63.そして周りの反応は01
正直、皆、ラーラが一週間もの間、あの”卵”と呼ばれる魔道具の中で水も食事もとらずに出てきたことも驚きだったが、その変わり果てた姿には腰を抜かしそうなほどに驚いた。
しかしながら、この世界ではこういう現象が時折、各地で起きている。
”時狭間”と呼ばれる空間に迷い込んだ人々が、皆、一様に歳をとってしまうと言う現象だ。
この”卵”と呼ばれる魔道具が、事もあろうに三歳児の「早く大人になりたい♪」等と言う可愛らしい願いを汲み取って叶えてしまったというのは、衝撃の事実だった。
なんと危険で恐ろしい魔道具なのか!
ただ、この魔道具が、実はこれまで生きてこれたのはこの魔道具故の事であると言う事をラーラ自身から聞かされ、バートや爺達はこの卵を地中深くに埋めるのを堪えた。
「この”卵”がいなければ私は生きてお父様や皆に会う事もなかったでしょう…この”卵”は私を生かそうとした神様からの送りものなのです。そしてこの”卵”は、あらゆる危険からも私を守ってくれます。それはきっとこれからも…私が一週間もの間、水も食べ物も口にせずに健康な状態で生きていられるのもこの”卵”のおかげなのです」そう説明すると、サラは先日街に出かけた時にラーラが前の世界で食事すら日に一度しか与えられていなかった事を聞いた話を思いだしていた。
「だからですね?その卵のおかげで!なるほど、納得いたしました!」
「?どういう事だ?」
「あ、陛下、ラーラ様はここへ来る前、幽閉同然のお暮しで、四角い建物の中で日にも当たる事もなく一日中勉強させられていて…」
「勉強を?日も当たらない生活を強いられていたとは聞いていたが、あんな年端も行かぬ子供に?何て事だ!」
「それだけでは、ありません。ラーラ様はまともな食事は昼間の一度しか与えられていなかったと言うのです!」
「「「「「何だって(ですって!)」」」」」
この言葉に、バート王も先王ロードも爺も侍女ズも皆が叫んだ!
「父上!なんで貴方まで驚くんだ!自分の娘がそんな目に合っていた事も知らなかったのか!」
サラさん以外全員の非難の目がロードに集まった。
「あ」とサラは口を押えた。
サラはロードがラーラの本当の親でない事を知っている。
全ての不名誉も受け入れる覚悟で長い眠りから目覚めたラーラを自分の娘だと偽り保護した事を!
うっかり言った言葉が、ロードを更に不名誉なダメ親と位置付けてしまった事に申し訳なく思い、思わず肩をすくめロードに視線を寄せて目で謝った。
しかし事情をしらないバート王は怒りを父にぶつけた!
「父上!あなたと言う人は、そんなところに可愛い子供を置き去りに!」とバートが睨みつけた。
侍女ズや爺までもがロードを見限らんばかりの冷たい目で見る。
真実を知るサラ以外は!絶対零度のごとき眼差しである。
「あ、あ~何だ…その、知らなかった」と言ってロードはそれしか言えずに項垂れた。
置き去りにしたなどと言う事実はないが、自分の隠し子という設定故に、そうとしか言えない。
そしてラーラが慌てて皆にいい訳をした!半ギレで!
「お父様は、欠片も悪くありませんっ!それに私がサラさんに言ったのは不幸話ではありません!私はお昼ごはんが食べれて嬉しかった!幸せだったと言ったのです!この国では分かりませんが私の前にいた国では毎日ご飯が食べられない人だっていたのですから、毎日一食でも食べれていた私は幸せな方だったのですわ!それに私はこの”卵”のおかげで病気すらしたことがないのです!お父様が私を娘としてここへ連れてくれてからは優しい人々に囲まれて、まるで夢のように幸せで!だから、私を幸せにしてくれたお父様を責めるのはやめて下さいっ!」
そう言いながらロードを庇うように立ちはだかった。
「お、お前は本当に何ていい子なんだ!」
(バート王は兄バカを発動した!)
ぎゅっとラーラを抱きしめて頭をなでる。
バート王の中でもラーラの事は”可愛い妹”である事は不動だったようで、その事はラーラは素直に嬉しかった。
「わかった!ラーラに免じて父上の事はこれ以上責めないと誓おう!皆もよいな?」そうバート王が言うと爺や侍女ズも頭を垂れた。
「「「御意!」」」
そして、またラーラの株はあがりロードの親としての信用は地に落ちまくっていったのだった。
(哀れ先王ロード!昔の御威光が台無しで或る)
そんな、事態にラーラは本当の事…ロードが自分を保護するために娘だと嘘をついてくれたのだと言いたくてたまらなかったが、それはロードの気持ちを台無しにするであろうことが分かっていたので、その場で言いだす事は出来なかった。
どんなにお兄様や爺、侍女ズに軽蔑の目で見られてもロードはラーラが自分の娘ではない等とおくびにも出さない。
そんなところも、なんて男気のある素敵な人なのかと綺羅の心は愛しさと切なさに締め付けられるのだった。




