28.仮説と知られざる真実
前国王ロード・キラ・シヴァネデルは、考えていた。
つい先日、保護し娘とした少女の事を…。
***
正直、わたしは驚いた。
元国王のわたしなら当然、あの王家直系にしか転移することのできない部屋にたやすく転移できる。
当然だ。
しかしラーラは、王族ではない筈…。
何故、転移ができたのか?
王家に生まれた者でも直系にしか宿らない特殊な魔力だ。
本当は自分の娘ではないのだから…王族でもないはずだと思っていたが…。
仮に王族の血が入ってしたとしたら…それは実は私達のご先祖様という事になるのではないだろうか?
ラビドニア文明以前の時代と言えば何百年…もしかしたら千年以上も前である。
ただ、ラーラならあり得るかもしれない。
あの不思議な魔道具…。
銀色の卵の中できっと想像もできないような長い年月眠り続けたのだろう。
長い歴史の中、このシヴァネデル王家のしかもキラの名を受け継ぐ彼女は王位に最も近い立場だったに違いない!
シヴァネデルの歴史は長いが、それは血塗られた歴史だ。
つい先代までの時代まで国同士のいさかいや内乱もあったのだ。
その暗黒の時代にラーラは何かしらの陰謀から逃れさせるためにあの奇跡のような魔道具に入れられ平和な時代になるまでと眠りにつかされたのではないだろうか?
彼女を愛し護ろうとする者達に!
あれほど可愛らしくてしかも『キラ=最も尊き者』の名をファーストネームに持つラーラだ。
シヴァネデル王家の血筋は王家の伝承によれば、この大地に命の種をまきこの世界を育んんだ”女神キラ”の血から生まれたとある。
その名とその只人ならぬ美しい容姿!”女神キラ”の血によるものではないのか?
わたしの娘ではなくとも我がシヴァネデル王家の血に連なる者に違いない!
いや、このわたしよりもこの世界の始まりの女神キラの血に近い筈だと思った。
もしかしたら魔力量も自分よりも多いかもしれない。
もちろん仮説ではあるが…。
とにかくあの転移でラーラがこの王家の直系の血筋にある事は疑い様のない事実だろうと思う。
そうとしか思えないのだった。
***
そう、ロードは、まさかラーラ(綺羅)が、この世界の人類を生み出す”種”であり女神の伝説の起源だったなどと思いつくはずもないロードは、ラーラの事を王家直系に連なる姫と位置付けたのだった。
そしてその伝説の起源を伝えたのが人工知能タマチャン…ひいてはそれを創りしロイス博士のプログラムが一因にあった事も…この世界の誰一人、知る由もない。
ロイス博士は願ったのだ。
綺羅が新しい世界で最も大事にされるようにと…そう願いを込めてキラの名を持つ者を最も尊いものと崇めるようにと…。
より平和に!
より幸せに!
ロイス博士は思いつく限りの知識を”卵”と人工知能タマチャンに御守りとしてプログラミイングした。
地球人類をも管理する別次元の人類であるロイスの知識と想いが”卵”には込められていた。
何故ならロイス博士は種族を越えて桐生綺羅を愛していたから…。
人類の終焉を見届けると共に自分が乗り込む筈だった”卵”を念入りに綺羅の為の仕様に作り替えて綺羅に与えたのである。
自分が管理する筈だった世界の管理を人工知能タマチャンに託して…。
それは、綺羅の知らない…これからも知る筈のない事実だった。




