53.生活魔法を学びましょう ラーラ視点
ボブさんは、小さな私にも分かるようにと一生懸命説明した。
「まず、水を出すにはイメージが大切なんだ」
「はいっ!」
「うん、例えば、ここにコップがあるけどここに水を貯めるとするよね?」
「はいっ!」
「いいお返事だね!それで水の素って言うのはこの世界の至る所にあるんだよ」
ほうほう!うん、わかるよ!空気中にも水分はあるもんね!
私はこくこくと頷いた。
ボブさんは本当にわかってるのかな?みたいな疑わしい目でみてたけど私にはわかっている。
例えば砂漠の真ん中でだって水分は作れる!
水を弾く素材のシートを円錐状に貼っていればそれだけで一晩すごせば空気温度差に寄る結露が出来てシートにわずかながらでも水はたまる。
水の元素記号はH2O!
水素分子H2と酸素分子O2が合わさって水になる!
水素分子H2が2つ、酸素分子O2が1つくっついて水分子H2Oが2つできる!
この空気中の分子を組み合わせる事を想像すればいいのか?と考えた。
「じゃあ、僕が試しにやってみるね?」
そう言ってボブさんは詠唱を始めた。
私は見逃すまい聞き逃すまいと息を飲んだ。
「この世界にある小さきものの集まりよ!その水の素、気の素、我らの息吹を助け命を育むものよ形を成してこの器に!」
そう唱えるとコップに水がこぽこぽと満たされた。
はぁ?と言うのが私の素直な感想である!
なんつうアバウトな!
そんなんで、純粋な水になるのか?
不確定要素がありすぎだろう?
しかし要するに詠唱と言うのは自分のイメージをより明確にする為に適当な言葉を並べているのだろうと察することが出来た。
それならば私はいっそ分子記号を唱えれば純粋な水ができるんじゃないだろうか?とそう考えた!
それも、とびっきりの蒸留水を思い浮かべて!分量まで指定した方がいいかもしれない。
「はい!ボブ先生っ!」
「えっ?先生?」ボブさんは照れたように顔を赤らめた。
私とボブさんのやり取りをサラさんとアルさんは何か微笑ましそうに見ている。
「あの、イメージさへ明確なら言葉は自分で勝手に作っても良いのでしゅか?」
「え?うん、ああ、そうだね。でも分かる?この空気中にある目に見えない小さな集合体を創造するんだよ?ああ、集合体なんて言っても分かんないか?小さい子に説明するって難しいなぁ?」
いえいえ、大丈夫、めっちゃ分かってると思うし!
(中身は貴方より大分、年上ですし!)
「あいっ!このコップの中に、この空気中にある酸素や水素を融合して水を作ればよいのですよね?」
「えっ?サンソ?スイソ?何それ?」
「えっ?」私はむしろボブさんのその返した言葉に驚いた。
どうやらこの世界では分子とか元素を現わす明確な記号や言葉はまだないようだ。
それなのに水を作れるあたり魔法ってほんとに奇跡の力だ!理解不能である!
それって、ある意味職人芸だよ!
目分量で美味しいケーキを作る以上に難しいと思うのだが!
(お菓子作りは手順と正確な分量、温度調整が命ダカラネ!)
「ん、まぁ、いいや。じゃあ取りあえずやってみて」事もなげにボブさんが私にそう言うと
「ええっ?そんな適当で大丈夫なの?」と、横から見ていたサラさんが口を挟んだ。
同じく横で見守っているアルも心配そうに見ている。
「まぁ、指輪もあるし、少々間違っても魔力の暴走はないでしょう?」とボブは、軽く答えた。
「「な、なるほど」」
うん、三人とも私がちゃんと出来るとは全く思ってないよね?
うん、でもね明確なイメージなら元素分子を理解している私の方が明確だと思うんだよね?
私は空のコップを両手で持って、自分のイメージを明確に言葉に現わした!
「H2O!200cc!」と唱えた!
するとコップにはきっかり200ccの水がコップの中に湧き出た!
「「「「おおおっ!うそっ!」」」」
思わず私までそう呟いたよ!
「マジで?一発?しかも、分量もちょうどいい!」
「しかも詠唱、すごく短かったぞ!」
サラさんも、ボブさんもアルさんももの凄く驚いている。
あれっ?また、やっちゃったかな?
あ、でもこの三人は私が卵から出てきたことも先王の子供じゃない事も知ってるし、まぁいいか!
秘密は守ってくれそうである。
そうでなかったら、タマチャンが何とかしてくれるだろう。
取りあえず、この三人とお父様以外には用心しなきゃね?
と、そんな風に勝手ないい訳を自分に考えて納得してみたりした。
私も結構、いい加減なのだ!とにかく魔法なんて訳の分からないものが科学より進んでる世界なんてそうでなきゃやってらんない!
「空気中の小さな小さな目に見えないくらいの小さな集まりの記号を言ってみました!」
「「「えっ!何それっ!そんなの知ってるの?」」」
「ふふっ!前の世界でいた時には四角い建物の中でずぅぅぅ~っと朝も昼も晩もお勉強してまちたからねっ!」
うっかり、そう言うと三人が途端に切なそうな顔をした。
あ、またやっちゃった!
何か、すごい憐憫の眼差しを三人から落とされた。
いや、同情してほしいとかじゃないんだってば!
当時、自分が可哀想な状況だったっていう事も全く気づいてなかった訳だし…。
「え~と!あのね?でも、お昼だけはちゃんとご飯もらえたにょよ?だからお昼ご飯の時はとっても嬉しくて幸せだったにょ!」
私はそんな三人の憐憫の眼差しが痛くて幸せだった記憶をアピールしてみた!
(逆効果だった!効果は最低だ!)
「あっあにょねっ!食堂のおばちゃまは優しかったにょ!内緒でね!お菓子くれた事もあったし、おっきくなったら…」そこまで言いかけて私は言葉をつぐんだ。
『大きくなってからは一緒に暮らしてご飯も三食食べられたし!』と言いたかったが、今現在三歳児な訳だから、大きくなってから…なんて説明がつかないだろう?
混乱させるだけである。
「お、大きくなったら?」サラさんがそう聞いてきたので、仕方なく私はこう答えた。
「ここから出たら一緒に暮らそうねって…言ってくれたんでしゅ…ご…ごめんなちゃい、もう覚えてないでちゅ」
私は、これ以上聞かれない為に覚えていないと、そう言った。
優しかったおばちゃんの事を思いだして涙が溢れた。
地球に隕石の落ちたあの日、会えなくなってそれきりのおばちゃんに、もっと恩返しがしたかった。
「うっ…ごめんなちゃい…うっえぐっ…」
「ああっ!ラァちゃん、変な事、聞いてごめんね?いいのよ?無理に答えなくても!思いださなくてもいいのよ」そう言ってサラさんは私を抱きあげて頭を撫でてくれた。




