55.世界は誰が為に?
初めての街はとても楽しかった。
転んで膝をすりむいたりもしたけれど、おかげで水魔法を習う事ができた。
あの後、夜中に皆が寝静まった後、私は一人で色々、試してみた。
水の応用で元素記号を思い浮かべながら色々作ってみた。
イメージを明確にすれば、別に言葉にしなくても水を出すことができたし、『NaCl』なんと塩化ナトリウムつまり塩まで作る事ができた!
元素記号!すごいっ!素晴らしいっ!
まさか前世の中学生レベルの科学知識が役に立つとは!
ちなみに、これくらいなら前世の私は既に五歳の頃には理解していた。
塩が可能ならと砂糖にもチャレンジしてみた!
元素記号は、『C12H22O11』である!
お酢もねっ?酢酸を作ってみたさ!『CH3COOH』
…って、別に調味料を作りたかった訳じゃないんだけどもね?
まぁ、正直言って植物から作る砂糖や海水や岩塩から採れる塩と比べたら、恐ろしく味気ない!…とはいえ、まさか魔法で塩や砂糖が空気中の物質から作れるなど夢にも思っていなかったので、その奇想天外さに驚いた。
ただ、ちょっと怖くもある。
イメージと空気中にある元素の組み合わせに魔力を加えただけで、自分の中にある知識をこらせば、水素爆発や核爆発も起こせててしまうかもしれないと言う事に思い当り、ぞっとした。
…元素記号は決してこの世界で広めまい!と私は心に誓った。
この魔法の世界で深い科学の知識など要らないのかもしれない。
魔法の世界は魔法を科学の世界は科学を突き詰めていけばいいのだ。
ただ、突き詰める方向を間違えれば、どちらも世界が消滅するほどの悪ともなり得るのだろう。
ましてや、そんな二つが融合したら…こわっ!怖い怖い怖いっ!
自分のこの持てる知識は他に語ってはいけない『禁断の言の葉』だと私は改めて自覚した。
ロイス博士とタマチャンが私をせっかく平和なこの世界に私を送り出してくれたのだ!
私はこの世界の平和を夢と希望で育みたい!
そして、おばちゃんの言っていた”恋”をして”結婚”をして”家族”を作るのだ!
…と、片手を腰にあて、もう片方の手は拳をにぎり大きく掲げ私は心に誓ったのである!
そして、この際、元素記号とかは忘れてボブさんやアルさんがやっていた様にイメージだけで、どれだけやれるのか試してみる事にした。
まず、火!
うん、これは小さな小さな蝋燭の灯のような灯りを想像してみた。
室内…しかも天涯付きベットの中であるから、火事になっては、大変である。
指先に意識を集中する。
すると、ぽうっと可愛い小さな小さな火がうかんだ。
「おお!できた!すごいっっ!」日本語で小さく叫んだ。
そして次に熱を発しない光LEDの光を想像してみた。
球はなし!光だけだ。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉ!まじか!」
無数の明るい光が部屋の中を照らす!
元素記号いらないじゃん…とか思いました。はい!
要するに素粒子に至るまでの理解のある私には、この世界で魔法を使うためのイメージはかなり容易に持つことができるようだ。
お茶の子さいさい!である!
例えば火!これは、空気中の酸素が燃料と高温ではげしく反応している状態だ。
火は、燃料になるものと酸素のふたつからできている。
その量も加減してイメージを膨らませれば望みのままのサイズの火をだせそうだ。
とりあえず、どんどん思いつくままに天蓋ベットの内側で色々試す。
そして更に応用を重ねて水を凍らせてみる!
冷蔵庫によく使われる方法を考えて想像する。
磁場・電磁波凍結は、食品を磁場環境の中に投入することで、凍らせる方法を試してみたり窒素ガスを生成して凍らせてみたりとしてみたが、呆気ない程、簡単にできてしまった。
う~ん。
ち…ちょろすぎる…。
…いいのか?こんなんで…。
私は何だか空恐ろしくなってタマチャンに話しかけた。
「タマチャン、何かこんなに簡単に魔法って使えちゃっていいの?」
私の問いかけに腕輪の通信機が反応する。
『いいんですよ。綺羅様!ロイス博士は綺羅様があらゆる事に困らないようにと望んでいましたから、私が、そういう世界になるよう管理したのですから』
「えっ!何ソレ!」私は何やら聞き捨てならないような事を聞いた気がして、問うた!
『綺羅様は何も気にしなくても大丈夫です。ロイス博士は最後の最後まで綺羅様の幸せを願っていました。そして私をプログラミングしたのです。この世界は綺羅様が生きやすいように前の世界に沿って似たような進化を遂げています。違うことと言えばその魔素の存在です。前の世界では科学が悪しき方向へと進んでしまった結果の世界の崩壊でした。ロイス博士は科学とは別の綺羅様の想いが反映される世界をと願っていました』
「ど、どどど、どういう事それっっ!」
『この世界は綺羅様の為にあると言っても過言ではありません!私がそういう風に管理してきたのですから』
「な、何じゃそりゃああっっ!」
私は大声で叫んでしまった!
ええ!そりゃあもう力いっぱい!
それは、続きの部屋に眠っていたサラさんや、向かいの部屋に眠っていたお父様、階下にいた爺まで駆けつけるくらいの大騒ぎとなったのだった。
私のその叫びはまるで悲鳴のように屋敷に轟いたのだろう。
オーマイガッ!




