85.美しき助手 ルゼルジュ視点
ドアを開けると、そこには素晴らしい美女が立っていた。
黒曜石のような瞳。
象牙のようなきめ細やかな肌。
漆黒の髪。
俺は一瞬固まった。
「あ…あんた…いや、貴女が、助手?」
「はいっ!あ、ギルドからの紹介状も頂いてまいりました」と、そのターニャ・ロイズと名乗る女性は美しい声で手提げカバンから紹介状を出してみせた。
俺はその書類をみた。
「な、なにか不都合でもございますか?」と心配そうな眼差しを向けられ俺は言葉を失った。
「あの?」
「あ…ああ、紹介状は問題ない。しかし、貴女のような女性が何でまた仕事なんか…」
「?夫に先立たれましたので生活の為にはお仕事をしなくてはいけませんので」と、その女性はにっこりと微笑んだ。
いやいやいや、これだけの美女だ。
夫が亡くなった時点で、我先にと夫に名乗りをあげた者もいただろう?このような美女が独り身でしかも自分で働こう等というのは、物凄く不自然だ!
怪しい!何か裏があるのではと警戒する。
「確かに紹介状に問題はないが、うちで助手と言うのは、食事の支度から掃除や洗濯の他にも発掘した石板の整理やリストの作成に至るまで広範囲だが、その説明はちゃんとギルドから聞いてるのか?」
「はい!一生懸命頑張ります!」
その、嬉しそうな様子に俺は顔をしかめる。
何をそんなに張り切って?
「そんな事を言っても、前の助手も、その前の助手も一月も持たずに辞めていったからな」
俺は小さく息をひとつ吐いて、そう言った。
何が目的かは分からないが、見るからに育ちの良さそうなこの女性にこなせる仕事とは思えない、まず一日と持つまいと思う。
「あら、私は扶大丈夫です」
「ふぅ…まぁいい。じゃあ早速、部屋の掃除を頼む。俺はまだ遺跡の中を調べているから」
「はい。かしこまりました」
しおらしくそう答える彼女を残し、俺はまた、女神キラの…ラーラの行方の手掛かりを探しに再び、遺跡の中に入っていく。
そう。
どんな美女も関係ない。
俺はラーラを取り戻すまであきらめない。
その為に自分のこれからの人生をその為に注ぐと決めたのだから二年前…ラーラが消えたその日から。




