84.再会
ギルドで必要な書類に目を通しサインを済ませる。
戸籍やこれまでの(婚姻していた等の架空の)経歴についてはタマチャンがうまいこと偽造してくれているので登録も何の問題もなく無事におわり、ルゼルジュ様の元へ行こうとした時である。
仕事が必要ならもっと割のいい、簡単な仕事をと皆が言ってくれたが、私の目的はその『偏屈な学者さん』なのである。
丁重にお断りし、何とかかんとか、手続きを済ませて、ルゼルジュ様がいるというほったて小屋に向かった。
しかし、皆、私が未亡人と聞いてひどく同情してくれたようで、冒険者らしき男の人たちは、自分の後妻にならないかとか言いだしたり、思わず時間をくってしまった。
まったく、この世界の住人は人が良いにもほどがある。
出会ったばかりの自分なんかの『未亡人』設定を露ほども疑わず、いきなり「苦労はさせない!」だの、「あんただったら、俺は一生、浮気もしないで尽くすよ」とか目を血走らせながら言うのだ。
思わずその迫力に焦ってしまった。
「いくら、可哀想だからって限度ってものがあるわよね?」と私が呟くとタマチャンが、呆れたように私に話しかけてくる。
『若く美しい品の良い女性が独り身でいるのを見れば、腕や稼ぎに自信のあるものであれば、手にいれたいと思うでしょう。何せ綺羅様はこの世の美の結集のような存在ですから。ギルドに登録できる時点で犯罪歴がない事も証明済みですしね』
「はぁ?性格もわからないのに?それにこの姿かたちは、タマチャンが遺伝子操作した結果作り上げたようなものよね?製作物に対する自画自賛かっ?」
『我ながら良い出来栄えです。しかしながら細胞の段階で素材が良くなくてはこうはなりませんよ?』
「はぁ。細胞ねぇ?もう、どっからつっこんでいいか、わかんないわ」
正直、自分の見てくれが綺麗な事はわかっている。
決して自惚れではなく客観的に見てである。
ルゼルジュ様の元を離れてから三年、更に成長した私の体は、タマチャンの完璧なる食事管理の元、出るところは出てくびれるところはくびれた、まさに理想的な体形となっている。
ふっくらとしていた幼いほっぺもシュッと引き締まり、面立ちも大人の女性(と言ってもまだ17歳だけどね)へと変貌している。
髪の色も瞳の色も変えて印象も全く異なる。
よもや、ラーラだと見破られる事もないだろう。
さりとて髪と瞳の色を黒くしたところで、その美しさが損なわれはしていない。
しかし、ルゼルジュ様はどう思うだろう?黒目黒髪は好みだろうか?
もちろん、人間は中身だが、その中身を知ってもらうためには、最初の印象は良いに越したことはない。
タマチャンと、そんな事を、道々言い合いながらも現地にたどり着いた。
ギルドから指定の時間に行けば小屋に居るはずだからと言われている。
見るからにボロっちぃ扉に緊張しながらもノックする。
すると、返事もなくいきなりドアがバンと開かれる。
私は、久しぶりに見る生のルゼルジュ様に一瞬、息をのんだ。
「っ!あ、あのっ!ギルドから紹介されてきましたターニャ・ロイズです」




