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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
ツインブレイカーズ

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チーム戦デビュー(1)

 話題騒然となった金華杯決勝から丸三週間。今週末のトリアの日にチーム『ツインブレイカーズ』のデビュー戦が決まる。グレオヌスは楽しみで仕方がなかった。


「どんな戦術で行く気だい? やっぱり君がトップかな?」

「どっちが前とか、そんなん気にする必要あっか? あのときの戦いを忘れたのか。アドリブで十分だろ」

「確かにね。お互いになにをしようとしてるか手に取るようにわかるから、あんな長い試合になっちゃったんだし」


 試合時間、実に三十分超え。ソロの試合としては歴代のランキングに入る数字だった。そもそも長い試合というのはショー的要素が強いときの結果で、彼らのようにずっと激しい激突をしていた記録はない。


「あ、これも美味い」

 炒め物の野菜の甘味が肉の旨みを絶妙に引き出している。

「あー、この汁をパンに付けて食いてえ」

「行儀悪いからやめなさい。ほんと子供なんだから」

「私も気持ちわかる」


 今は前日のオージュの日の昼休憩。彼ら二人とフラワーダンスメンバー、エナミで公務官(オフィサーズ)学校(スクール)のカフェのテーブルを囲んでいる。


「エナまでそんなこと。あなた、いいご家庭の子供なんだから駄目」

 彼女の家の事情はそれとなく知れ渡っている。

「えー、普通でしょう? 家だったらやっちゃうかも」

「ったく。悪影響出たら友達選びなさいって言われちゃうんだから。そのときは責任取りなさいよ、ミュウ?」

「俺の所為かよ!」

 不満を表明する。

「うちはただの庶民だからいいじゃんよー」

「だからエナまで悪の道に誘わないの」

「真似しろとか言ってねえ」


(さあ、いつまで庶民でいられるかな? マシュリに選ばれた以上、君も星間銀河圏では重要人物に躍り出たよ)

 グレオヌスは内心に収めておく。


「呑気にしてるけど仕上がってるの?」

 サリエリは心配げである。

「万端だね。不安はない。どんな内容になるかまではわからないけどさ」

「いいんじゃない?」

「楽しみだにー」

 観に来る気満々の様子。

「黙っとけよ。例によって運営の野郎、チーム名だけ出してプロフィールは伏せてやがる。お前らが投票権(チケット)買えねえから教えたんだからな?」

「たぶん当日発表する気だな」

「朝から大騒ぎになるわよ。覚悟してなさい」


 ビビアンはいい顔をしない。彼女らはパイロットスキルと戦術で実力勝負がしたい本格派タクティカルチーム。こういうショー的演出を好まないところがある。


「どう足掻こうがやらかしてくるに決まってんだろ」

 ミュッセルはあきらめている。

「またフレディとの喧嘩から始めなきゃなんねえ」

「飽きないわねえ」

「黙ったら認めたことになるじゃん」

 彼の中ではそう決着がついているらしい。

「あげる。グレイ、狼なのに野菜好き」

「いや、別に僕は普通になんでも食べる」

「その牙は飾り?」


 彼女の嫌いな野菜がトレーに盛られる。ウルジーに遊ばれていた。妙に彼女に気に入られていて、気づけば尻尾を引っ張られる。


「デビュー戦で痛い目見るのも一興」

 レイミンが皮肉ってくる。

「そうよね」

「さあ、どうかな?」

「仇討ってやるって。奴ら、こっちのプロフィール確認して食いついてきやがったんだからよ」


 明日のデビュー戦の相手はAAA(トリプルエース)のチーム『ガンズスラッシャー』だった。


   ◇      ◇      ◇


 (サウス)サイドの待機エリアは異様な空気に包まれている。これからの試合に備えて待機するメンバーはもちろん、敗戦して帰ってきた者まで彼らを二度見している。


(そんなに物珍しそうにされなくても、さ)

 グレオヌスは失笑する。


 誰もが真紅と灰色のアームドスキンに目を奪われていた。待機者は気持ちを作るどころではない。著しく集中力を乱している様子。


「注目されてるな」

「しゃーねーな、スケジュールは知ってるからよ」


 次がマッチゲームのチーム戦(・・・・)だと気づいて驚いている選手ばかり。たった二人、それも最近一大旋風を巻き起こした組み合わせとなると致し方ないと言う。


「こっちなんかもっと荒れてんぜ」

 リンクで送られてきたパネルには乱高下するオッズが表示されている。

「これだけ動くってことは今現在買われているってことだよな?」

「ああ、もう締切間際だってのによ」


 リングの整備マシンが帰ってくれば二人の入場である。ゲートのカウントダウンはもう始まっている。あれがゼロになったら締切だ。


「平場のマッチでこんだけ投票権(チケット)売れるのも珍しいだろうぜ。見せ場だ」

「週末の休日とはいえ、続々と入場者が入ってるみたいだしな」


 ブザーが鳴ってカウントがゼロになる。親指を立てて見せ合うと肩を並べてゲートをくぐった。とてつもない声援が降ってくる。


「次はなにやらかすかと思ったら、とんでもないことしやがったな、お前ら!」

「頑張ってほしいけど無茶苦茶よ、二人とも! でも頑張って」


 意見は複雑だが、皆楽しんでくれているようだ。それならかまわないだろう。


「やるんなら本気でいきなさいよー!」

「ぶちかますにー!」

 フラワーダンスの面々が腕を振りあげる。

「緊張してんじゃないわよ!」

「冷静に冷静に!」

「集中」

「ミュウもグレイも勝ってきて!」


 最後にエナミの応援を受けて二人はセンタースペースに向かった。

次回『チーム戦デビュー(2)』 「てめぇ、一回殴り合わねえと気がすまねえのか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] ミュウ君は庶民じゃなくなっても、変わらないスタンスで突き進んでくれそうですね……! 二人チームのデビュー戦、楽しみです!
[一言] 更新有り難うございます。 賭けかぁ……八百長も、モチロン?
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