表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/87

73.狼狽える先王ロード

ロードは、自分が第二の人生で選んだ考古学者という生業(なりわい)に導かれたきっかけともなった伝説の”女神キラ”の実在への感動と、愛娘として受け入れていた幼子がその存在であった事への驚きと焦りに翻弄されていた。


「ロード様…ごめんなさい」ラーラは眉を寄せながらぽつりと呟いた。


「ラ、ラーラ…もう、お父様とは呼んでくれないのか?」

狼狽えながらもそう言ったロードにラーラは切なそうに首を振った。


「…あの三歳の姿のままの私なら、きっと本当の自分の事など伝えずに、娘として暮せたでしょう…いくら何でもあの三歳の私とロード様では…お父様のお嫁さんになりたいなどといくら言ったところで相手にもしてもらえない事くらいわかりきっていましたもの…でも」


「でも?」


「今の私なら私が十六歳の時に、三十八歳、二十歳の時にロード様は四十二歳…確かに歳の差はあってもあり得なくはないのではと…」


「いやいやいや!」


「…そんなに…嫌ですか…」


「いや…嫌という訳では…」


「では!」


「いやっ!違うっ!あ!いや…」

ロードは色んなことが頭の中を渦巻いて処理しきれないように狼狽えていた。

考えがまとまらないのだ。

それは、安寧の世をもたらしたという稀代の名君とは思えぬ有様だった。

無理もない。

ロードはそもそも国政を操るには長けた賢王だったが恋愛という感情すらよく分からずに生きてきた。

ある意味とても不器用な男だったのだから。

ましてやほんの一週間前まで三歳だった娘がいきなり大きくなって愛の告白である。

硬派のロードには許容量(キャパシティ)を越えていた。


「…七回…」


「え?」


「”いや”って…七回も…」


「いや!”嫌”と”いや”は違うし…ていうか、あー…とにかく頭がまだついていかないんだ」


「…ごめんなさい。困らせて…」


「え?あ、いや…あ、この”いや”は”嫌”の”いや”じゃないぞ!って!俺は何を言ってるんだ”うがぁっ!でも、まぁ、やっぱりラーラは娘だから…その…」

しどろもどろになるロードにラーラは、ふっと何かを諦めたような寂しい笑みをみせた。


「……そうですね…ごめんなさい…()()()…」


「え?あ、いや…うん?」


ラーラが『()()()』と呼ぶとロードは少しだけほっとしたような顔をした。

そんなロードの様子にラーラ(綺羅)はツキンと胸が痛んだ。


『ああ…やっぱり()()()()()()()|んだなぁ…』

そう思い知らされた気がした。


「ごめんなさい。私の言った事は忘れて下さい…困らせたい訳ではなかったのです」


「あ、いや…大丈夫か?」


「…はい…無理を言ってすみませんでした。少し…休みたいので部屋に下がって良いですか?」


「あ、ああ…そうだな。疲れたろう?ゆっくり休むがいい」


「はい…」


そう言ってラーラは自室へ戻って行った。

その背中が寂しそうでロードの胸も痛んだが自分にも冷静になる時間が必要だと感じていた。

そして、この時、ラーラを一人で自室に戻した事を後で死ぬほど後悔したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ