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77.サラの場合

 ラーラ(綺羅)が出て行ってからというものロード邸は灯が消えたようだった。

 皆、暗い顔をし、時折ため息をつく。

 ラーラがこの屋敷に来てからというもの息子である現国王も頻繁にロード邸の晩餐に来るようになっていたが、今は毎日のようにラーラが戻っていないか何か情報はないのかと立ち寄るだけだった。


 護衛騎士となったサラも同じようにロード邸には日に一度ラーラが帰ってはいないかと立ち寄るほかはずっと行方を探して奔走していた。


 それはもう哀れなほどに打ちひしがれた様子で元部下のボブとアルもサラの事を心配していた。


「隊長!ちゃんと休息をとってますか?日に日に痩せて、食事もろくにとってないんじゃ…」


「ボブ、放っておいてちょうだい!私の事なんて!ラーラ様のご無事を確かめるまで休んでなどいられるののですかっ!」


「隊長!どうしちゃったんですか?いつも冷静な隊長らしくない!」


「そうですよ!隊長、落ち着いてください!まずは、ちゃんと休んで食事も取ってください!」


「もう、あんた達の隊長でも何でもないんだから余計な心配はしないでちょうだい!私はラーラ様の護衛騎士なんだから!一緒に探してくれる気がないなら、じゃましないでっ」


「「そんな!隊長~っ!」」


 ずいぶんな言われようだ。

 それでも二人眉をよせながらもサラをひきとめる。

 そこに、元上司で騎士団長のホルクスが顔をだした。


「サラ?サラじゃないか!お前、一体、どうしちまったんだ?なんだ?そのやつれ様は」


「あ、団長…ホルクス団長!十五歳位のあたら美しい少女をみかけませんでしたか?」

 サラはホルクス団長の両腕をつかみすがるようにして涙を流した。


「ぬぁっ!」

 涙にぬれたサラは、儚げでとても歴戦の騎士には見えなかった。

 美しく可憐な十八歳の乙女である。

 ホルクス団長の鼓動は早鐘のように打ち響きサラの肩を抱きよせた。


「いっ…一体どうしたんだ!お前!子供は?」


「あの時の子供が時狭間によって十五歳ほどに成長し、いままた行方知れずなのです!」


「何だって!時狭間に?そ、そりゃ王家の姫君の話じゃないのか?」


「そう!その姫君ですわ!ラーラ様の事です!」


「何だって!じゃあ、お前の相手はロード先王陛下だったっていうのか!先王陛下は年若い女騎士に、結婚もせずに手をだしたっていうのかっ!」

 盛大な勘違いをしたホルクスが暴走しそうになったが、ボブとアルが声を揃えて否定した。


「「違いますっっ!」」


 一歩まちがえば王家への冒涜ともとれる言いがかりだ!

 事態がどんどんややこしくなりそうで慌てる二人が事のあらましを説明した。


 もちろんラーラが遺跡で見つかった卵からでてきた云々は内緒である。


 王家の姫の専属の騎士になる為に騎士団をやめて、先日、街に出てきていた時はお忍びのラーラ姫を警護する為に親子のふりをしていたのだと説明した。


「そ!…そうだったのか」

 ホルクスは、涙にぬれるサラを可哀想に思いながらもサラがまだ誰のものでもなかったことに内心、歓喜していた。

 そして自分のサラへの想いを嫌というほど自覚したのだった。


「サラ、落ち着け!先王陛下や国王陛下が指示して尚、見つからないと言う事はまず街中にはいないだろう。騎士団に通達がきていないと言うことは王家直轄の影達が動いているだろうし、その上で見つからないとなれば、やみくもに探したところで何の得にもならない」


「そんな、でもじゃあ何処へ!」


「普通じゃない処、思いつきもしないような場所を探せばいい!」


 ボブとアルが「「おお~!」」と手をたたく。


 そう、サラの事に関しては馬鹿っぽいホルクスだが腐っても騎士団長!(まぁ、腐ってはいないが)

 じつは結構、優秀だったりする。

 実家は侯爵家で身分的にも伯爵令嬢のサラとはかなりの良縁とも思えるポジションにいるホルクスだ。


「団長!お願いです!助けて」

 サラは目に涙を貯めながら両手を組んでホルクスを上目遣いに見つめた。(ちなみに決してわざとではない!それがどんなにあざと可愛らしくとも!)


 そんなサラの言葉にホルクスは思わず鼻血が噴き出しそうになるくらい…いや鼻血が吹き出たので思わず手で覆ってしまうぐらいときめいた。

 何せ、他国にまで知られた美貌の女騎士(しかも強い!)が、まるで力をもたぬか弱げな小娘のごとき様子で自分にすがってきたのだ!男の保護欲がごっそり持っていかれた!


 ぽたぽたと鮮血が滴る。


「「「えっっ?だ!大丈夫ですかっ?」」」


 これには三人ともドン引きである。

 しかし、そこはスルーしてホルクスが片手で鼻と口を覆いつつ話を続ける。


「まぁ、聞け!まず誰も立ち入らないようなと言えば魔の森、もしくは、その先の山奥とかだ」


「「そんな所にいる訳ないでしょう?」」


「そう、皆がそう思うだろう?だから誰も探してない!違うか?」


「本当ですわっ!さすがは団長ですわ!団長って伊達ではございませんでしたのねっ!ごめんなさい!私これまで正直公爵家嫡男だからとご身分で成り上がった騎士団長の地位ではと色眼鏡で見ておりましたわっっ!認識を改めました!感銘いたしましたわ!」


「なっ!お前、俺の事そんな風におもってたのか…」とホルクスは肩を落とした。

 しかし、とりあえず見直してもらえたようだしと自分を励まし言葉を繋げた。


「しかし姫君一人きりで出て行ったとなれば既に国外へ攫われたと言う可能性も否定できない。俺が今さっき言った魔の森やその先の山と言うのは一番ましで幸運なケースだ!」


「「魔の森が一番ましで幸運ですって?」」

 アルとボブが不思議そうに言う。


「国外にそれほど美しい姫が攫われたら無事ではすむまいからな…人としての尊厳も何も生きて居る事が辛い事だってあるかもしれない。他国には悲しいがまだまだ奴隷などといった忌まわしい制度があるからな」と眉をひそめながらそう言った。


 そう平和なこの国には奴隷制度などないが他国にはある。


「姫様は一人とは言え転移が出来るし、並みの大人達よりずっと賢く知恵がまわります!しかも姫様を護る魔道具が意思をもって姫様を護っていますから…」

 サラがラーラの無事を願うように希望的な言葉をもらす。


「なるほど、であれば希望は大いにある。落ち込むな!転移ができるなら魔の森で魔物に出会ってもすぐに逃げられるし大いに可能性があるさ!その先の山だってな!」


「「「おおっ!」」」サラと二人の騎士は感嘆の声をあげる。


 意外にも優秀だった騎士団長ホルクスはそう言ってサラを励ましたのだった。

 そして、この日、サラハ騎士団への復帰を申請した。


 そう、全てはラーラ捜索の為に!

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