024.親子喧嘩
王の謁見の間では、現国王と前国王が言い争っていた。
ラーラの事についてである。
「父上は母上を裏切ったのかっ!そんな遠い異国のどこの馬の骨が生んだかもわからないような娘を妹と呼べと?」
「何を言う!妃が死んだ後の事だ!裏切ったなどと人聞きの悪い!」
「それにしてもです!よりによって遠い異国のしかも巫女等と!神に背く行いだと思わなかったのですか!」
「それは…そうかもしれんが、とにかく子供に罪はなかろう!」
「大体、その子供が父上の子供だというのだって怪しいではないですか!何故その女は直ぐに名乗りでなかったのです!」
「それはわたしが、身分を隠していたからだ!」
「何故、身分を偽る必要があったのです!それこそ母上亡きあと、すぐにその女を迎え入れる事だって出来た筈でしょう?」
「まさか子供が出来たとは思わなかったのだ!」
「はぁ?では、父上は神に仕える神殿の巫女姫を弄んだと言うのですか!信じられません!」
「え~い!やかましいっっ!とにかくラーラは、わたしの娘でお前の妹だ!戸籍も宰相に言いつけて作ったし問題ない!」
「問題はあるでしょう?現国王の私が許しませんっ!」
「へへ~ん!もう書類は通しちゃったもんね~」
「なっ!現国王の私の王印も無くそんな勝手な事!」
「ははっ!お前がいくら成人していると言ってもな、お前が二十歳になるまでは私にも王権があるのだよ!王位を譲るときにわたしが、そのようにしたからな!」
(※この国では十四才で成人と認められており結婚もできる。ちなみにバート王は、現在十八歳である)
「くっっ!何と!」バートは悔しそうに歯噛みした。
「とにかく!妹だなんて冗談じゃない!戸籍がどうあろうと私も弟のテリュアスだって認めませんからね!」
バート(現国王)はとにかく妹なんて冗談じゃないと思っていた。
バートは、これまで出会った女子達の印象が最悪だったのである。
甘やかされた鼻持ちならない、こまっしゃくれた性格の悪い令嬢。
王子だった頃からろくな令嬢に出会ったためしがない!
そんな、これまで見てきた自分の婚約者候補達のような劣悪なのを想像していたのだ。
…と言うか、プライドばかり高く自意識過剰で自惚れが強い…そんなのしか見たことがなかった。
「認めようが認めまいがラーラは私の子でお前たちの妹だ!それは変わらん!そんな事言うなら会わせてやらんからなっ!」
「ふんっ!誰が会いたいものですか!妹だなんて!弟ならいざ知らず!王家に女などいりませんっ!」
若干、いや…大分、女嫌いに陥っているバート王だった。
売り言葉に買い言葉でエスカレートした王と先王は、その時、仲たがいしたまま席を立ったのだった。
よもや、寂しそうにしていたラーラを気遣い、先王直属の執事セイバスが、ラーラをつれて王城に来ていたなどとは二人とも思いはしなかった。
侍女たち三人も一緒である。
ちなみに、三人の侍女の名は、ドレン、ミーファ、ソラである。
三人の侍女たちは、ラーラの目立つ髪を結わえて可愛らしい水色のリボン付きの帽子ですっぽりと隠し、風に飛ばされないように首元に可愛くリボンを結び、清楚な白のドレスに身を包ませた。
ウエスト部分には首元のリボンとお揃いの水色のリボンがあしらわれ、超絶に可愛らしい!
帽子には、瑞々しい白い生花を一輪飾っている。
その美しい髪色は隠せてもラーラの可愛さは隠しきれず、通りすがりにすれ違う貴婦人や騎士たちの目を奪った。
セイバスも侍女達も、通りすがる紳士淑女、宮中侍従たちのちらちらと盗み見るような視線を感じながらも仕える姫様の可愛らしさに驚愕する周りの視線にご満悦である。
ある騎士達は呟いた。
「え?え?何?か!可愛いっ!今すれ違ったの?何?何なの?この王宮に小さな女の子???」
「まじか!あり得ないほど、可愛いくない?」
ある紳士、淑女は呟いた。
「え?何?今、何か天使がてとてとと歩いていませんでしたこと?」
「一緒にいるのは先王陛下の執事殿では?」
ある宮廷侍従は囁いた。
「王宮に妖精の子供が現れた!もう、あの可愛さは人間の子とは思えない!」
「お花の妖精?あれっ?一緒にいるのは先王陛下の執事と侍女たち?」
そんな周りの羨望に満ちた視線を感じつつラーラに付き添う四人は、ラーラに王宮ご自慢の花壇に連れてきた。
「きゃあ、綺麗っ!」
パンっと両手を合わせてはしゃぐラーラの可愛らしさに四人は、”はわわ~”と幸せそうに顔をほころばす。
「姫様、お父上様ももうすぐ、手続きも終えられるでしょうからこちらでお花でも見ながらお待ちしましょうね?」ソラがそう言うとラーラは、コクコクと頷いた。
「うん、お花可愛いのっ!嬉しいのっ!」
そんな言葉に執事や侍女たちは
((((姫様の方が可愛いデスからっ!))))と悶えまくったのは言うまでもない!
「お前たち、私は先王陛下、ロード(ルゼルジュ)様をお迎えに行ってくるから、ここでラーラ姫様をお見守りするように!もう、そろそろ国王陛下とのお話も終わられるだろうから」
そう言い残し、執事のセイバスは、その場を離れた。
「「「はい!畏まりました」」」三人の侍女ドレン、ミーファ、ソラは、満面の笑みで胸をたたき請け負った。
そして、三人をお供にラーラは、とてとてと、王宮の庭園をご機嫌で散歩していたのだった。
よもや、自分のせいで親子喧嘩になってしまったなどと思いもせずに…。




