81.タマチャンの手のひらで…
タマチャンに思いっきり強引に背中を押された綺羅はとにかくロードの側に行くことにした。
ラーラとは、全くの別人の未亡人ターニャとして。
何故、未亡人かというと、この国で17歳と言えば、既に行き遅れでこの年で嫁に行けていない女子は何か本人によほどの問題があるのでは?と疑われてしまうのだ。
…と、いう訳でタマチャンが考えた設定と言うのが、未亡人ということなのだ。
15歳で結婚し、16歳の時に大工だった夫は仕事で建築中の建物から足を滑らせ転落死。
嫁ぎ先からは実家に帰るようにいわれたが、実家の両親も早くに亡くし仕方なく細々と一人で暮らしているが、実家に帰るようにと渡されたお金もそろそろ底につき仕事を探しているという設定だ。
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そして、ここ数年の事だが、ロード…。
発掘作業をしているときは『ルゼルジュ』と名乗っているロードだが、先王という身分を隠し考古学者として遺跡を研究している。
しかし、助手がいつかず、困っていたのだ。
…と、言うのも、ルゼルジュは、とにかく研究馬鹿で、夢中になりだすと食事もとらず、熱中し、遺跡の中にこもれば三日三晩出てこないこともある。
この世界で、”学者の助手”と言えば何となく聞こえはいいが、体のいい雑用係で食事や身の回りの世話がメインである。
まぁ、”通いのお手伝いさん”と言っても過言ではない。
そして、悪気が無いにせよ、ひとつの事に(特にラーラに関しての事に)集中してしまうと周りに耳を傾けないルゼルジュは非常に扱いづらく、しかも態度も決して良いとは言えなかった。
ラーラを失ってからというもの、すっかり偏屈になっていたルゼルジュだった。
しかも屋敷には戻らず、遺跡の側の”ほったて小屋”が生活の場である。
手当は、決して悪くはないが、”勤め先”としては、あまり外聞がよいとは言えないのである。
そう!そんな訳で、都合よくロードは、助手を募集しているというのだ。
タマチャンが町のお仕事紹介所『ギルド』に張り紙が張っているから、まず、そこで仕事をもぎ取ってくるようにと言われた。
まるでタマチャンの手の平の上で転がされているかのように思えて(お釈迦様かよ!)若干、不本意ではあったものの、ロード様を忘れられる筈もない事は、内心、この三年で自分自身が一番わかっていた事だったので従う事にした。
ぶっちゃけ、もうロード様の側に行けるのなら、何でもいいと思える。(タマチャン、悔しいけれどありがとう!)
離れた年月は、ロード様への恋心を忘れるどころか、爆発的にリバウンドしてしまったようである。
そうして、黒髪の未亡人ターニャは、考古学者ルゼルジュ様の出した助手の求人をゲットしにギルドへ向かったのだった。




