39:思いがけない提案
精霊王との夕食会。
それは私とルドルフの盛大な謝罪からスタートすることになった。でも精霊王は、一通りの謝罪を私とルドルフから受けると。「何も気にする必要はない」と、あっさり話題を別のことに変えた。
別のこと。
それはロセリアンの森で行われる「ぶどう祭り」のことだ。
明後日からの三日間で行われるこのぶどう祭りは、精霊達のお祭り。本来、人間を招くことはない。だが、せっかく私達がいる。このままぶどう祭りが終わるまで、ロセリアンの森に滞在しては?と提案してくれたのだ。
これには賢者アークエットとルドルフが驚いている。その理由は、精霊の祭りに人間が招かれることが、かなりレアなためのようだ。
「サラ様、国王陛下には私から話をつけますので、ぶどう祭りの招待、受けてください」
隣の席に座る賢者アークエットにそう耳元で告げられ、私は精霊王にその招待を有難く受けると返事をした。一方のルドルフは……。
「ぶどう祭りかぁ。祭りと言えば、美味い物が食える! もう最高だよなぁ」
ここが宮殿ではなく、かつお酒も入っていることから、かなりフランクなしゃべり方で喜んでいる。
こうして夕食会は、ぶどう祭りに関する話題で大いに盛り上がったわけだが。
瘴気のイベントが、この「ぶどう祭り」で発生する可能性に気づいた。昨年の9月に発生した君待ちのイベントは「ぶどう狩り」だが、過去に「ぶどう収穫祭」や「ワイン祭り」と、ぶどうに絡めた瘴気襲来イベントは、毎年行われている。しかも、このぶどうにまつわるイベントで厄介なのは、昼間に瘴気が襲来するのだ!
瘴気と言ったら、夜なのにー!とファンが騒いだ結果、もらえる報酬がアップし、さらに翌年はクリア報酬で衣装が2着もらえるようになった。その結果、君待ちファンは続々と「9月のぶどうイベントでの昼間瘴気襲来OK。ただし報酬豪華に限る」を表明し、運営は「OK!」とばかりに、年を追うごとに報酬を豪華にしていたのだ。
そしてこのぶどうに絡む瘴気襲来イベントは、昼間に襲来する瘴気のため、夜に比べ、弱い。
しかも数も少ない。その姿も、他の瘴気に比べると、そこまで嫌悪感が沸くものではない。そして出現する瘴気は3種類のローテーション。蛾→蛙→蚊。今年は……間違いない。「蛾」だ。
蛾の場合は、女王蛾と呼ばれる巨大瘴気が一匹、中型の蛾が五匹、祭りの期間中連日でお昼頃に出現する。動きは緩慢だし、すぐに撃退可能。しかも目立たない場所に出現してくれる。「ワイン祭り」の時は、祭りの会場から離れた河のあたりで出てくれたので、祭りへの影響はゼロだった。今回も、ロセリアンの森のはずれに出現する可能性が高い。
一旦、自室に戻った私だったが。
この件を精霊王に報告した方がいいと感じた。
でもいきなり精霊王に話すのではなく、まずは賢者アークエットに伝えることにする。賢者アークエットの部屋に向かいながら、ノア王太子はどうしているのかと考えていた。
夕食会でルーナに聞いたところ、夜は精霊の力を使い、その日足りない栄養分をとらせ、その後は男性の精霊の手で入浴させるという。入浴は……さすがに立ち会うわけにはいかない。夕食の立ち合いを申し出たが、それは「ご覧にならない方がいいと思います」と言われてしまった。
半ば強引に、栄養分を摂取させるのだ。さすがにそれは、ルーナ自身も心苦しくてできないということで、入浴を手伝う男性の精霊が行っていると教えてくれた。どんな精霊の力を使い、どんな方法なのかは想像できない。でもノア王太子がそんな状況にあるのかと思うと……。本当に胸が張り裂けそうになる。
だが。
私の胸が張り裂けても、ノア王太子が助かるわけではない。今、必要なのは、ノア王太子の穢れを浄化することだ。
ぶどう祭りにあわせ、瘴気が襲来する。
私はこれを利用することを考えていた。
賢者アークエットと話し、精霊王に瘴気襲来について伝えたら。
自分の考えた作戦を、ルドルフに話すつもりでいた。
でも、まずは瘴気の件を賢者アークエットに話す。
賢者アークエットの部屋の前に到着した。
私は息を大きくはく。そしてドアをノックした。
◇
私の話を聞いた賢者アークエットは、すぐさま精霊の召使いを呼び、精霊王への取り次ぎを依頼する。瘴気に関わる話だ。精霊王は「すぐに部屋へ来ていただきたい」と反応し、私と賢者アークエットは精霊王の執務室へ向かった。そこでさっき思い出したことをすべて話した。
「まさか。ぶどう祭りに瘴気が来るとは……。しかもそれはロセリアンの森のみで、出現場所は森のはずれ。まるで祭事に対する嫌がらせのようですね。祭りごとに泥を塗るようで、許せません」
精霊王は、ぶどう祭りに現れる瘴気に対し、既に怒り心頭だったが。
「数は六匹、しかも昼間で力も弱い。しかも森のはずれで出るのであれば、聖獣ですぐに討伐できそうです。とはいえ、一国の王太子妃であり、異世界乙女であるサラ様が、このままロセリアンの森に滞在でよろしいのでしょうか?」
賢者アークエットと私の顔を、精霊王は順番に眺めた。
それについては賢者アークエットも思案している。
国王陛下に報告はしたが、まさに入浴の最中ということで、ひとまず宰相に報告した状態。自国への瘴気襲来であれば、即国王陛下にも報告が行くだろうが、数は少なく場所もロセリアンの森のはずれ。入浴を終えたから話を聞くであろう国王陛下の考えは、この時点では分からない。
ならば。
「精霊王様。ご心配いただき、ありがとうございます。聖獣が3体で挑めば、その瘴気はすぐに殲滅できるでしょう。それに祭りの会場から、離れた場所での出現であれば、問題ないと考えます。何より、ノア王太子様がまだこちらへ滞在させていただくことになっているのですから。瘴気襲来時は、ノア王太子様のおそばにいさせていただきます」
そう。
ノア王太子を精霊王の館からいつ王宮へ戻すのか。それはまだ決まっていない。今回はひとまず私達が駆け付けた形だった。そしてそこに偶然、ぶどう祭りの話が出て、滞在が延長したわけだが。ここ数日、このロセリアンの森に滞在している間に、ノア王太子を帰還させる時期や方法について、話もまとまるはずだ。
「なるほど。サラ様がおっしゃることは……まさにその通りですね。我々としてもノア王太子様のおそばにいてくださるなら、安心です。では賢者アークエット、サラ様はこのまま滞在ということで、よろしいですね?」
「……そうですね。国王陛下にはサラ様のご意志をお伝えしておきます」
これで精霊王との話は終わった。
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次回は明日、以下を公開です。
8時台「前進あるのみ」
12時台「こんな美人を泣かせたら、罰が当たりそう」
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