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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ヘーゲルのアームドスキン

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ホライズン(4)

「感動だにー」

「ほんと。びっくり」

「こんなに違うもの?」

「良い」


 フラワーダンスメンバーも三者三様に褒め称える。クロスファイト仕様機として導入されたゼムロンや、その前のシュトロンにも乗ってきたが桁違いだ。アームドスキンの進化の過程を見ているかのよう。


「少し慣らしたら自由に動かしてみていただける?」

 σ(シグマ)・ルーンからはラヴィアーナの声。

「はい。みんなはどう? あたし、いきなり思いきりは動かせなさそうだけど」

「無理だと思う。繊細すぎる」

「あちきもちょっと怖いに」


 それぞれにストレッチじみた動かし方をしてみるも、まだ大胆に動かせる者はいない。滑らかさを感覚として身体に馴染ませなければならない。


「これ、すぐには難しそうです」

 一朝一夕にとはいきそうにない。

「かまいませんわ。感触だけ掴んで評価してみてくださる?」

「正直言ってめっちゃ良い……です」

「ヤバい。ゼムロンに帰れなくなる」


 皆が違う意味で危険を感じている。好評価が聞こえてきて開発主任の笑みは深まる一方であった。


「そんなんじゃ性能評価になんねえぞ」

 ミュッセルの呆れ声が挟まれる。

「しゃーねえな。グレイ、起こすぜ」

「みたいだな。スペース的にもできることが限られるし」

「軽く力試しくらいでいいだろ」


 思考スイッチでリフトトレーラーのルーフウイングが開きはじめる。隙間から赤と灰色のアームドスキンが見えはじめると、低いどよめきをあげたのはヘーゲルスタッフのほうだった。


「ちょ、待ってよ。対戦できるような状態じゃないって」

 ビビアンは慌てるが彼らは止まらない。

「心配すんな。軽い運動程度だ。面白いもん見せてもらった礼くれえはしとかねえとな」

「昨日一戦したからコーティングをやり直してる。関節くらい軽くしとこうか」

「おう、ざっくりとな」


 ビームコートはパーツごとではなく全身に施す。当然関節部もそのままコーティングされて硬化している。なので固まった関節をほぐしとかなければならない。

 ヴァンダラムとレギ・クロウが腕を動かしたり屈伸したりするとコーティングが削れて白い粉が落ちている。それが出なくなったあたりが一番関節が柔らかくなった状態という。


「無理むり!」

 歩いてきたヴァンダラムから後ずさる。

「一戦やらかそうってんじゃねえ。運動だ、運動」

「嘘じゃないわよね?」

「いいから来いって」


 両手を差しだしてきたので恐る恐るホライゾンの手を前に。指を絡めるように組んだ。その状態で上半身を横へ曲げる。ビビアンも合わせて傾けた。


「ちょ!」

 両サイドに振られていた上半身のスピードが上がる。

「これでどうなるのよ」

「わかんねえか? 予測値より足周りの粘りがあるな」

「予測値ってなにかしら?」

 ラヴィアーナが引っ掛かっている。

「なんでもねえ。こいつの足周りのシリンダ、なにか仕込んでんだろ?」

「わかります? 逃げ圧のディレイバック装置を搭載しています」

「軍用車のシートとか銃器台に採用してるやつか。ヘーゲルがパテント握ってるあれだな。ならではってとこか」


 ミュッセルがなにを言っているかわからない。とにかく今乗っているアームドスキンには他にない機構が搭載されているようだ。それは感じられる。かなり激しく上半身を揺すったのに足元の滑りがほぼなかった。


他社(よそ)じゃ考えもしねえな」

 赤毛の少年は続ける。

「主戦場が宇宙のアームドスキンの足周りなんぞ二の次だ」

「我がプロジェクトチームではどんな環境下でもベストパフォーマンスを提供する機体を目指しておりますのよ」

「車両製造と同じコンセプトで組んだんだな。徹底してる。恐れ入るぜ」

 笑いだしている。

「こいつがリングって場所でどれほどの効果を示すかわかってやってっし」

「ご理解いただけて?」

「そのまま戦場に放り込むくれえのつもりで試合機作んなよ」

 ラヴィアーナは「あなたが言いますか?」と返している。


(ヴァンダラムって、新参部門とはいえ大手メーカーのエンジニアにそう思わせる機体だってこと。いったいどれだけハイスペックだって分析されてるの?)

 技術的なことは理解不能だがそれはわかる。


「よし、わかった」

 なにか思いついた様子。

「お前ら、こっから縦に並べ」

「え、こう?」

「その場で反復横跳びしてみろ」


 ヴァンダラムを前に並ぶ。主任たちからは横向き縦並び。そこで上半身を中心に連続して横っ飛びをする。


「それで?」

 アームドスキンでの慣れない動作に四苦八苦する。

「スピードアップだ」

「ひー!」

「どこまでやったら機体が横滑りするか試せ。こけんなよ」


(ほんとだ。重い機体でこんなすれば普通は横滑りしてるはず。グリップとサスペンションの粘りで耐えてるんだわ。それがホライズンの特性。その感覚を身体で憶えろって言われてる)

 しかし、感応操作だけの脚部で普通の歩く走る曲がる以外の動作を求められると神経がすり減る。


「アームドスキンで格闘するってこういうこと?」

「できんだろ? 俺はもっと面倒臭えことしてるんだぜ」


 意外とハードなテストにビビアンは苦心惨憺した。

次回『ホライズン(5)』 「作るほうはそんな言われ方すると耳が痛いもんなんだぜ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 まぁ、重力下で大変なのはバランス(歩行)ですし。
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