42.大神殿長と聖魔導士は困惑す!
大神殿の一室、大神殿長ボルガと聖魔導士シルバは小さなテーブルを挟み頭を抱えて座っていた。
「な…何だったんでしょう?あれは」
あれ…とは、勿論ラーラ姫の事である。
「何ってどれの事じゃ?」
「どれっていうか、もう突っ込みどころご多過ぎて何が何やら…」
「一個一個書きだしてみるかの?」
そう言ってボルガは、シルバにぺいっと紙を投げてよこした。
シルバは、頭をがしがしかきむしりながら羽のついたペンを取り出し、ガリガリと書きだす。
メモの冒頭は『ラーラ姫の存在についての考察』である。
「そ、そうですね、え~っと、まず、言動は国を揺るがすような不穏なものはなかったし、むしろ王にも見習ってほしい程の賢者の発言…」
「黒幕…は、取りあえず見当たりませんでしたね?あんな小さな子供を操るなら乳母とか侍女に身をやつして傍でがっちり見張ってるでしょうけどあの三人の侍女は魔力もなければ発言や挙動から言ってもめちゃくちゃ平凡で、むしろスキだらけで、王城内だからいいものの王家の姫君のお付きにあの三人だけってのはちょっと不安なくらいですね」
「うむ、それは確かにの!まぁ城の外に出るともなれば、さすがに騎士の一人もつけるだろうが」
「それに、人の精神を操るような魔力も波動もなかったですよね?わたしの護りの石もボルガ様も無反応でしたし」
「そうなんじゃよ…それなのに」
「それなのに?」
「思わず、あの姫君に惹かれていきそうで焦ったわい。よもや儂まで何かの魔力に引きずられたのではと焦ったが…」
「だって仕掛けるような魔力は何もなかったですよね?」
「いや、しかし…」
「何か気になる事でも?」
「あの姫さんが儂に触れた時、まるで大神殿にある”浄化の石”に触れたような感触がしたんじゃよ」
「え?それって?」
「うむ…実際、気が付けば先日魔物に引っかかれた傷が無くなっておった」
「え?え?え?」
「いや、稀に王家に先祖返りのような魔力を持つ者が生まれると聞いた事はあるが…あの姫はその魔力を身の内に秘めて生まれた子供かもしれぬ」
「あ、じゃあ、王家の血筋と言うのは間違いなさそうですね」
「うむ…しかも純粋な、もしかしたら王や先王よりも濃い王家の始まりに近い魔力の資質がありそうじゃ。そしてあの精霊たちじゃ」
「ええ、もう、びっくりでしたよね?花々の妖精まで寄って来て…愛しそうに姫君にすりよってましたよね?」
「うむ…あの姫はな…」
「あ…あの姫は?」
「本物じゃ!」
「え?」
「正真正銘の王家直系の姫じゃ!」
「姫には精霊の姿は見えておらなんだようじゃから魔力はさほど無いのかもしれんが、姫自身の存在が王家の祖先、女神キラの資質を思わせるものがある」
「えっ?あの世界が平和になった時に再来するという王家に伝わる伝説ですか?」
「そうじゃ、古来より、王家の源は全ての生命と共存し、精霊や魔物に至るまでもがその銀の光に集まり護ろうとすると言われておった!王家に伝わる伝説とされているが単なる伝説ではないぞ…この大神殿にもそれを記す石板と魔石が残されているのだ!」
それは大神殿の奥深くに残された門外不出の伝承の証であった。




