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86.美しき助手 ターニャ視点

「ふんふんふんふ~ん♪」

 私は鼻歌を歌いながら、お気に入りの真っ白なエプロンをつけて、まず台所の片づけを始めた。


『上機嫌でございますね綺羅様』とタマチャンが私に話しかける。

ルゼルジュ様の姿が見えなくなると、当たり前のように出てくる。


「当たり前じゃない。ルゼルジュ様のお役に立てるのよ。さぁ、ルゼルジュ様が戻ってこられる前に片づけてしまいましょう」


『では、屋内全体の浄化と書庫の方は私が、全て分類してわかりやすく配置しなおしておきましょう』


「そうね、タマチャンの機能を使った方が私がチマチマ片づけるより早いわね。宜しく」


 ちょっとズルいかな?とも思わなくもないが、タマチャンはあくまでもAI機能搭載の機械である。

 便利な道具は使うべきでなのだ。


 まず家の中、全体の浄化がすむと、私はぱぱっと台所を片づけて、早速、お料理にとりかかる。

 具材は、タマチャンの機能の一つ異空間収納に、大概のものは仕入れてある。


 これまで、タマチャンにストーカーとか失礼な事を言われつつ、ルゼルジュ様の事は見てきた。

 彼は、お肉よりもお魚料理の方がお好みのようだった!

 魚料理なら、前世おばちゃんから焼き方も煮方も教わっている!

 しかも、私の好みを考えて創世されたこの世界には米・味噌・醤油もある!最高だ!

 …と、言う事で私は、まず炊飯器を設置し米を炊いた。

 いつもは趣味程度に思いついた時だけ調理をし、普段はタマチャンが出してくれた栄養満点のワントレーのご飯を食べている私だったが、ここは、ルゼルジュ様に認めて頂くためにも一汁三菜頑張ろう!


 宮廷で出るような豪華な物より屋台の串焼きや芋の蒸し物などシンプルな物を好まれていらっしゃった。

 そう考えて、私は白いご飯に、みそ汁とサバラ(鰆と鯖のあいのこのような魚)の白醤油漬けを焼いたものに白根(大根みたいなやつ)おろしとホレン草(ほうれん草)の胡麻和えとイーカ(いか)とトコイモ(里芋)の煮物を用意した。


 美味しそうな匂いが台所から煙突を抜けて遺跡の方にも漂っていく。


 用意した料理を綺麗になったテーブルに並べ、覚めないように時間停止の魔法を卓上にかける。

 ふと、周りを見渡すと、タマチャンの方もすっかり片づけが終わったようで、室内はすっきりと片付いてまるで着た時とは別の家のように整理整頓されている。


「うん、相変わらずいい仕事するね!グッジョブ!」と親指を立てる私にタマチャンは、

『恐れ入ります』と澄まして答える。


「うん!完璧!これだけすればルゼルジュ様も文句のつけ様がないでしょう!ふふっ」と私はルゼルジュ様の御帰りが楽しみで楽しみで、思わず笑みを浮かべた。

 

『それでは、そろそろルゼルジュ様もお戻りでしょうから私は腕輪に戻ります。くれぐれも、正体がばれないようにお気をつけくださいませ。正体をバラすのはルゼルジュ様が今の綺羅様に懸想してからですよ』


 そう言ってタマチャンは腕輪に戻り私の腕に装着してきた。


「け!懸想ってタマチャンってば…わかってるわよ。ふむっ!」

 タマチャンの直接的な物言いに照れつつも私は、鼻息を荒くしながら拳を握り締める。


 そう、()()私は大人の女性!…っていってもまだ17歳だけど、この世界では十分大人なのだから、今、ラーラとは別人として出会いなおしをすれば、もしかするともしかするかもしれないのだ。

 ここは照れている場合ではないのだ。

 尽くして尽くして尽くしまくるのだ!

 


 窓の外を眺めるともう日暮れ時で赤く染まっていた。





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