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87.掴めぬ手掛かり ルゼルジュの想い

「はぁ…」

 深い溜息をつきながら(ルゼルジュは)小屋に戻る。

「今日もラーラの手掛かりはつかめなかった…」


 もう、二度と会えないのだろうか…。

 愛しい娘に。

 実の娘のように愛おしかった。


 そんな思いに胸が締め付けられる。


 手掛かりすらつかめない三年間は決して短くはなかった。

 世間的にはまたラーラはまだ王の妹姫として…自分の娘として席をおいている。

 また時狭間に浚われたという事になっている。

 本当に”時狭間”に浚われたのであれば、次またいつ戻って来るか、はたまた二度と帰って来ないのは、全く分からない。


 ましてや、ラーラは自ら望んで姿を消したのだ。

 こちらが探したところで、迷惑なのだろう。


 それでも探さずにはいられないのだ。


 愛しい

 愛しい

 愛しい娘。


 ***


 ふと、空を見上げると燃えるように赤く染まっていた。


 「もうこんな時間か…」


 そう言えば、ギルドの紹介で来たという、あのやたら綺麗な女性は、まだ小屋にいるのだろうか?

 あの、ぐちゃぐちゃな汚部屋の片づけなんぞ何日かかるかわからない。

 あるいは、既に、あの腐海(ふかい)密林(ジャングル)の如き室内を見て逃げ出しているか。


 正直言って、生ごみ以外は、殆ど放置している。

 資料部屋に至っては足の踏み場もわずかだ。


 実際、これまでギルドから来た助手希望者は立て続けに三人、その日の内に、悪態をついて辞めて行った。

 次も特に期待もしていない。


 部屋が汚いくらいで人は死にはしないし、飯だって、多少面倒くさいが外食すればいいだけの事。

 城からの人材を拒むなら、外で誰か雇うように家令のセイバスが煩く言い、ギルドにも勝手に求人を出していたのである。

 いくつになっても、心配性な家令である。


 むろん、小屋の中が綺麗になるのであれば、それに越した事はないし、食事もわざわざ外食せずに済むなら助かりはするが…。

 正直、食事なんてどうでもいいのだ。

 それなりの食事がしたければ、転移でも何でもして城か屋敷に戻ればいいだけである。


 ただ、屋敷で食べても外食しても、たいして美味しいとも思わないのだ。

 いつも倒れる寸前まで遺跡の中の発掘に集中し、疲れ果てて転移する気力すらおきない。


 また、ラーラを探すためには、体力を維持しなければならないから、嫌でも無理やり食物を摂取するが、食に楽しみを見出す事も無い。

 ラーラが一緒に居た時は、あんなに美味しく感じていた食事もいまでは義務的に仕方なくとっているような感じだった。


「ん?この匂いは?」

 小屋の方から何か美味しそうな匂いが漂ってきたのだ。

 嗅いだことのないような香ばしい匂いだ。

 しかし、妙に食欲をそそる匂いで、久しぶりに、空腹感を思い出した。


「え?ひょっとして、あのターニャとかいう未亡人?まだいるのか?」


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