60.ロイス博士の大いなる愛
私は再び、目覚めた。
夢をみた。
その夢はタマチャンが見せたロイス博士のメッセージだったのだろうか?
深い深い眠りの奥でロイス博士は語りかけてきた。
『綺羅、私の望みは叶ったのかな?』
「博士の望み?」
『そうだよ。僕は君が、これまで味わった事が無いくらいに幸せになってほしいと願ったんだよ』
「何故?」
『何故って、そりゃあ僕が綺羅の事をとても大好きだからだよ』
「ペットみたいに?博士から見たら地球人なんて私からみたお猿さんみたいなものなんでしょう?」
『ははは、人類と類人猿ほどの差が地球人と私達の種族の間にある事は否めないがね…綺羅と私の差はそれほどではないよ?』
「えっ?そうなのですか?」
『君の知能は私達の種族に近いし、何より極上の魂を持っているからね』
「そんな事ない!私は馬鹿だ!ロイス博士が自分を犠牲にしてくれていた事にすら気づかなくて!」
『犠牲?誰がそんな事を?僕は犠牲になんてなってないよ?』
「だってひとつしかない"卵"を私に譲ったではないですか!」
『だから、それは僕の望みを叶えるが為でしょう?』
「…っ」
『言ったでしょう?僕の望みは綺羅の幸せ!』
「なぜ?」
『心からそう思ってしまっただけの事だよ…』
「わ…私はロイス博士を尊敬してたけど…そんな…」
『いいんだよ?僕は単純に君と言う存在の逞しくて健康な魂に惹かれ、愛しくて守りたくて仕方なかったんだよ!僕が特別に目をかけて育てた地球人の生き残り、そして唯一無二の穢れ無き魂の子…僕はね…綺羅…あの滅びた地球の最初の成り立ちから見守って来ていたんだよ…管理者として…それはそれは長い長い時をね…」
それは、思いがけない真実だった。
綺羅が思い悩みその想いに”卵”に閉じこもらなければ知る筈も無かった事実だった。
ロイス博士は地球を育て育んで管理してきたまさに地球嬢の万物の神だったのである。
言わばロイス博士にとって地球や地球の生き物は全て我が子同然だったのである。
「そんな中で最後の最後まで未来を見て前に進もうとした我が子を愛しく思わぬ親がいるかい?」
それが、ロイス博士の言葉だった。
それはタマチャンが見せたプログラムによる夢だったのかもしれない。
ただそこにある言葉の元は全て、ロイス博士が綺羅の為に残した言葉に違いなかった。
綺羅は思った。
ああ前世でも私を愛しんでくれた親がいたのですね…と。
『我が子よ!どうか次の世界で幸せに!そして世界を正しく導いておくれ…私の愛し地球と私の血と肉、そして綺羅の血と肉を種に始まった新たな世界を…やがて私は再びその世界に生まれ変わり再び出会う事もあるかもしれないよ?だからね…綺羅、どうか僕の願いを叶えておくれ…どうかどうか幸せに!誰よりも幸せに!』
そして私は涙を流しながら目覚めたのだった。




