72.直球のラーラに…
何かよくわからないが、盛り上がっているバート王とサラをその場(ロード邸の客間)に置き去りにしてラーラとロードは、庭に出た。
「ラーラ、その…なんだ。さっき言っていた事だが…」
「あ、本気です!真剣ですから!言っておきますが、父親に焦がれてとかそういうのではなくて、お父様…いいえ、ロード様が私の理想の恋人なんです!」
「ぐっ!げほがはっ!」とむせるロードにラーラは挑むような目を向けた。
肺に空気でも入っちゃったのか苦しそうだ。
ラーラは、先ほどのバート王とサラの甘々な空気にあてられたせいもあり、ちょっぴり自棄になっていたのである。
今の十四歳位の自分と三十六歳の(しかも見た目は四十歳にもみえる貫禄の)ロードとでは周りも全く納得しないであろうほど不釣り合いなのはよ~っく分かっている。
だからこそ、『子供の戯れ言』として、なかった事にされそうな気配を感じてラーラは、ロードに全否定される前に敢えて言い放ったのである。
「なっ!お前はまだ子供だろう?」
「あら?でも、もう婚約者がいないとおかしい年齢になってしまったのですよね?」
「ま、まてまて!つい1週間前まで三歳だったのに…」
いくらなんでも頭がついていかないのは仕方がないロードである。
「それに、ラーラの場合は、実際は”時狭間”に巻き込まれた訳ではないのだから中身は三歳のままの筈ではないのか?おかしいだろう?あの”卵”という魔道具は中身まで成長させるというのか?」
「…それは」
ラーラは押し黙った。
もともと中身は『三十二歳』だなんて…言えない…などと思ってしまった。
女性に年齢を言わせるような流れはご遠慮願いたいと思うラーラである。
そう…それは『乙女心』というものである。
そして意を決したように瞳を閉じ息を吸い込んだラーラは再び瞼を開き真っ直ぐな眼差しをむけながらロードに告白した。
「私は、”卵”から出た時、三歳の身体でしたが実際は成人し大人だった記憶をもっております。…長い眠りの中、あの”卵”の中で私の体は生まれ変わり新たな体になっておりました。言葉がつたなかったのは、まだ小さい体だったせいで声帯とかがうまく使いこなせていなかったせいなだけで…私自身も目覚めた時、わが身が幼子になっていた事に驚いていたのです」
「なっ!」
ロードはあまりの事に小さく声を発し驚愕した。
しかしながら何やらすとんと腑に落ちた気もした。
三歳児らしからぬ賢さ、立ち居振る舞いにはずっと違和感を感じていたのだから…。
しかし元の記憶をもって生まれ変わるだなどと、そんな物語のような魔法、実際には聞いた事もなかった。
ロードはラーラの瞳をみた。
そしてその真剣な眼差しに小さく息を吐き言った。
「そうだったのか…ラーラ…まさかとは思ったがやはり…」
「え?やはり?」
ラーラは自分の言葉をすんなりと受け入れるロードに驚いた。
まさか信じてくれた?こんな荒唐無稽な話を?と耳を疑った。
そして『やはり』というのは?と訝しんだ。
ロードは思っていた。
いくら何でもあり得ないだろうと頭の隅をかすめた思いと否定した思い。
けれどラーラの言葉にロードは確信した。
美しすぎる
賢すぎる
純粋すぎるラーラ。
そして最初に名乗った綺羅という名。
ラーラが『女神キラの再来』なのだと。
この世界の起源なる女神の生まれ変わりに違いないと…。




