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ナツメナツミ  作者: かに
8/25

幕間――アラフォーは見た――

菜摘でも夏目でもない第三者視点の話です。

時期はクリスマス一週間前に遡ります。

 夫一人と小学生の娘一人がいるアラフォー世代。フルタイムで働き家事は手抜きをしがち。

 仕事を終えれば学童の娘を迎えに行き、家まで一直線。そういう毎日を繰り返している。

 しかし今日は違う。夫が休暇をとっているので、仕事帰りに寄り道ができるのだ。

 寄り道先は決めてある。今年の9月に開店した評判の洋菓子店だ。クリスマスまであと一週間、今日はクリスマスケーキの予約の為に店に行く。

 店の表には予約状況を記した張り紙がある。よしよし、まだ予約には余裕がある。定番のショートケーキにしようか、シュトーレンにするか、はたまたブッシュドノエル?


 店の中から店長が張り紙を手に出てきた。

 店長は予約状況の張り紙の隣にその張り紙を貼りだした。タイトルは『急募!クリスマス臨時アルバイト』

 あら、やっぱり人手が足りないのねえ。

 洋菓子店の人気に頷いていたら、バタバタと走ってくる足音が聞こえた。

 足音の主は「バイトします!」と店長に駆け寄った。

 制服の上からマフラーをぐるぐる巻きにした女子高生。駅でよく見かける西高の制服だ。

「高校生でもいいですか?」

「もちろん。詳しい話は中でしようか」


 クリスマスケーキの予約はショートケーキに決めて店長と女子高生の後に続いて店に入った。


 ショーウィンドーにはチーズケーキ、フルーツタルト、ガトーショコラ、創作洋菓子。予約だけのつもりだったが、お土産にカットケーキも買うことにする。

 店内には既にお客が数人。この洋菓子店からお客が絶えることはない。

 自分と夫と娘の分のケーキを選んで、店員に告げようと順番待ちの列に並んだ。

 私の前の番になったが、前の人が何も喋らない。店員が「お客様?」と話かけるがそれも無視。顔なんか真横を向いている。

 何を買うか決めてから並んでよ!

 いつも時間に追われる生活をしているせいか、無駄な時間が大嫌いだ。

「おっほん!」

 おっさんみたいな咳払いをわざとらしくして、前を急かす。

 やっと気づいたようで、こちらを振り向いて謝罪の会釈をしてきた。

 あらやだ、ちょっと格好いいじゃないの。

 どこかの高校の制服のブレザーの上からマフラーをぐるぐる巻き。

 イケメンの高校男子は店員に「すみません、並び直します」と言って列から離れた。


 カットケーキの注文と予約を終えても、高校男子は列から離れた場所で突っ立ったままだった。

 注文を迷っていたわけではないのか。

 バイト志願の女子高生と店長がイートインコーナーの席でアルバイトの契約をしている。履歴書の代わりに生徒手帳を見せたりしているようだ。

 そして、イケメン高校男子がその様子を見ていた。

 話を終えた女子高生が席を立つ。「二十四日からよろしくね」店長の声。女子高生が頭を下げた。スカートの裾が上がって、ふくらはぎから膝の裏、その上まで見えた。


 高校男子が小さく声を上げた。


 注文したカットケーキの包装が終わり、店員から受け取った。

 女子高生は既に店から出た後で、男子高校生も店内にいなかった。

 注文はいいのかしら?

 ケーキを大事に抱えて店を出る。

 店の隣の駐車スペースに男子高校生がいた。携帯電話で誰かと喋っているようだ。

「無理?」

 少し間があいて「シフト組んじゃいました?」

 更に「一日だけでも早上がりしたいんですけど。できれば24日」

 最後に「わかりました。25で」と言って携帯電話を閉じた。

「よっしゃあ」片手で小さくガッツポーズ。


 どうやら恋に落ちた瞬間に立ち会ってしまったようだ。

 誰かに話したくてウズウズするけど、夫はこういう話に興味ないからなあ。

 ケーキを提げて家路を急ぐ間、顔がにやけてどうしようもなかった。




ひとまず<おわり>

あんまり引っ張っることでもないので、前話の種明かしです。

夏目視点でもよかったのですが、傍からニヤニヤ見守る構図が私の好みでして、こういう話になりました。

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