん【Mの鎧】で半分顔を隠し、露出しているところにはただれたメイクを施し、衣装のドレスを着崩すと立派なゾンビが出来上がった。


 【正義の盾】を小さくして左手に持ち、ショップで購入した音だけが派手な【チェーンソー】を右手に持つ。斬りつけるとわずか攻撃力1だが貫通攻撃が入るらしい。


 この下にいるのは中ボスの【リッチナイト】と大量発生する【骸骨兵士】や【ゾンビ】のはずである。


 抜き足差し足気付かれないように【リッチナイト】に近付いていく。


 これはイジメを受けていたときに培った。他人に気付かれなければ、突然髪の毛を引っ張られたり、足を引っかけられたりされることは無かったから。


 元々身体が小さいことも良い結果を生んでいるようだけど、身体と一体化した【ピンヒール】も良い動きをしてくれている。


 【リッチナイト】は大層な椅子に座り、向こう側を向いている。他の【ゾンビ】の持つ、【チェーンソー】が私の足音をかき消してくれている。


 【リッチナイト】に近寄った私は【チェーンソー】のエンジンを入れ背後から【チェーンソー】の刃を押し付ける。


 1秒間に1回という遅い頻度だが攻撃力1が無限大にされ貫通攻撃が入る。


 【リッチナイト】は倒れると直ぐに復活を繰り返すのよね。纏めサイトでは約90%の確率で最大100回まで復活する厄介な奴と書かれていたが、復活に3秒を要するため、反撃する前に【チェーンソー】の次の貫通攻撃が再び【リッチナイト】を倒すはずである。


『スキル【死霊召喚マスター】を得ました。』


 いやいやいや。これ以上、この場に死霊を増やしてどうするのよ。


「おかしいな。復活・・・しなかったよね。もしかして復活確率にも全てのステータスがゼロなのが関係しているのかな。」


 試しに襲いかかってきた最大3回まで復活率100%の【骸骨兵士】にも【チェーンソー】を押し付けると、コチラも復活せずに粉々になってしまった。


「つまんない。これじゃあ普通のモンスターと一緒じゃない。・・・いやっ。一緒じゃなかった・・・コイツら抱き付き攻撃を行ってくる。嫌っ。待ってっ。っても待ってくれないか。」


 いくらコッチもゾンビに扮しているとはいえ、ドロドロと崩れている【ゾンビ】に抱きつかれたくない。


 仕方ないので【チェーンソー】を振り回すと周囲に居た【骸骨兵士】や【ゾンビ】たちが崩れ落ちていく。


 動きが遅くて助かった。一体だけ早い個体が居たら、タクさんが骸骨兵士に扮していると思ったはずである。考えなしだもんなあ。あの人。そこまで考えて一緒に遊ぼうと言ってくれたなら、付き合ってあげてもいいと思うんだけどね。


 あとは流れ作業のはずだった。【チェーンソー】を振り回せばモンスターたちは勝手に倒れていく。だが後方でポップアップするモンスターも多く【骸骨兵士】が重なりあい、【ゾンビ】たちが融合していく。その様はこの世のものとは思えないほどである。


『スキル【ドレインライフ】を得ました。』


 数えきれないくらいのモンスターたちを倒したら、スキル取得のアナウンスが流れた。


 そして気付く。これって職業を【ネクロマンサー】にした際の代表的なスキルである。もしかして職業を選択していないから、どの職業のスキルも条件さえ合えば取得できるのだろうか。調べてみようかな。


【ドレインライフ】

対象1体からHPを1%刻みでランダムに吸い取る。

取得条件

周囲に死霊召喚されたアンテッドモンスターが居るところで100体以上にモンスターを倒す。死霊召喚系スキルを持っていること。


 当たりである。取得条件に職業が記載されていない。ちなみに【死霊召喚】スキルは【ネクロマンサー】がレベル5に上がった際に自動的に取得できるスキルのはず・・・。


 そういえば中ボスを倒した際に【死霊召喚マスター】スキルを得たよね。こちらも調べてみると・・・。


【死霊召喚マスター】

最大100体までのアンデッドモンスターを召喚する。

それぞれランダムに最大HPや魔法攻撃力や物理攻撃力が上昇する。

取得条件

周囲に50体以上の死霊召喚されたアンテッドモンスターが居るところで中ボスモンスターを倒す。


 【ネクロマンサー】の持つ【死霊召喚】を最大までレベルアップしても最大20体までだったはず・・・。同時に50体以上のアンデッドモンスターを召喚しようとしたら、【ネクロマンサー】を選んだPCが3人以上必要である。


 ここのアンテッドモンスターはタクさんが用意したから死霊召喚されたアンデッドモンスター扱いなのである。普通は周囲のアンテッドモンスターを削りながら中ボスを倒すから、こんなに多くのアンデッドモンスターが居るはずがない前提なんだ。バグとは言い難いけど仕様ミスと思う。流石にこんな事態は想定外なのかもしれないなあ。


 おそらく【ネクロマンサー】ばかりのパーティーがクエストで中ボスを倒した際に取得できるスキルなのだろう。


 しかし、中ボスを倒したら周囲のザコモンスターは普通一掃されるはずなのに一向に減らない。倒された数だけ自動的にポップアップしているみたいである。中ボスである【リッチナイト】を倒したら空中庭園まで逃げ切る仕様みたいである。


 仕方が無いので【死霊召喚マスター】スキルを使ってみるとがガクンとMPが1割ほど減った。


 一気に周囲のアンデッドモンスターが増える。召喚できたのは【包帯男】が100体。最大HPも魔法攻撃力も物理攻撃力もアンデッドモンスターとして上位種である【骸骨兵士】を上回っている。


 【ネクロマンサー】は他の魔法使い系の職業に比べて最大MPが増え難いから本当ならば連続では使えなさそうである。だけど私はカンストしているから余裕だった。


 レベルがカンストしてなければ大部分のMPを持っていかれていたのだろう。通常は1クエスト中1回限りのスキルみたいである。


 2回、3回と続けて使っていくと急に敵モンスターがポップアップしなくなった。この場に居るアンデッドモンスターの最大数が決まっているみたいである。


 あとは味方ばかりとなったアンデッドモンスターを従えて悠々と進んでいく。


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