アル視点3 まずはお友達から始めました
ガーン、そうだった。
俺は母の言葉にショックを受けていた。
俺の相手は母に気に入られないとだめだったのだ。
でないと絶対にいびり殺される・・・・。
でも、あの母に気に入られるってどんな性格なのだ。
タチアナの母の公爵夫人とは気が合うみたいだったが、公爵夫人も結構気が強い。
出来たら俺はお淑やかなシルフィが良かった。というか、もう俺の目にはあのコロコロと表情の変わるシルフィしかいないのだ。鬼ババアのように容赦のない母とか、見た感じいかにも悪巧みしかしていない気の強い公爵夫人とかは嫌なのだ。
でも、あの大人しいシルフィがあの母に耐えられるのだろうか?
いや、絶対に無理だろう。
どうしよう?
結婚したら、海外に留学して5年ほど過ごすというのはどうだ。見聞を広めるということで。その間に跡継ぎを作れば問題ないだろう。母としても孫の顔を見れば考えも変わるはずだ。
ああああ、ダメダダメダ駄目だ。あの母がそんな事を許すわけはない。平民のシルフィに王太子妃教育とか施せと言いかねない。その上、自分でやると。そして、いびり出すというのがパターンだ。
絶対にそうなる。
どうすれば良い?
そうなったら、王太子妃教育は母をどけてこちらで手配してやるしかあるまい。父を使って・・・・。
いや、あの母に頭の上がらない父では無理だろう。何の盾にもならない。
俺は頭を抱えたくなった。
まあ、いざとなったら、いっそ駆け落ちでもするか、シルフィはどこでも生きていけそうだし。
俺は頭を振った。
それよりも、まだ、シルフィの心を完全に掴んでいない方が問題だ。まあ、恋人になる3ジンクス全てクリアしたのだ。問題はないはずだとその時は思っていたのだ。
俺はそう思って月曜日に学園に行ったのだ。
そして、お昼どき、いつまで経ってもシルフィが来ないと思ったら、なんとタチアナと仲良さそうに、いつものタチアナの席に座ったではないか。あの後何があったのだ。こんなことならば、護衛を1人くらい残して探らせておけばよかった。
俺が驚いて2人の所に向かうと、
「アル様。私、シルフィと親友になりましたの」
タチアナがいきなり爆弾発言をしてくれたのだ。
えっ、いつの間に?
「ね、シルフィ」
「何の話なの。タチアナ」
なんと、シルフィはタチアナを呼び捨てにしたのだ。
ついでに俺のことも名前呼びして欲しいと頼むとそれは拒否されてしまった。
更にはシルフィはタチアナの邸宅に行ってその母に認められたというのだ。あのタチアナの母に?
シルフィが? どうして上手く行った?
なんでも、タチアナの母とシルフイの母が知り合いだったって?
そんな事は聞いていないんだけど。俺はシルフィのことは一通り調べたはずなのに。何故、その情報は無かったんだろう?そう疑問に思った時だ。
「アル様。私もご一緒させて頂いて宜しいですか?」
侯爵令嬢ステファニーが現れたのだった。コイツは今の俺の婚約者候補筆頭だそうだ。俺はグイグイ迫ってくるコイツが嫌いだった。コイツに比べたら比べるのもおこがましいが控えめなシルフィが断然好きだった。
「ちょっと、ステファニー様、アル様は今私達とお食事をなさっているのよ」
タチアナが邪魔してくれた。
タチアナもたまには良いことを言ってくれる。
でも、あろうことかタチアナは俺が恋人の泉でシルフィとコイン投げしたことをバラしてくれたのだ。シルフィにはまだその意味を言っていなかったのに。
「な、何ですって、アル様、それは嘘ですよね」
驚いてステファニーが俺を見たのだ。もうもこうなったら皆にバラすしか無いだろう。
「皆には話していないが、事実だ」
俺は宣言したのだ。もうこうなったら何が何でもシルフィを娶ると心に決めたのだ。母も父も関係なかった。シルフィの身分は後追いでいい。最悪タチアナの家に養子に入れてもらえばなんとかなるだろう。あの夫人に頼み込めばなんとかなるはずだ。
「ええええ!」
「アル様が平民の女と恋人の泉へ行かれたの?」
「嘘ーーーー」
「信じられない」
俺に色目を使っていた女共が叫ぶが、もうどうでも良かった。
「そ、そんなの嘘です。私はアル様の婚約者候補筆頭なのです」
手を震わせてステファニーまでもが言う。何をとち狂ったことを言ってくるのだ。
「私はそんな事は聞いていないが」
俺は平然と否定した。申し訳ないが、もう俺はシルフィしか考えられなかった。
もうこうなったら噂を先に先行させて、周りを固めてしまうしか無い。俺はそう思ったのだ。
でも、そうは上手くいかなかった。
「私、お父様から聞いたんですけど、恋人の泉と茶色い帽子屋と図書館の恋人席を3っつとも制覇した恋人は必ず別れるそうですわ」
アニカ・デ・ヴァール男爵令嬢の冷たい言葉が響いたのだった。
「はあああ! そんな事は聞いたことがないぞ」
俺は叫んだ。それじゃあここまでした俺は単なる馬鹿じゃな無いか。
その後、更に色々調べるとやはり事実らしいということは判った。
何でも母の代に3っつ制覇させて男を振るということが流行ったらしい。男心を弄ぶ女共がいたのだ。誰とは皆話さなかったが、口ぶりから言って母が噛んでいるのは間違いなかった。母は何をやってくれていたのだ!
まあ、でも、元々そんなジンクスに頼った俺がいけなかったのだ。
「シルフィ、すまない。実は恋人の泉のコイン投げは知っていてやった」
俺は素直に謝ったのだ。
「そうだったんですね。私何も知らなくて。前もって教えて頂けたら良かったのに」
シルフィは少しムッとしていた。
「ごめん。だって、前もって知っていたらやってくれなかったろう」
俺が言うと
「まあ、だってアル様の正体は教えて頂いていないですけど、高位貴族の方だと思いますし、平民の私では到底釣り合わないと思います」
その言葉に俺は固まった。そうか。シルフィは本当に俺が王太子だと知らないんだ。貴族の子弟だと知ってさえ嫌がっているのに、王太子なんて知ったらもう確実に拒絶される。俺はやばいと思ったのだ。
このままでは確実にシルフィとの仲は破綻する。
そう思って俺はシルフィに無理やり、友達になってもらったのだ。
まず友だちになって俺の事をもっと知ってもらって、徐々に正体をバラしていけば良いだろう。ゆっくりと愛を育んでいけば言い。俺はそう思ったのだ。でも、周りがそれを許してくれる訳はなかった。




