62.尽きない悩み
「「「「え!ええええええええーっ!」」」」
私の部屋に大人たちの驚愕の叫びが響いた!
だよね~!
タマチャン!何が、時々ある事だよ!
やっぱ、皆、もんっの凄っく驚いてるじゃないのさっ!
「お、お父様…あ、あのね?わ、私の事、わかりますか?」
私はおずおずとお父様に向かって話しかけた。
他の誰に分かってもらえなくても、お父様には分かってほしい!
私は不安に思いながらもすがるような目でお父様を見た。
「そ…その白銀の髪に紫水晶の瞳…ラ、ラーラなのかっっっ!」
「はいっ!そうですっ!ラーラです!お父様っ!」
「「その姿はっ!」」
お父様もだが、横にいたお兄様も一緒に叫んだ。
「「「ラーラさまっっ!」」」
サラさんや侍女ズ、爺も心配そうに私をみているが、どうやら私をラーラだと認識してもらえたようで少しだけほっとした。
でも、皆の目は説明を求めている…。
うん、そうだよね?当たり前だよね。
私は覚悟を決めて言った。
「あ、あの…わ…私…早く大きくなりたいと心の中で望んでしまっていたようで…この”卵”が私の気持ちを汲んで…うっかり?…私を成長させてしまったみたいで…」
私は、良いいい訳も思いつかず、本当の事を告げた。
「魔…魔道具が?ラーラ様の気持ちを汲んで…?」サラさんがそう呟いた。
すると今度は、お兄様が思案顔で呟いた。
「まるで”時狭間”に落ちたような現象だ!意図的にそんな事が可能だなんて…」
「”時狭間”?」私は聞き返した。
「魔の渓谷と呼ばれる地域があって、そこに無差別に現れる空間がある。それを”時狭間”と言うのだ。知らず知らず足を踏み入れた旅人や迷い人が、次にそこから出てきた時には子供が大人になっていたり大人が老人になっていたりする事があるのだ…。今のラーラは、真にそこに足を踏み入れ出てきたかのようだ!」
うわぁ~何それ?時空の裂け目?この星なんか、時空が不安定なの?そうなの?ファンタジーな世界だから?SF?
そう思いながらも、とりあえず、こっちの世界では一般人でもあり得る現象だった事に、タマチャンの『時々ある事です』と明るく言い放った言葉を思い返す。
私は再び皆に向き直して言葉を発した。
緊張して少し声が震えてしまったのは仕方がないと許してほしい。
もし受け入れてもらえなかったら、もう一度卵に入り治して成長しなおして、大人の体でどこか遠いところに行って仕事でも見つけなくては…そんな事も思いながら…。
「あ…あの…私…こんな変わってしまって…ご…ごめんなさい」
震える声を発する私にお父様は、ショックを受けたような表情を私に向けた。
「また、お前はっ!そんな事で謝らなくていいっ!」
そう言ってお父様は私を抱きしめた!
「そうだぞ、ラーラ、お前は悪くない!命じた訳でもないのに勝手にお前の気持ちを汲み取った、その訳のわからない”魔道具”が悪いんだ!」とお兄様は言ってくれた。
うん、私もそれは、ちょっと思ったよ。
すると、他の皆もうんうんと首を縦にふりまくっていた。
この”卵”から私が現れた事を知らないお兄様や侍女ズや爺は、その”卵”にもの凄く怪しむような眼差しをむけている。
一応私の、命を繋いでくれていた大切なものだし、中の”タマチャン”は、この世界の管理者にもあたるんですけどね…。
そんな事、言える筈もない。
「わ、私は、まだお父様の娘と呼んでもらえるのですか?お兄様の妹と…?」
「「当たり前ではないかっっ!」」
お父様とお兄様は同時に叫んだ。
その大きな声に私はびくっとした。
「ああ、ラーラ、怒った訳じゃない」
「そうだぞ、ラーラ」
お父様とお兄様は怯える私にそう声をかけてくれた。
そしてお父様とお兄様の後ろで爺やサラさん、侍女ズの三人が涙目で頷いてくれている。
私は喉の奥がぐっと苦しくなり涙があふれでた。
前世では涙なんかめったの事で流した事などなかったのに、この世界に来てから私は泣いてばかりである。
「あっ…ありがとう…ござっ…います!」私はぽろぽろと、泣きだした。
大きくなった私の口からは言葉の発音もきれいにでる。
どうやら大人になった事で声帯も成長したせいだろうか?発音もしやすくなったようだった。
お父様とお兄様はそんな泣きじゃくる私をそっと抱き寄せてくれた。
優しい…。
「いいか?ラーラ、この魔道具の事は、外には絶対の秘密だ!お前は、外に出かけた時に不幸にも”時狭間”に遭遇してしまったのだ。表向きにはそうしておいた方が良い!”時狭間”は、稀だが、魔の渓谷以外にも嵐の前や地震の後などに、街中に現れることもある。長い歴史の中では王城の中庭に”時狭間”が現れ、小姓が巻き込まれて老人になり果てたという事例もあったくらいだ!」
「そ、そうなのですね?」
「しかし、お前の心の内で願った事とは言えこんなに成長してしまうなんて…言葉まですっかり大人びて…」とお父様が少しがっかりしたようにも感心したようにも思える口調でそう言った。
「お父様…がっかりしてしまいましたか?私はもう可愛い幼子ではなくなってしまいました」
「何を言う。そんな訳ないだろう?可愛い幼子が可愛い美少女に成長しただけのこと。でも、そうだな、四歳五歳六歳と其方の成長を見守っていこうと思っていたから…その間のお前の成長が見られなかった事だけは少し残念だけどな。お前が大事な娘な事には変わりない」
そう言ったお父様は私の頭をなでた。
私は、少し複雑な気持ちだった。
そう、十五歳くらいになってもまだまだ、私はお父様にとっては子供なのだ。
そしてその関係性は親子なのである。
私が早く大人になりたいと無意識にも願ってしまったのもお父様への恋心からだったのに…。
いっそタマチャンの言う通り二十五歳くらいまで成長させてもらえばよかったのだろうか?
いっそ、家出して全くの別人として出会い直せばよかった?
でも、受け入れてもらえるとは限らないだろう。
自分の恋心に目覚めてしまった私は、また別の悩みを抱える事になってしまった。
どちらにしろ親子と言う関係になってしまった事をくつがえすのは難しいのだろうかと私は思い悩むのだった。




