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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
花咲く乙女の舞

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試行錯誤する花(1)

「どうする? ってか、どうしたい?」

 ビビアンはミュッセルに訊かれるが具体的に考えていなかったと気づく。

「そうね……。とりあえず個人スキルの向上?」

「なるほどな。課題なのは間違いねえ」

「でもさ、一朝一夕にどうにかなるものでもない」


 グレオヌスは否定的だ。積み重ねで上向くものであって、一時間や二時間の練習で変わりはしないという。


「待て。問題点を自覚するだけでもなんとかなるもんだって。克服すんのは今日でなくていい」

 指摘されると彼も頷く。

「確かに。父もそんな指導法をしていた。悪いところを徹底的に突かれたな」

「だろ? 俺も道場で修行してたときはそんな感じだった。頭ん中であーでもねえこーでもねえって対策考えてやってみて身に付くもんだ」

「わかった。じゃあ?」

 具体的な方法に入る。

「俺はブレードアクションの指導はできねえぞ。お前の担当だ」

「ああ、ビビとリィ、ウルもこっちかな?」

「ミンとサリは俺とだ」


 砲撃手(ガンナー)組が慌てている。白兵戦主体のツインブレイカーズ相手ではトップの三人しか関係ないと油断していたのだろう。


「甘えな。お前らはまず逃げ方の練習からだ」

「マジでマジで? ちょっと待って」

 ミュッセルにビビっている。

「それも感じたわ。バックが落ちるとトップは途端に苦しくなる。もしものときも逃げ上手になってくれると助かるわね」

「ビビぃー、勘弁して」

「頑張って」


 弱音を吐くが許してはもらえない。軽くジャンプしたりして駆動系の具合を確認しているミュッセルにおののいていた。


「安心しろ。壊しゃしねえ、今日はな」

「いつ壊す気ぃ!」


 合図されて脱兎のごとく逃げだす二人。いい訓練になりそうだった。


「さて、始めよう」

 グレオヌスもブレードグリップを手にする。

「ちょっと試してみたいことがあって。グレイから見たウルって難しい敵?」

「スティックか。癖はあるけど難しくはないかな」

「面白い」


 ウルジーはやる気で前に出る。棒術に自信のある友人は嘗められたくない様子。しかし、合図と同時に繰りだした突きはレギ・クロウの脇を抜ける。左手がスティックの表面を撫でて火花を散らすと手元を取られた。引き込まれたときには肩口にブレードが寸止めされている。


「捌きはこんな感じ。ミュウでも同じ手でやられるね」

「びっくり」

 ウルジーは単純に感心している。

「でも、今日はブレード相手のスキルアップを目指しているんだろうから純粋に剣闘技で相手しよう」

「お願い」

「途端に厳しくなるのは本当」


 彼のブレードでもスティックを斬れないことに変わりはない。ところがグレオヌスは意外な手段に訴える。

 叩きにきたスティックを肘近くで受ける。衝撃はあるが破壊されるほどではない。受け流されながら懐に入られブレードの間合い。


「間合いが長いのは利点だけど、研究されるとこんなふうに対策される。打ち崩せないと不利になるよな?」

「手詰まり」

「だったら単純に一撃の精度と鋭さを増すしかない。受けをかいくぐって打ち込めるように」

「わかった」


 いつになく声が弾んでいる。目から鱗の指摘だったらしい。


(突く、叩くだけの限界が見えてたのかも。その先を見せてくれた)

 グレオヌスのしっかりとした基礎技能に感服する。


「すごいとは思ってたけどほんとに桁違いなのね。ミュウと互角にやっただけあるわ」

 本音を告げる。

「まあな。彼はまだ底が見えてない感じだけどさ」

「今まで使わなかった奥義なんてものがあるみたいだしね。じゃあ、あたしにも稽古つけてくれる?」

「喜んで」


 離れたところからサリエリやレイミンの悲鳴が響いてくるが聞こえないふり。とりあえず自分のことが優先だ。


「ビビの剣はあまり癖がないな。たぶん過去映像とかを模倣して身に付けてきたものだろう」

「そこまでわかる?」

 図星だった。

「悪くはない。でも、いい意味でアクってのも必要だったりする」

「癖がないのは良くないわけ?」

「正直言って読みやすい。次になにしてくるか手に取るようにわかる」


 痛いところを突かれる。実際に手合わせしても、まったく付け入る隙がない。おそらくグレオヌスはビビアンの攻撃のバリエーションが全て読めている。

 必死で食い下がっても簡単に弾かれた。彼が少し力を入れただけで泳がされて詰めの一撃が寸止めの位置にある。


「癖ってどうすれば身に付くの?」

「教えられるようなものじゃないな。自分でこっち方面が向いてるとか感じながら伸ばしていくものだからさ」

「なんでも試してみて見出すしかないのね」


 ユーリィもあしらわれただけに終わる。ブレードを合わせているはずなのに、コロコロと転がされているさまは奇妙な踊りのようでもあった。


「鋭さはあるんだけど力任せに過ぎるな。一撃から繋げる次の一手がない。一合一合が細切れでは狭間に隙ができる」

「どうすればいいのに?」

「君は指導のし甲斐がありそうだ。もうちょっとやってみよう」


(ほんと上手。誘いの型でリィに打ち込ませてる。経験で憶えさせようとしてるんだわ)


 ビビアンは合同練習で得るものの多さに驚きを禁じられなかった。

次回『試行錯誤する花(2)』 「さっきのを準備運動だって言うあんたの神経壊れてるから!」

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― 新着の感想 ―
[一言] グレイくん、凄く良い先生!
[一言] 更新有難う御座います。 花シリーズは蕾が開花するまでの? (……フラワーシリーズと言う機体が出来たり?)
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