第五百六十五話 食パンだけ=最強
『美味い……』
『本当じゃのう……』
『やっぱり肉はいいなぁ……』
『美味しいねぇ~……』
朝飯の豚丼を噛み締めながらしみじみとそう言うフェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイ。
みんなとは別メニューの俺用あっさり朝食(ちなみに今日は、ワカメと豆腐のお味噌汁におかかと昆布の佃煮のおにぎり、だし巻卵とキュウリの浅漬けだ)のだし巻き卵をゴクリと飲み込みながら、いつもとは違う様子のフェルたちに驚いた。
「どったの?」
そう聞いた俺をジト目で見てくる食いしん坊カルテット。
『どうしたのではない。あんなひどい仕打ちをしておいてからに』
『罰とは言え、昨日のアレはないのう』
『うぅっ。あれ、夢に出てきそうだわ』
『全然美味しくなかったの……』
昨日の食パンだけの夕飯が相当きつかった模様。
「ひどい仕打ちって、罰なんだから当然だろう。というか、だから朝起きてすぐにみんな謝ってきたのか」
そうなのだ。
朝起きたら、フェルもゴン爺もドラちゃんもスイも謝ってきた。
そして、もう二度と種を絶滅させるようなことはしないし、やり過ぎるようなこともしないって誓った。
フェルとゴン爺の年長者組は、『これからはちゃんと周りを見て行動する』とも誓ってくれたよ。
それもあって、朝食はいつも通りにとなったわけだ。
「こりゃ予想以上に効果絶大だな。なんかあった時には使えるな」
そうボソリとつぶやくと、フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイがビクッとした。
『や、やめてくれ。あんなのはもう食いたくない』
『うむ。あんなのは二度と御免じゃ。あれはまったく味がしないからのう。いや、噛めば多少甘味はあるが、それだけじゃし……』
『俺は食えば食うほど口の中の水分がもっていかれるのに絶望したぜ……』
『あんなご飯いやぁ~』
昨日の食パンだけ夕飯を思い出したのか、フェルは全身の毛をモワッと逆立てているし、ゴン爺はうつろな目をしているし、ドラちゃんは表情を失くしているし、スイに至っては今にも泣きそうになっている。
「えー、そんなにかよ。野菜たっぷりの食事よりも嫌なのか?」
『あれはまだ良い。嫌いなものとはいえ、ちゃんと味があるからな』
『うむ。主殿に料理されているからのう。しかし、昨日のは……』
『そりゃ肉が一番好きだけど、野菜が食えないわけじゃないからな』
『あるじの作ったお野菜のお料理は美味しいもん……』
肉至上主義の食いしん坊カルテットにしても、昨日の食パンだけ夕飯よりは野菜たっぷりな食事の方がまだマシらしい。
完全にトラウマになってるじゃん。
おいおい、“食パンだけ”最強だな。
そんなこともあって、今日の朝飯はみんないつもの倍くらい食って追加で作るのが大変だったけれど、チャッチャと作ったただの豚丼なのに、いつもと違ってよーく味わうように噛み締めながら食っているみんなの姿にちょっとだけクスッとしてしまう俺だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ハァ~……。あの秘境だったとはのう……」
「ハハハ、こいつ等以外誰も行くことは叶いませんね……」
俺たちは王都の冒険者ギルドに来ていた。
昨日、王都冒険者ギルドのギルドマスターのブラムさんに、俺たちが行ったカルデラについてもっと細かく聞き取りをしたいと言われていたのだ。
それで、今日もこちらに訪れて、ブラムさんとカレーリナのギルドマスターであるヴィレムさんを聞き手に、途中、フェルやゴン爺にも話に加わってもらいながら、いろいろと細かくあのカルデラのことを話したところだった。
その話で、二人には場所が特定できたようだ。
俺たちが行ったカルデラは、ジェールトヴァ山という年中極寒の山にあり、その山の麓からして高ランクの魔物が跋扈する高ランクの冒険者でさえもめったに足を踏み入れない秘境らしい。
「「というか、そんな所にまで行っていたとはのう(な)……」」
俺たち、いつの間にか国越えしていたみたいです。テヘ。
そのジェールトヴァ山というのは、旧レイセヘル王国とクラーセン皇国の二国にまたがって聳え立つ山らしいのだ。
ハハ、そんな遠いとこまで行ってたんだ……。
それもこれも、機動力抜群のゴン爺がいるせいだな。
あ、そうだ。
昨日言いそびれちゃったあのことも一応伝えておかないといけないか。
「えーとですね、お渡しした中で一番大きい恐竜を覚えていますか?」
「最後にお前が解体してほしいって追加で置いていったもんだろ」
「あれなら、嬉々として彼奴が徹夜で解体しておったぞ」
マジで徹夜で解体作業してるんだ、エルランドさん……。
って、それは今はいいとして。
「えーと、あの恐竜、絶滅しました」
「「…………………………は?」」
たっぷりと間を空けてから、意味が分からないというような声を出す二人のギルドマスター。
「ですからね、絶滅したというか、絶滅させたというか」
チラチラと二人を見ながら、俺はそう言った。
「「…………その話、じっくりと聞かせてもらおうか」」
「はぃ……」
再びかくかくしかじかとできるだけ細かくお話させていただく。
要はうちのみんながハッスルしてやり過ぎてしまったということなんだけども。
「「ハァ~」」
話し終えてから、二人とも同時に深いため息を吐いた。
「いえね、そもそもあの恐竜は数が少なかったみたいで、というか7頭しかいなかったようで……」
「だからこそ絶滅させちゃあマズいんだろうが」
「お主らが行かなければ絶滅などしなかったんじゃろうがのう」
ごもっともです。
「とは言っても、そもそもがお主らしか行けぬ場所だからのう」
「効能を考えると、絶滅してしまったのは多少残念ではありますがな」
「え? 効能って?」
二人が言うのには、只今エルランドさんがせっせと解体している“スーパーサウルス”だが、エルランドさんに鑑定の魔道具を貸し出して各部位についても調べさせたらしい。
さすが王都の冒険者ギルド。
鑑定の魔道具を所持しているそうだ。
「詳しい調査は後にするにしても、新種ということもあって、事後承諾になるが各部位についての鑑定だけはさせてもらったわい」
「はい、それはもちろん大丈夫です。というか、あれ、なんか効能というか、あったんですか? 肉は硬いって話だったし、皮も硬いみたいですけど……」
ブラムさん曰く、「さすがにドラゴンほどの効能はないようじゃが、あれも捨てるところがないほどに血から内臓から薬効があるようじゃぞ」とのことだ。
鑑定結果からいくと、エリクサーの材料にもなりえる素材なのだとか。
ただし、この“スーパーサウルス”を材料に使った場合は、ドラゴンを材料に使ったエリクサーが病気・ケガ・欠損部位など何でも治す万能薬的な完全バージョンだとすると、それよりも一歩劣るケガや欠損部位を治すのみのエリクサーが出来上がるらしい。
「詳しい検証は必要じゃろうが、効能からいくと薬師どもがこぞって手に入れたいと思う素材なのは間違いないのう」
「特にここ王都は薬師もたくさんいる上に、そういう素材に目がない薬師も多い。知ったならば、薬師共がここに押し寄せてきそうですな」
ほ~、そうなのか。
恐竜ってやっぱ“竜”ってついているくらいだから、この世界ではドラゴンの親戚みたいな関係なのかも。
まぁ、デミウルゴス様が勢いで創っちゃったくらいだから、その辺の設定は曖昧なのかもねぇ。
「そういうこともあって、本来なら血から内臓から手に入れたいところなのじゃが、予算の関係上どうしてものぅ~」
そう言いながら眉間にしわを寄せながら唸るブラムさん。
リヴァイアサンの素材のこともありますもんね~。
って、俺たちが持ち込んだものでお世話かけてホントすみません。
「ええと、あと5頭残っているので、予算に余裕ができたときに言ってもらえればお売りすることはできると思います」
そう言うと、ブラムさんがクワッと目を見開いて「ホントか?!」と迫ってくる。
「え、ええ。と、特に、今すぐどうこうする予定はないので」
「そうか、そうか! では、その時は頼むのう!」
なんかむっちゃ機嫌よくなった。
よし、なんかのはずみで引き留められたりする前に今のうちに帰っちゃおう。
「それじゃあ話も済んだので、もうそろそろお暇させていただきます」
「うむ。そうじゃ、もうそろそろ解体も終わっておるじゃろう。帰りには倉庫に寄っていくといいぞい」
うへぇ、徹夜でって言ってたけど、もうそんなに進んでるんだ。
やっぱりエルランドさんの仕事ぶりは侮れんな。
変態だけど。
倉庫に行くと、目の下にクマを作ったエルランドさんが笑顔で迎えてくれた。
「ムコーダさん、いらっしゃい! 解体、終わってますよ~」
「はい、それを聞いて来たんですけど……。ホントに徹夜で解体作業したんですね」
「もちろん! こんな楽しいことを翌日に持ち越すなんて、もったいないですよ!」
目の下にそんな濃いクマを作ってまで作業するその根性だけは認めるよ。
「まったく、普段の仕事もこれくらい熱心にしてくれるといいんだけどねぇ……」
エルランドさんと同じく目の下に濃いクマを作ったモイラ様がそうボヤいた。
監視でモイラ様も完徹したんですね。
ご苦労様です。
「それじゃあ受け取りを」
「承知しました!」
肉から始まって、皮、骨、いくつもの壺に入った血、壺に入った心臓や肝などの内臓、牙等々。
出されたものを次々とアイテムボックスの中へとしまっていく。
そして、最後に鋭い爪が出てきた。
何本かあるそれをアイテムボックスにしまっていくが、最後の一本からエルランドさんが手を放さない。
「ええと、エルランドさん?」
「…………」
「手、放してもらえませんかね」
「…………」
エルフだから美形とはいえ、涙目のおっさんに見つめられても嬉しくないんですけど。
「何やってんだい! 手を放しな!」
モイラ様にべチンッと殴られるエルランドさん。
これは自業自得だわな。
「だって、モイラ様~」
「だってじゃないよ! あんた、買い取る金はあるのかい?!」
「そ、それはっ……」
エルランドさん、この間ドラゴン素材買いましたもんね。
「あーっと、これはすぐにどうこうするつもりはないんで、金が貯まったら言っていただければお譲りしますよ」
そう言うと、パッと顔色を明るくするエルランドさん。
「ホントですか?!」
「え、ええ」
「ムコーダさん! やっぱりあなたは私の親友です~! 絶対、絶対に買わせていただきます!」
いや、親友じゃないってば。
「さあモイラ様、仕事っ、仕事ですよ~! 私にはあの素材を買い取るという使命があるのですから!」
「ったく、なんなんだいあいつは」
モイラ様、ガンバ。
心の中でそう応援しつつ、そそくさと倉庫から出ていく俺たちなのであった。
「しかしお前らって、こういう時になると静かだよなぁ」
隣を歩くフェルたちにそうボヤくと、『当たり前だ』と返ってきた。
『そんな面倒そうなところに首を突っ込むやつがいるか』
その気持ちは分かるよ。
それは分かるけど、そういう時だけ調子いいよな~お前ら。




