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012.前世の私

 前世の私は正直、夢物語や恋愛等とは無縁な女だった。


 なまじ知能が高く生まれついてしまったが故に、普通の家庭では処理しきれなかったのか、天才児育成開発機関から支給されるというお金に目がくらんだのか?


 はたまた両方だったのか…およそ私が可愛いとは程遠い容貌だったからか等々、想像に尽くせぬところだが、とにかく私が育ったのは研究機関の施設の中だった。


 徹底的に管理された世界。


 スタッフは必要な支持を的確にくれ、起床から学習、研究、データ収集、就寝に至るまで分単位で管理されていた。


 周りのスタッフ達は、賢い、優秀、素晴らしい等の賛辞はくれたが、常に優秀である事以外で私を評価したり子供扱いして慈しんでくれるような人は誰ひとりいなかった。

 一般の子供らしい趣味など一切許されなかったが、周りに比べるような子供もいなかったので何とも思わなかった。


 いや、そう言えば食堂のおばちゃんだけは、私の事をやたらかまってくれていたような気がする。


 やれ、もっと食べろだの大きくなれないだのと声をかけて、事あるごとに、私の事を不憫だと嘆いていた。


 衣食住に困るわけではないし、私は幸せなのだと伝えても、おばさんの目からみた私は分刻みで組織に管理され自由のない可哀想な実験動物のように写っていたようだ。


 まぁ、実際、それに近い扱いではあったが…。


 食事を受けとる数秒の間だけのコミュニケーションだったが、それでも彼女の私への労りの言葉は、私の中では嬉しいものだった。


「早く、学者さんになって大人になったらこんなところ出ていって、自分だけの王子様をみつけるんだよ!恋をして結婚もして温かい家庭をもつんだよぉ」と無理難題を言われたりもしたが…。


 そして後々、分かった事だが、その研究所はじつは国や公的機関からは()()()の研究所だった。


 人身売買に近い形で優秀な子供を連れ去り、裏の世界の仕事を担わせるべく育てていたと言う事らしい。

 背景にあったのは闇の組織である。

 消耗品のように扱われた私や他の天才児たちは全員で五人いたらしいが、私以外は皆、その分刻みのスケジュールや、建物の中だけの太陽の光すら知らない軟禁生活に正気を失ったり脱走を図って殺されたりして無事に生き残っていたのは私だけだったらしい。


 私には、幸せだった時の記憶がなかったお陰でその時自分が不幸だった事に()()()()()()()のだ。


 お陰で朝昼晩と血を取られ脳波を調べられ空いた時間には研究と勉強、そして睡眠時間は、かっきり六時間、外出は一切許されず、健康のための運動すら所内で見張りのいる中で、黙々とルームランナーとラジオ体操。

 でも、それが普通だと思っていたのだ。


 そんな中、ある日の事、国際警察機構の調べが入り、その研究所は取りつぶされ私が正規の機関に保護されたのは十一歳の時だった。


 救出してくれた国際警察の私を診察した心療内科の先生が驚いていた。

『ある意味、超前向き思考(ポジティブシンキング)?鋼の精神力だ!』と良く分からない賛辞をくれていた。


 そして被害者として扱われた私は()()()()()への預かりとなり、それからは自由時間や休憩時間も与えられ、何より研究を仕事にしてお給料が貰えた。


 私は正規の研究所の勧めから、これまでの研究を基に、すぐに博士号をとった。

 当時、世界最年少だったらしい。


 私の研究に対しての賃金は高く、研究所が取りつぶされ職を失っていた食堂のおばちゃんを私のお手伝いさんとして雇い入れる事もできた。

 おばちゃんは泣いて喜んでくれたっけ…。


 ああ、そうだ!そうなんだよ!思いだした!

 私にも幸せの記憶があったじゃないか!

 新たに思いだされた記憶に私は思わず口元がほころんだ。


 そこからは、何だかんだ言っても幸せだったなぁ。

 テレビとか、映画とか娯楽小説とか、そう言うものを知ったのも全てそれからだ。

 お料理とかも教えてくれておばちゃんと一緒にしたお菓子作りとかお料理とか何もかもが新鮮で夢のように幸せだったかも。


 おばちゃんはお手伝いさんと言ってもいつも本気で私の事を心配してくれて、私は密かに、まるで本当の家族みたいだと心の中で慕っていたのだ。


 そんなおばちゃんも、あの悪夢の隕石衝突の日爆発に巻き込まれて…最後がどうだったかすら分からないけれど…。

 こんな事になるならもっといっぱいおばちゃんにおばちゃん孝行すれば良かったといくら思っても足りない。


 そして研究所を卒業?する形で独立すると、私は世界各国に飛び回るようになったが、おばちゃんのいう王子様に出会えることはなかったなぁ。


 世の男性達は、自分より知能の高い女、しかも美人でもない…そんな女には、興味がなかったようである。

 恋だの愛だの私には、お馬鹿なブスよりも更に縁が薄かったようである。


 ましてや結婚など…。

 私には研究論文を三日で仕上げるより難解でハードルの高い難攻不落の課題だった。


 そして残念な私は研究三昧のまま自分のロマンスには無縁のままに宇宙の爆発に飲まれていったのである。


 目覚めたあと、新たな生命の種となれたなら…。

 もしも来世があるならば…。


 美しく可愛らしく皆に愛される…。

 そんな存在に生まれ変わってみたいものだと夢を見ながら眠りについた。


 まさか、()()なんて思いもせずに…。

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