第三百九十八話 栄養満点ポークビーンズ
いつの間にやらシリーズ累計30万部突破いたしました!
これも読んでいただいている皆様のおかげです。
そして、なんと5巻の重版も決まりました!
お買い上げくださった皆様本当にありがとうございます。
これからも『とんでもスキルで異世界放浪メシ』を是非是非よろしくお願いいたします!
「とまぁこんな感じだな」
院長の爺さんの話によると、やはりというか孤児院の経営はカツカツで自転車操業状態と言ってもいいものだった。
基本的に孤児院の子たちは14歳でここを出て独り立ちをすることになっているそうなのだが、出ていく子どもよりも新たに入ってくる子どもの方が多いのが現状なのだそう。
親を亡くしてしまった子どもや、様々な理由で生活が立ちいかなくなってせめて子どもだけでもという親の意向で連れてこられた子ども、いずれにしろこういう子どもたちがいなくなるということはない。
そんなこともあり、子どもたちは11歳から12歳くらいから実益と職業訓練のために働き始めるそうだ。
商人やら料理人、職人などになりたい者は、孤児院や教会の伝手を使ったりさらには自分たちから売り込みをかけたりして仕事を得るという。
冒険者になりたい者は、元Aランク冒険者でもある爺さんからみっちりと冒険者としての基礎を仕込まれるそう。
そのうえで街の外で薬草採取などに励むのだという。
もちろん、街の外とは言っても街にすぐに逃げ帰ることができる極近い場所に限るうえに、森の中へ入ることは厳禁だと爺さんのお達しの上でだが。
冒険者ギルドで冒険者でなくても一応買取はしてくれるから(もちろん多少買い叩かれることにはなるようだけど)、それで金が得られるというわけだ。
とにかくだ、そうして得た収入の半分は孤児院に、残りの半分はそれぞれ自分たちが独り立ちをするときの資金にするのだそう。
この孤児院では、手伝いに来るシスターたちに頼んで簡単な読み書き計算は指導してもらってるとのことで、それもここの子どもたちが独り立ちするときに大いに役立っているようだ。
俺も爺さんに聞いて初めて知ったけど、宗教職に就く者はある程度学業を修めた者が多いということで簡単な読み書き計算は教えることも可能なのだそう。
「だからな、ここの出身者は評判がいいんだぜ」
爺さんが少し自慢げにそう言った。
実際、将来有望と認められた子どもは、14歳を待たずして丁稚に出る場合もあるという。
「まぁそういうのを聞きつけてなのか、わざわざここに子どもを預けていく親も多いのが悩みの種ではあるんだがな。年々子どもも増えていく一方で、今は食わせていくので精一杯だぜ」
そうボヤく爺さん。
孤児院の資金のほとんどが食費に消えていく有り様なのだという。
育ち盛りの子どもたちの腹を満たすには、質より量が肝心。
限られた少ない予算の中でも何とか数を揃えられる食材、イモやら固い黒パンが食卓に上る日々が孤児院では当たり前になっているそうだ。
「とりあえず腹を満たすことを優先すると、どうしてもそうなっちまうからな。子どもらには不評だが、贅沢は言ってられねぇさ」
そういえばさっきのコルネ少年も味の薄いイモのスープにカチカチに固いパンとか言ってたなぁ。
そんなんばっかり毎日出てくるなんて不憫過ぎるぜ。
って、俺、肉ダンジョン産の肉をたくさん持ってるんだから、それでご馳走するのもアリだな。
大したものは作れないけど、味の薄いイモのスープにカチカチに固いパンよりかは大分マシだろう。
ちょうどローセンダールの孤児院で仕入れたパンも大量にあるしね。
子どもたちはこんな食生活なんだから、たまにはちょっとした贅沢をしたっていいと思うんだ。
そのことを爺さんに話してみると……。
「本当か?! 子どもたちが喜ぶだろうぜ。是非ともお願いする」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
爺さんに案内された孤児院の調理場。
使い勝手が悪そうなうえ、かまど式だった。
「うーん、古い建物だからしょうがないか。それならそれで……」
俺は愛用の魔道コンロを取り出した。
そして、いつものようにネットスーパーを開く。
爺さんには俺一人で大丈夫だからと言って送り出しているから問題ない。
「さて、何を作るかな。子どもに食わせるんだから、栄養があるものがいいよな。それに量も必要だろうから大量に作れるものがいい」
食べ盛りの子どもたちに食わせるんだから栄養と量が必要だ。
となると……。
「あ、ポークビーンズなんていいかもしれない」
ポークビーンズ。
アメリカの代表的な家庭料理で、よく映画なんかにも出てくる料理だ。
映画で観てどんな味なんだろうと思って調べて自分でも作ってみたことがある。
要は豆の入ったトマト煮込みだ。
その名のとおり、豆をたっぷり使うし野菜もたっぷりで栄養満点で子どもたちに食わせるにはピッタリの料理だろう。
よし、作るのはポークビーンズで決まりだな。
「そうと決まれば必要なのは……」
まず購入したのはヒヨコ豆の水煮だ。
こっちの世界では、豆というとヒヨコ豆に似たヒヨ豆というのがよく使われる。
だからヒヨコ豆の水煮は欠かせない。
それから大豆に似たソヨ豆というのも割と見かけるので、大豆の水煮も今回使うことにした。
あとはタマネギ、ニンジン、ジャガイモ、ニンニクとホールトマト缶だ。
「さあてと、調理開始だ。まずは肉からだな」
アイテムボックスからダンジョン豚の肉を取り出して1.5センチ角くらいに切って塩胡椒をする。
その後は、タマネギ、ニンジン、ジャガイモを1センチ角の角切りにして、ニンニクはみじん切りに。
ヒヨコ豆と大豆の水煮は水気を切っておく。
鍋にオリーブオイルを引いてニンニクのみじん切りを入れ熱し香りが出たら、ダンジョン豚の肉を炒めていく。
ダンジョン豚の肉の色が変わったところでタマネギ、ニンジン、ジャガイモを入れてさらに炒めていく。
野菜がほんのり透き通りある程度火が通ったところで、つぶしたホールトマトと水、それからコンソメを入れて煮立たせる。
煮立ったところでヒヨコ豆と大豆の水煮を入れて、あとは野菜が柔らかくなるまで煮込んで最後に塩胡椒で味を調えれば出来上がりだ。
味見をしてみると……。
「うん、野菜の甘みが溶け込んでこれなら子どもも好きな味になってるんじゃないかな。豆がたっぷり入ってるから栄養満点なうえに食べ応えもあるしね」
『あるじー、それスイも食べたいなぁ~』
いつの間にか起き出していたスイの期待のこもった声が頭の中に響いた。
「あー、これはここにいる子たちのために作った分だから少しだけだよ。スイたちの分は帰ったらちゃんと作るから」
『うん、分かったー』
いつもより少ない量のポークビーンズを盛った皿をスイの前へ。
「どうだ?」
『お肉がちょっと少ないけど美味しいよー。お豆さんも美味しい!』
「そっかそっか、良かったー」
肉も多めに入れたつもりだけど、栄養を考えてそれ以上に豆と野菜をたっぷり入れたからね。
スイのお墨付きももらったしまず合格かな。
院長室にいた爺さんに料理が出来た旨を伝えると、すぐさま子どもたちに声をかけてくれた。
そして、古くはあるが広い食堂にワラワラと集まってくる子どもたち。
俺と院長の爺さんはそれを立って見ていた。
「今日はな、特別にこの兄ちゃんが美味い昼飯を作ってくれた。感謝していただくように!」
「「「「「「はーい」」」」」」
そう元気な声がすると、ダダダッと配膳台に押し寄せる子どもたち。
しかし、厳しい爺さんがいるからかきちんと並んでいるところは可愛いものだ。
学校給食を思い出す様相だな。
そして配膳を担当するのは、年のころは16、7歳だろう見習いシスターの初々しい美少女2人組。
配膳はいつも見習いシスターが担当するということでこうなった。
ここまでこの2人を見かけなかったのは、商人になりたい子たち向けの追加の授業をしていたかららしい。
そんな中、疲れた様子のフェルとドラちゃんが食堂にやってきた。
フェルには少々狭い戸口のようだったが何とか壊さずに済んだ。
『ひどい目にあった……』
『ホントだぜ……』
フェルもドラちゃんもすぐにグデンと寝そべった。
『おい、我にも飯だ飯。飯を食わねば持たんわ』
『俺も飯ー』
『えとな、これは子どもたちの料理だから、お前たちの分はそんなに用意してないんだ』
念話でそう言うとガバリと起き上がるフェルとドラちゃん。
『何だと?!』
『お前が言うから小童の相手をしてやったのだぞ!』
『あー、でもこれ野菜たっぷり入ってる煮込みだぞ』
『ぐぬぬぬぬ、野菜か……』
『肉が食いてぇ……』
『まぁまぁ、帰ったらフェルとドラちゃんとスイの分はちゃんと作るから、ここはちょっとだけ我慢してよ』
『肉だぞ。肉を食わねばやってられん』
『そうだ、肉だぞ肉!』
『はいはい、分かってるって』
元気な子供たちは余程フェルやドラちゃんを疲れさせたようだ。
伝説の魔獣も形無しだね。
そんなことを考えながら、フェルとドラちゃん用にとっておいたポークビーンズの載った皿をそれぞれの前に置いた。
『うむ、味はまぁまぁだがやはり肉が食いたいな』
『ああ。疲れた体にはやっぱ肉だよ肉』
ハハ、フェルとドラちゃんの元気の源は肉ってことか。
『スイも食べたいなぁ……』
『んーでもスイはさっき食ったでしょ。もう残ってないしさ。帰ったら作るからちょっとだけ我慢してくれる?』
『うん、スイ我慢するー。だからスイにもお肉いっぱい食べさせてねー!』
『ハハハ、分かりました』
スイの元気の源も肉ってことだな。
そうこうしているうちに子どもたちへの配膳も終わり、子どもたちがポークビーンズをパクつき始めた。
「おイモ以外の野菜がいっぱい入ってる!」
「お肉が入ってる!」
「美味い!」
方々から嬉しそうな声があがった。
何より子どもたちみんなが美味そうにパクパク食ってるのを見ると嬉しいものだ。
それに見習いシスターの美少女2人組もキャッキャ言いながら美味そうに食ってくれていた。
かわええなぁ……。
「おい、鼻の下が伸びてるぞ。言っておくが、手、出すなよ」
隣にいた爺さんが俺を睨みながらそう言った。
「な、な、何言ってるんですかっ。手なんて出しませんよ!」
美少女2人組は目の保養になるだけだ。
断じて手なんて出しませんよ。
だいたい元の世界の倫理観があるから、女子高生と同じくらいの子になんか手なんて出せないって。
「ま、それならいいけどよ」
「そ、そんなことより院長さんは食わないんですか?」
「俺は最後にいただくわ」
「そんなこと言ってたらなくなっちゃいそうですよ」
多めに寸胴鍋2つにポークビーンズを作ったんだけど、子どもたちの食いっぷりは予想以上でほとんどの子がおかわりしていく。
「それならそれでいいさ。みんなあんなに美味そうに食ってんだからよ」
そう言って院長の爺さんは嬉しそうに子どもたちを見つめていた。
ホント、この爺さん厳つい顔に似合わず優しい爺さんなんだな。




