010.遥か古のキラの名の言い伝え
その世界には三つの大陸と大小千以上の島があった。
その中でも、最も平和で最も歴史が長く最も富める聖シヴァネデル王国という四方を海に囲まれた大きな島国が存在した。
その国は海と神々に愛されし神秘なる国と呼ばれ、他国からも敬われ繁栄を極めている。
青い空、広く美しく恵みの多いこの国は豊かでゆとりがあり、人々は温厚で信心深く情にも熱い国民性だった。
そして、この国の若き王バート・キラ・シヴァネデルは即位したばかりの現在、十八歳だ。
父譲りの黒髪と立派な体躯、母譲りの優しい暗緑色の瞳を持つ若者である。
世は泰平。
国同士の争いも内乱もないこの時代ならば、息子に王位を譲っても問題は無かろうと考えた先の王は、若くして優秀な息子に王位を譲り、早くも隠居を決め込み日がな遺跡の研究に明け暮れている。
先の王の名はロード・キラ・シヴァネデル。
現在三十六歳である。
泰平の世を盤石にした名君である。
まだ三十代でありながら、その大きな体に強面の顔、鋭い眼光…。
元王たる貫禄からか、老けているという訳では決してないのだが、四十代にも五十代にも見える。
ロードは、隠居した後、ルゼルジュと名乗り考古学者で魔法使いという設定で遺跡巡りをしている。
ロードは探し求めていた。
この世界に現れる筈のキラという名の女神を…。
この世界この大地に命の種をまきこの世界を創りだした誕生の女神の再来を。
王家にのみ伝わりし伝説の女神を…。
その伝説が元になっての事だろう。
王家の直系の者には、セカンドネームに必ず『キラ』とつく。
この世界で『キラ』というのは、最も尊き者という意味があるのだ。
だからこの名前は直系の王族にしか使えないとされている。
故にそれは、王位継承権をもつ者の名前でもある。
つまりは王妃や皇太子妃でも直系でなければ名乗る事は許されない神聖な称号ともいえる名だった。
ちなみに、前王の妃の名前はレイリア・キリィ・シヴァネデルである。
『キリィ』は、婚姻や養子縁組などにより王族となったものがつけるセカンドネームである。
そしてこの『キラ』=『最も尊い者』の名が継がれていくのは、ある言い伝えが故だった。
キラ…。
それは、世界の根源となりこの地に恵みを与えた女神の名。
女神は転生し再びこの世界が安寧を迎えた時に現れるという言い伝えであった。




