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ゼムナ戦記 クリムゾンストーム  作者: 八波草三郎
真紅への挑戦

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グレイvsミュウ(1)

 レーネの日の朝が来た。


「よく眠れたかい?」

「ああん、ぐっすりに決まってんだろ。まさか楽しみで寝れなかったとか言うんじゃねえぞ?」

「しっかり寝たさ」


 戦士に作ってある身体と精神は肝心なときこそ眠れるようになっている。体調不良で困ることにはならないが、楽しいときを堪能できないのは少し残念な気がしなくもない。


「ほら、小僧ども。しっかりメシ食って行きな」

 チュニセルが朝からたっぷりの料理を準備してくれている。

「おー、助かるぜ。食う食う」

「ありがとうございます」

「どんだけ食ったって、どうせ昼までには消えてなくなっちまうんだからね。ランチは軽めにしてあるからその気で食べなよ」


 質、量ともに普通ではない。肉も脂も当たり前のように並んでいるが育ち盛りの彼らの敵ではない。試合は昼一番なので消化の時間もある。

 大型トーナメントの決勝ともなると午前から拘束される。その日のコンディションから勝敗を予測されても困るので他者との接触を許されないからだ。


「体調管理までしていただいて申し訳ないです」

 さすがに気が引ける。

「これで慣れてるから気にしない」

「これって言うんじゃねえ」

「なんだい、ドラ息子。めっきり手伝いもしなくなって」

 忙しいのはわかっているので、からかっているだけだ。

「今夜にはたっぷりと生活費を入れてくださるので問題ありません」

「身も蓋もないですね、マシュリ」

「事実です」


 準優勝以上が決定しているので賞金は結構な額になる。ブーゲンベルク家とマシュリにそれぞれ10%ずつという約束になっているが、今回は半分を双方に渡すつもりである。


(あとは母上になにか贈ろう)

 今ほど感謝しているときはないかもしれない。


 全力を尽くしてあまりあるライバル。気の置けない友。高め合えるパイロット。そして、見守ってくれる家族。得難いものが一度に手に入っている。


「食った食った。もう無理だ」

「僕もさすがに」

「だらしないねぇ」

 笑顔で見守ってくれる三人目の母。


 洗ったばかりのフィットスキンに腕を通す。上にパイロットブルゾンを羽織ってヘルメットを持った。同じ格好の友人と部屋の前で合流する。

 ミュッセルは真紅に金の差し色が入ったものだが、彼のは灰色に黒の差し色が入ってる地味なもの。コントラストが激しい。


「行ってくるぜ、親父」

「行ってまいります」

「おう」

 テーブルでお茶を飲むダナセルは今日も仕事をすると言っていた。

「まいりましょう」

「隣だ、マシュリ」

「よろしく」

 今日は彼女も整備士(メカニック)として同行する。


 メンテスペースの裏手、中庭でリフトトレーラーに乗り込む。昨夜のうちにレギ・クロウもヴァリアントもキャリアに乗せてあった。始動スイッチ一つで指定どおりクロスファイトアリーナへの道を辿る。


「起こすぜ」


 メイド服の整備士(メカニック)は奇異の目で見られるが、薄暗い機体格納庫(ハンガー)で目を凝らしたものはその美しさに絶句することになる。周囲を圧倒しながら二人は待機に入った。


「おや、今日はマシュリさんもいらっしゃるので」

 見知らぬ男はミュッセルの知り合いか。

「決勝だかんな」

「相変わらずお美しい」

「そう変わるものではございません」

 あしらわれている。

「ミュウ、その人は?」

「気づかねえか? わかるだろ」

「水臭いですね、『狼頭の貴公子』」


 そう呼ばれて理解した。声だけは、もう嫌というほど聞いている。


「リングアナさんでしたか」

「直接は初めまして、グレイ君。フレディ・カラビニオといいます」

 握手を交わす。

「嬉しいかぎりですよ。君のような破格の存在が来てくれると非常に盛りあがる。僕はなに一つ苦労しなくていい」

「そのわりに言いたい放題じゃないですか?」

「それが仕事です」

 言い切られてしまった。


 栗色のカールした髪に碧眼の美男子だった。プロのアナウンサーではなく、元は俳優だったという。言葉巧みで語彙が多いのはそのお陰だと語っている。


「今日もよろしく。上手に頼むね」

 そう言って去っていく。

「ったく、マシュリ目当てに来やがって」

「そうなのかい?」

「こいつのファンなんだよ。仕事に集中しやがれ」


 めったに顔を出さない機体格納庫(ハンガー)にやってきたのは、今日が決勝でいつもマシュリが同行しているのを察していたからだという。長くやっていると妙な人間関係が出来上がっているものだ。


「クラスのうち何人かは観戦に来るって言ってたね。配信組はもっと多いみたい」

 何度も声を掛けられた。

「フラワーダンスの面々は?」

「来るとよ。エナミも楽しみにしてるって言うしよ」

「やっぱりハマっちゃったかな」

 ずいぶんと期待されている。

「親父さんに直訴して観戦させてもらえるようにしたんだとさ。年パス買うって息巻いてやがる」

「こっそり投票券(チケット)買うとか言い出さないかぎりはいいんじゃない?」

「タイプじゃねえと思ったんだがよ、妙なことになってきたぜ」


 急速に仲良くなってきた毛色の違う友人に戸惑っている様子。クロスファイトが人間関係を構築していく。


(ギャンブル要素を除いても楽しめるってのがいいのかもな)


 スポーツの一種だとグレオヌスも思えるようになってきた。

次回『グレイvsミュウ(2)』 「吠え面かかせてやんぜ」

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― 新着の感想 ―
[一言] リングアナさん、イケメンやん……!好! (てっきりナイスミドルかと)笑
[一言] 更新有り難うございます。 メインキャラどうしの戦い。
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