76.隠れ家で
魔物が済むと言われる森をぬけた先、恐ろしく高い山の頂に私ラーラ…いえ…桐生綺羅は、住まいを構えた。
人(神)工知能タマチャンは生命維持装置”卵”に搭載されたオプション機能を使い、ここでも良い仕事をしてくれた。
持てる機能を駆使し森の木を使い、あっという間に家を立て、この世界に満ちているという魔力を宿した素粒子『魔素』をも使いこなし?ほぼオール電化に近いような快適な家を提供してくれた。
ログハウス風のその家は周りの景色とも合い見舞い非常に魅力的である。
空は澄み渡り夜などプラネタリウムでしか見たことがない位の星々の煌めきが圧倒されんばかりである。
そして檜のような木のかおりのする家の中も素晴らしかった。
広いリビングにカウンターを挟んだ対面式キッチン、木のぬくもりを持ちながらも前世の地球での暮らしにも勝るとも劣らないレベルの空間。
当然バストイレは完備である!
正直言ってひねればお湯が出るお風呂と水洗のトイレは非常にありがたい!
ビバ!全自動!最高!全自動!
失われし地球文明万歳で或る!
まぁ、まちがった方向に進んで滅んでしまったものの生活文化における文明の利器は素晴らしいものがあったと私は思っている。
特に日本のトイレお風呂にかける技術開発の情熱は素晴らしかったものよ!うん!
さて、私がこんな誰も入ってくる事もできないであろう山の頂になど来たのは、一人になりたかったからである。
恥ずかしい話だが失恋して身の置き所がなくって飛び出てきたって言う…。
「はぁ…心配…してるよね。きっと」
そう言う私に立体映像のタマチャンがトドメをさすような一言をのたまう。
『それは当然です。皆、綺羅様命!と言わんばかりに綺羅様をおしたいしておりますし』
「ぐぬぅ…だ、だって!あのまま、あそこにいてもロード様は私の事は娘としか思えないというし、困らせるだけだったんですもの!けど、私もロード様の事、もうお父様だなんて…」
『それなんですが、綺羅様は三歳児のお姿の時は、ロード殿に淡い憧れは抱いていらしたようですが、父親としてのロード殿も受け入れられていた様に見受けられていましたが?成長されてから憧れからもっと強い気持ちに変わられてますよね?』
「そ、それは、そうよ!私だってあの姿の時は憧れはあったものの自分のあの姿ですもの!娘になれただけでも幸せなんだと思いきれたわ!見た目に精神年齢が引きずられていた事もあるんでしょうね?父親に甘やかせる気持ちも味わえて本当に嬉しくて幸せだった。だけど思いもかけず、そういう対象にもなれる可能性のある年齢になってしまったのよ?仕方ないなんて思いきれないわ!」
一気に自分の想いのたけをタマチャンに言いきって私はゼイゼイと肩で息をしながらも何かすっきりして心が少しだけ軽くなった。
『でしたら、ロード殿が綺羅様が女性として好きになれば宜しいのですね?できますよ?ロード殿の意識に一種の刺激を与えて…』
事もなげにタマチャンが言った台詞に私はかっとなって続く言葉を遮った。
「やめて!科学の力も魔法の力もどちらもダメよ!そんなのを使って振り向いてもらっても仕方ないの!そんな力で好かれても、余計に惨めでかなしくなるだけなのよ!」
『何故でございます?結果が同じなら別に方法は何でも宜しいのでは?』
タマチャンは心底、不思議そうに尋ねた。
「それでは私は幸せにはなれないの!いいから、絶対に余計な事しないで!」
『そんな…私の最重要プログラムは綺羅様の幸せですのに…では、綺羅様をロード殿とお似合いの御年ごろまで成長させるというのは如何ですか?これくらいなら…』
その悪魔の囁き?に私はぐっと堪えた。
「うっ!正直、私もそうれは思ったわよ…でも、それも結局、ズルみたいなものよ!今回成長したのも私が無意識に望んでしまったせいでタマチャンがやっちゃった事だけど、私が自覚した上でその力に頼るのはやっぱり駄目だと思うのよ…実際、ロード様は三歳の時の私と今の私の違いに戸惑いしか無かったもの」
『さようでございますか?では、綺羅様が幸せになる為に私は一体どうすれば…』とタマチャンが少し悲しそうな表情を作って見せた。
うっ、可愛い…。
こんな表情までできるなんてロイズ博士プログラムの人(神)工知能恐るべし!
ロイズ博士、さすが神である!
淡いピンクの卵のボディに天使のような羽をもつタマチャンの姿は可愛くて沈んだ表情をされると途端に罪悪感を覚える。
「あっ!いや、タマチャンはよくやってくれてるよ!うん、お風呂もトイレもこの家も最高だし!タマチャンがいてくれた事が既にすごく幸せな事だよ!」
私が心からそう言うとタマチャンは、ぱぁっと明るい表情になった。
『本当でございますか?少しは綺羅様のお役にたてておりますか?』
いやもう、何この可愛いの!
私は失恋で落ち込んでいることも一瞬忘れちゃうくらいきゅんっとしてしまった。
「ほんとほんと!もの凄く幸せだよ!これからも一緒にいてくれたらずっと幸せだよ」
そう言うとタマチャン(立体映像ですが)はきらきらと光を振りまきながら喜んだ。
まじ可愛いんですけど…。
私は鼻と口を片手で押さえながら、思わず鼻血でそうと思うのだった。
いや、ほんと何気にタマチャン癒されます。
ロード様への恋心はここで暫く生活しながら断ち切ろう…。
それが私を助けて保護しようとしてくれたロード様へのせめてもの恩返し?なのだ。
困らせてごめんなさい。
私にはタマチャンがいるから大丈夫なの。
でも、そうね。
大丈夫な事だけはタマチャンにでも伝えてもらったほうが良いのかもしれない。
短い期間だったけれどあんなにも大事にしてくれた皆へそれくらいの報告はした方がいいよね…。
絶対に心配してるもの…。
捜索隊とか出してたらそれこそ大迷惑だし。
そう思い私は自分を映したメッセージ映像を用意した。
これまでのお礼と今、無事に家を構え暮らせている事を伝えたメッセージだ。
人の感情に魔力や科学力を使わないと約束させて私はタマチャンにそのメッセージを託し、ロード邸に届けさせた。




