2 両親はいつも機嫌が良いのです
「それで、デビュタントのドレスは白と青のドレスにしようと思うのですが……」
「いいじゃないか、よく似合うと思うよ」
「合わせたお化粧品も揃えましょうね。ノーメイクではいけないわ」
せっかくおしゃれするんだもの、と母は機嫌よく続けた。
侯爵家となると、店に出向くのではなく家に商人を呼ぶことになる。出向くのでも一向に構わないのだが、両親も私を外に余り出したがらない。
晩餐の席で今日はジャスミン様の訪問があった事、デビュタントのドレスの話をした事を報告したので、こんな話になった。
食事の合間にいつも飲んでいるカモミールとレモングラスのハーブティーに少しだけ蜂蜜を混ぜたものを飲む。我が家定番の飲み物だ。食事時だが、甘すぎないしハーブティーは口の中がスッキリするので私も嫌いではない。
「ジャスミンはどんなドレスにするって?」
「それが……困ったことに、最初私の瞳と同じ茶色のドレスにすると言い出したので……、光沢のあるアイボリーに、お揃いの白いリボンにしましょう、となんとか軌道修正を……。天使のようなあの子のデビュタントのドレスが茶色でいい訳がありません」
両親は顔を見合わせて苦笑した。それはそうだろう、ジャスミン様の私への傾倒ぶりは両親も知るところだ。私の社交活動を敢えて邪魔していることを知りながら、黙認しているのも両親である。
それにしても、栗色の髪に緑の瞳の整った容姿のお父様はまだ若い美青年のようだし、烏の濡れ羽色の髪に茶色の瞳のお母様もとても若々しくて美人だ、と思う。
何故この二人を掛け合わせて私のような平凡顔が生まれたのか、不思議で仕方がない。従姉妹であるジャスミン様が実は本当の娘なのでは……というわけもなく、ユルート伯爵ご夫妻はご夫妻で大層見目がよく、ジャスミン様の天使の容姿にも納得だ。
ドントベルン侯爵家の娘としてせいぜいお洒落をして、恥ずかしくない立居振る舞いをしなければ。
私は一人娘だから、誰か婿を取るか……両親は、後継は親戚から貰ってもいいから好きになさい、と笑って言ってくれるが。
しかしジャスミン様の私への崇拝ぶりを鑑みるに、このままでは彼女のお眼鏡に叶う……それこそ王太子や近隣諸国の王族の方々……ような婚約者を、ちゃんと見つけられるだろうか。自信がない、私は一体何がよくてあそこまでジャスミン様に慕われているのかとんと理解できないのだ。
その不安を溢すと、両親はなんとも言えない顔で笑って私を諭した。
「デビュタントを終えれば、私たちの天使には必ず婚約の申し込みが殺到するだろうね」
「女の子からもモテるわよ。絶対。ジャスミンが貴女を独占したがったのも分かるもの」
親の欲目というやつだろうか。
私にはさっぱりその理由が分からないのだが、機嫌の良さそうな両親に、ありがとうございます、と言って最後のデザートに手をつけた。
デビュタントまであと1月ある。せめて所作や会話で恥をかかないように、マナーのおさらいでもしておこう。




