46.お出かけの準備
「さあ、ラーラ様、お外に出た時に私の事は何と呼びますか?庶民に変装するのですからお母様とか母上はだめですよ?」
私の部屋でサラさんと私はお出かけ前の”打ち合わせ”をしていた!
「ん~とね、ママってよびたいでしゅ!」うん、お母様だと”様”がまだ上手く発音できなくてどうしても”しゃま”ってなってしまうのだ!ママなら発音しやすいし三歳児には許されると思うんだよね。
そう、私が言うと何かサラさんはぽっと頬を染めてまた何やら身悶えていらっしゃった。
「マ、ママ?い!いいっ!いいですわっっっ~!」
…綺麗なのに!
…カッコいいのに!
何だか時々、とても残念な感じになるのを私は自分の中の大人意識でスルーする事にした。
「じゃ、ママで!ママもわたちのこと、呼び捨てにしなきゃダメなにょよ?」そう言うとサラさんはくわっと目を見開いた。
「そ、そそそ、そんな王家の姫様を呼び捨てなんて」
「え~?じゃあ、ラーラじゃないお名前で、ちゃんづけはどうでしゅか?」
「天才ですかっ?」サラさんは感激したように私の嫌いな言葉を言った。
天才…それは前世の私を縛った言葉だった。
知能指数が人より高かった為に親に売られ天才であり続ける為に一日十四時間以上勉強や研究の毎日だった過去の記憶…。
「え?どうかしたのですか?」私の表情があからさまに曇ったことに慌てたサラさんは、そう尋ねた。
はっ、いけないいけないっ!前世は前世!サラさんは褒めるつもりで言っただけなんだから!と私は首を振った。
「うううん!何でもないにょよ?じゃあ”ラァちゃん”でどうでしゅか?」
「畏まりましたわ!じゃあ”ラァちゃん”で!」
私の名前は、あっさり”ラァ”に決まった!
「あい!ママ!」
しばらく、きゃっきゃうふふと、”ママ”と”ラァちゃん”で呼び合う練習をして、さぁ出かけようという時、私はふと自分の髪色の事を思いだした。
お城に行くときは大きめの可愛い帽子ですっぽりと髪を隠していたけど、庶民の皆さんが帽子ってかぶつてるんだろうか?
「ママ、わたち、髪の毛をママとおそろいの色に染めようと思うのでしゅが?」
「ええっ!そんな!駄目ですよ!せっかくの美しい髪が痛んでしまいます!」
「ん~!だいじょびなの!多分!これを使えば…」そう言って私はサラさんにタマチャンとの通信機を見せた。
そもそも私の眠る生命維持装置”卵”を見つけたサラさんである。
私が本当は王家の姫じゃない事も、今の時代の人間じゃない事も、ものすごくざっくりではあるけど知ってるのだ。
今さら隠す必要もないか…と”卵”の人工知能タマチャンの通信機器となる腕輪を見せた。
「これは?あの卵のような魔道具と何か関わりがあるものなのですか?」
「うん、これで”卵”と通信できりゅのよ?髪が痛まないけど髪色を変えるものをだしてもらうにょ」
「えええっ!まさか、そんな?それは魔法ですか?強い魔法は幼い体には毒になることもあるのですよ?」
「う~ん…これは”科学”っていう魔法みたいなものだかりゃ、魔法じゃないし多分だいじょうびなのよ。ちょっとまってね?」
そう言って、私は通信機に前世の言葉で語りかけた。
聞きなれないこの言葉はきっとサラさんには自分の知らない魔法の呪文のに聞こえたことだろう。
『タマチャン、髪が痛まない方法でサラさんと同じような髪色に髪を染められないものかしらね?』
私がそう通信機に話しかけると、ぽうっと立体映像の可愛い姿を現わした。
可愛い淡いピンクの羽をもつ卵の形をしたタマチャンは本当に可愛らしい。
ふわふわと宙にうくその立体映像は光に透けていて幻想的に見える。
サラさんは相当驚いて声も出ないようである。
そしてその可愛らしい姿(立体映像)でタマちゃんは答えた。
『お任せくださいませ!綺羅様、髪をバリアコーティングしましょう。サラさんの淡い金色の薄いバリアで髪を守るのです。痛まないどころかパック効果もあり紫外線防止のUV効果もありますので綺羅様の髪はますます光沢をもって美しくなりますよ』
『おおぅ!流石!じゃあ、早速頼めるかしら?』
『お任せ下さい!では本体をこちらにワープさせますね!すぐ施術に取り掛かりましょう!』
『えっ?ワープ?できるの?』
『”卵”には宇宙空母並みの機能は全て搭載されておりますから』
『おおぅ、本当に流石だねぇ。科学は偉大だ!』
『科学も魔法も手法が違うだけの事ですから』
『ほぇ~』
そうしてタマチャンは、”卵”本体を呼び寄せた!
どんっという振動と共に大きな”卵”が、サラさんと私の目の前に現れた!
私は驚き固まるサラさんを尻目にさっと卵に乗り込み、タマチャンに施術してもらった。
僅か三分ほどで髪のバリアコーティングとやらは、終わった。
うん、西暦三千年のヘアトリートメントはこんな感じだったわよ!
ぷしゅ~っと音を立てて、”卵”の扉が開き私はぴょんっと飛び降りると部屋にある大きな姿見の鏡の前に立った。
(ふむふむ!いいんじゃない?)まるで美容院へ行ったような仕上がりに私は大満足である。
『綺羅さまの元の髪色の上に黄色い薄い色を乗せてみました。もとが白銀ですから、キラキラとした輝きも合い見舞って綺麗に仕上がりましたね』とタマチャンも満足そうに言った。
サラさんの色に合わせたその髪色は淡い金の光を放ち、白銀色とはまた違った良さがある!
何よりサラさんそっくりな髪色にしたことで、物凄く親子っぽい見た目になった!
そして、何やかやと驚くサラさんに適当に尤もらしい説明をして、難しい事は「わたちはまだ小っさいからよく解んないっ!」と誤魔化し話を無理やりぶったぎり、納得?(したか?本当に!)させて終わり、その日、お昼を過ぎる頃にようやく、お出かけできたのだった!




