80.ストーカーですか?
ラーラの現在の成長具合を測定すると、細胞の数や、サイクルから見て、現在の年齢は推定年齢で17歳という事になった。
(実際の生まれてからの年齢は成長促進やらなにやらしてるので、不明である)
ちなみに、この国の成人は14歳なので、既に行き遅れの年齢らしい。
綺羅が幸せになるように持っていく事が使命であるタマチャンは、非常に悩んでいる。
このままでは、ロイド博士のご命令が果たせないではないか!と!
ロイド博士の望みはひたすらに綺羅様の幸せであったのに…。
そして綺羅様は、目をそむけていらっしゃるが、綺羅様の幸せはやはりあの先王ロードの側にこそあるのではないかと確信していた。
大体、諦める諦めると言いながらも、綺羅様は毎日のようにロードの事を案じている。
朝、起きればまずロード様の事を想い、雨が降れば濡れていないかと心配し、暑くなれば日射病が心配だと言い、雪が降れば風邪をひいていないかと心配し…。
この二年「タマチャンは黙ってて!」と言われ黙っていたが、これでは、いつまでたっても綺羅様は不幸せである!
この際、綺羅様よりロイド博士の遺言を優先だとタマチャンは判断した。
既に3年も様子を見たのだから、充分である。
『綺羅様、断言いたします。三年たっても朝から晩まで片時も忘れられなかったものは、もう一生かかっても忘れられません!諦めてロード様の元へ戻りましょう』
唐突にそう言ったタマチャンに綺羅は、目を見開く。
「なっ!ななな何を急に!」
『急ではございません。三年も様子を見ておりました。あなた様の執着心はもはやストーカーです。先ほども、無駄に覚えた魔法でロード様を鏡に映して見ておられたでしょう?本当に忘れる気ないですよね?』
その、歯に衣着せぬタマチャンのいいように、が~んっ!と綺羅は頭を後ろから張り倒されたような衝撃を受けた。
「ス…ストーカーだなんて…そんな!ちょっと今、何してるのかなって気になった時に、こっそり見てるだけじゃない!実際にはあとつけたりしてる訳じゃ無いし…むにょむにょ」
『いや、気になった時って朝昼晩、なんなら10分置きくらいには見てますよね?はっきり言って気持ち悪いデス綺羅様!昨日なんてお風呂に入ってるロード様覗いてましたよね?』
がががががが~ん!と綺羅は項垂れた。
「こっそり見ていたつもりだったのにタマチャンにみられていたなんて!」
『いや、綺羅様、そこは問題ではございません。そこまでいっちゃってるのにまだ忘れられるとか言ってる綺羅さまの頭が心配です!馬鹿ですか?』とタマチャンは、遠慮余癪なく言い放つ。
「ばっ!馬鹿じゃないもん!知能指数500だもん!」
『…知能だけ高くても…』と呆れたようにボソリと呟くタマチャンに綺羅はキレる。
「わ~ん!タマチャンの馬鹿ぁあああああ!」
『いえ、馬鹿は綺羅様です』瞬殺である。
不毛な言い合いの末、最終的にタマチャンが勝利した。
ぐずぐずとぐずる綺羅にタマチャンは、急に手のひらを返したように優しく語る。
『綺羅様、今のままではいけません。綺羅様を想う皆様も不幸です。綺羅様は皆様が不幸なのは嫌なのでございましょう?』
「も、勿論だわ!」
『綺羅様は、ロード様ばかり見ておられましたが、綺羅様を失ったロード様がお幸せそうに見えましたか?』
「そ…それは」
『他の皆様もそうです。綺羅様がいなくなった事で、せっかくバート王といい感じになっていたサラ様は騎士団に戻って、今も昼夜を問わず綺羅様を…ラーラ様を捜索しておられます。もう19歳になったサラ様は綺羅様より更に行き遅れでございます!お可哀想に!』
「えっ!サラが!?」
『バート王もお気の毒です!せっかく女嫌いも治りかけていたのに…それに綺羅様を探す為に放たれた影の者達などは、もっと気の毒です。未だに見当違いの近隣の国々に放たれたまま成果もなく家にも戻れず…中には新婚のものもいたというのに…』
「ええええええ?」
あまりに事に綺羅は、顔面蒼白になった。
「そそそそ、そんな…そんなつもりじゃ…」
『しんなつもりじゃなくても綺羅様が消えたせいで、幸せを奪われた方々がわんさか…』
「でも、ロード様は私の事、娘としか思えないのよ!でも私は、私でロード様の事、もはや父親としては見れない!」
『それについては、私に考えがあります』
「惚れ薬とか、脳を操作して私に惚れさせるとかは!絶対ダメっ!」
『…』
「ダメだからっ!」
『…分かりました!では、多少、時間はかかりますが…』
「えっ?何か、それ以外で方法があるの?」
こんな会話の後…。
二人は綿密な計画をたてた。
そして綺羅は再びロードの前に姿を現した。
黒髪の未亡人、ターニャ・ロイズという架空の人物を名乗って…。




