10 お茶会は計画的に
後日、何枚にもわたる計画書を携えてジャスミン様がいらっしゃった。たった数日の間によく書いたものだと思う。
主催は私なので、予算もそこまで気にしなくていい。場所もこの侯爵邸で、私とジャスミン様はどこを使ってお茶会をしようかと考えていた。何人招待するかにもよるが、あのお二人ならば十人くらいは声をかけてくれるだろう。
そもそもご招待したら来てくれるのかしら、という疑問をジャスミン様に打ち明けたら「絶対に来られますよ」と何故か自信をもって断言された。
たしかに、ジャスミン様がいらっしゃると言えばきっとあのお二人はきてくださるだろう。特にフュレイル侯爵令息様はジャスミン様に一目で分かるような恋をしていらしたし……バロック様は私を友達と言ってくださった。何かご予定が無ければきてくれるに違いない。
私も、もしお呼ばれするようなことがあれば、ジャスミン様と御一緒にお邪魔させてもらおう。私への信仰心が篤すぎる彼女にも、春が来てしかるべきだ。それに、バロック様もきっとジャスミン様の見た目と性格の良さを知れば好きになるに違いない。
そうやって親交を重ねていくうちに、私にも良い出会いがあるといいな、と思いながらジャスミン様の考えてきた計画書を一緒に確かめていた。
飾る花やお菓子の種類を決め、立食形式にして休めるソファ等をいくつか置くようにして、自由に歓談できる場にしようということになった。侍女が3人に執事が2人で手はたりるだろう。少し広めの、お手洗いもあるサロンを使うことにした。狭いよりは広くて利便性がある方がいい。
季節柄、もうすぐ初夏だ。とはいえ今の風は気持ちがいいくらいで、窓は開け放つことにして……時期は今から2週間後。これならば、他の令息令嬢も都合がつけやすいのではないかしら、ということで計画は決まった。
何分初めてのことなので、この計画書を持ってジャスミン様と一緒にお母様を訪ねる。いつもリビングで刺繍や読書をしているお母様だが、家の中の取り仕切りもしてある。私も成人してからは、自分に割り当てられた予算と、それが今までどのように運用されていたのかを帳簿付きで知らされて、こんなことまでしていたのか、と驚いた。
それ以後、自分の予算管理は自分でしている。お茶会も、その予算の範囲内だ。今まで社交に何も使って来なかったので、少しだけ豪華にお菓子とお茶を揃えることにした。
「いいんじゃないかしら。予算もちゃんと計画的に使っていて偉いわ。二人とも、頑張ったわね」
計画書を見たお母様からの言葉に、私とジャスミン様は手を取って喜んだ。お母様のお墨付きならば大きな失敗はないだろう。
もうすぐ初夏、そして、初めてのお茶会だと思うと胸が弾んだ。
「ところで、ドレスは決めたのかしら? お茶会にはお茶会に相応しいドレスがあるのよ」
お母様に言われて、私とジャスミン様は顔を見合わせた。いけない、すっかりドレスのことが頭から抜けていた。
別に手持ちのドレスからよさそうなものを選んでもよいのだけれど、それは普段着でしょう、と言われてしまうと、私のクローゼットの中にはふさわしい物が無いのかもしれない。
ジャスミン様は私の家に来るのにいつも素敵なドレスを着てくるのでそれで構わないと思うわとお母さまが言い添えたので、私も、ジャスミン様に見劣り……はするにしても、少し恥ずかしくない程度のオシャレをしなければいけない。
今度はお母様も交えて、どんなドレスがいいかを話し合った。




